妊娠中にパートナーや家族による家事・育児の支援が足りないと、産後うつ病になるリスクが増す――。酪農学園大学の研究グループが、そんな調査結果を発表した。世帯年収別に分析したところ、低収入でも高収入でも同じような傾向があったという。産後うつ病は子どもの虐待につながりかねないとも言われ、母子関係に負の影響を及ぼす恐れがある。研究グループは「経済的な状況に関係なく、うつ傾向があるときは、ためらわずに様々な支援に頼った方がいい」と指摘している。

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    産後うつ病は母体だけでなく、子どもの健全な発育にも悪影響が出る恐れがある

酪農学園大学・食と健康学類の小林道(とおる)教授(栄養疫学)は、管理栄養士として陸上自衛隊で働いた経験がある。自衛隊員の中にはうつ病にかかる人もおり、栄養と精神的な健康の関係について考えるようになった。退官後、うつ病と食事などの関係について広く研究を始めた。

産後うつ病は7人に1人がかかるとされ、産後4週以内に発症し、症状は2週間以上続く。マタニティブルーズより長いことから、母親の心身への影響のみならず、母親が子どもへの関心を失うと、子どもの情緒や社会性にも問題が生じる恐れがある。深刻な場合には母子心中につながりかねないため、母親を含め家族全体への支援が大切だ。

小林教授のこれまでの研究では、妊娠中の食生活について、夜によく間食をする妊婦や、店で購入したお弁当やお惣菜を頻繁に食べる妊婦の方が産後うつ病になりやすいことが分かっている。糖質や炭水化物の食べ過ぎなど、栄養バランスの偏りが産後うつ病を引き起こす恐れがあることを示唆しているという。

今回の調査は妊娠中の生活習慣に着目し、産後うつ病の発症リスクとの関係を探った。酪農学園大学がある北海道江別市の妊婦645人を対象に、2019年7月~22年7月の3年間にわたって、妊婦の家庭の状況や食生活を含めた暮らしぶりを調べた。

加えて、妊娠中・出産後に受診した医療機関でも調査した。「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」を用いて、「不幸せな気分だったので、泣いていた」や「することがたくさんあって大変だった」などの10項目について4段階で自己評価してもらい、産後うつ病の疑いを客観的に評価した。

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    世帯年収で3群に分け、妊娠中の支援が産後うつ病リスクに及ぼす影響を調べた(酪農学園大学提供)

厚生労働省の国民健康・栄養調査に合わせ、調査対象の妊婦を世帯年収ごとに「400万円未満」「400万~600万円未満」「600万円以上」の3群に分けて産後うつ病のリスクを分析した。その結果、収入の多い群と少ない群で、妊娠中にパートナーや家族による家事・育児の支援が不十分な人は、支援が十分な人に比べて産後うつ病のリスクが有意に大きかった。経済的な状況に関わらず、周囲がしっかり妊婦をサポートすることで、産後うつ病の発症リスクを抑えることにつながる可能性があるという。

小林教授は「日本では女性に家事や育児の負担が偏る傾向があるため、年収が多くても少なくても、手伝いがなければ産後うつ病になる危険性のあることが明らかになった。これは社会病理でもあるといえる。近年は物価が上がっており、世帯年収が600万円では子育てが難しいケースもあるため、収入を支える父親が手伝いたくても手伝えないなどの課題がある」と話す。核家族化や長時間労働といった社会的な問題が大きく、家事や育児から母親が解放されるのは現実的には難しい面もある。

他方で、保育所の充実をはじめ、こども家庭庁の設置や自治体による子育て支援策の実施、保健師の訪問など様々なサービスがある。「ただ、公的サービスを広報しても本人に届かなかったり、行政とのやり取りが苦手だったり、サービスを利用しようという考えが思いつかなかったりすることもある。女性が家事や育児を中心的に担う日本の風土や文化はすぐには変えられないが、今ある資源で対応する方法が最も効果的だと思う」と、小林教授は指摘する。

今回の研究は、パートナーや家族による支援の評価について、妊婦の主観に大きく依存している面がある。今後は客観的な指標によって産後うつ病リスクを評価するなど、産後うつ病をより減らせるような方策を多角的な視点で考えたいという。

研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業の助成を受けて実施した。成果は英国の科学誌「サイコロジー ヘルスアンドメディスン」電子版に3月17日に掲載され、同18日に酪農学園大学が発表した。

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