東北大学は4月3日、竹シートと微生物由来の海洋生分解性ポリマー「ポリ(3-ヒドロキシブタン酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)」(PHBH)を熱圧縮により積層した新しいグリーン複合材料を開発し、積層構成を最適化によって引張強度71.2メガパスカル(MPa)という、PHBHおよび竹それぞれの単体材料を上回る優れた力学性能を達成したほか、コンポスト環境では45日間で約45%の生分解が進行し、それに伴う力学特性の低下を定量的に捉えることに成功したと発表した。

同成果は、東北大 工学部 材料科学総合学科のRova Lovisa助教、東北大大学院 環境科学研究科のDas Snigdha大学院生、同・王真金助教、同・栗田大樹准教授、成田史生教授(工学部 材料科学総合学科兼担)らの共同研究チームによるもの。詳細は、高分子の劣化と安定性を扱う学術誌「Polymer Degradation and Stability」に掲載された。

海水環境下での分解挙動の予測結果も明らかに

近年、プラスチックによる環境汚染は、世界的に深刻な問題となっている。海洋のマイクロプラスチック問題や、さらに微小なナノプラスチックが人体へ悪影響を及ぼす懸念も浮上している。石油由来のプラスチックの多くは自然環境で分解されず蓄積し続けるため、バイオ由来でかつ生分解性を持つ代替材料の創出が急務となっている。

しかし、既存の生分解性ポリマーは剛性や強度、耐久性の面で石油由来製品に劣る場合が多く、完全な代替えが容易ではない。この課題を解決するため、天然由来の補強材を組み合わせて機械的性能を底上げしつつ、使用後には環境負荷を抑えて分解する「グリーン複合材料」の設計が世界的に重要視されている。

そこで研究チームが今回着目したのが、軽量・高剛性・高強度などの特性を有し、成長が極めて早く、再生可能な天然資源である竹だ。これを、土壌や海水など多様な環境で分解される生分解性ポリマーのPHBHと組み合わせることで、高性能と環境調和性を両立する新材料の実現を目指したという。
  • 竹-PHBH複合材料の積層構造と試験片形状

    竹-PHBH複合材料の積層構造と試験片形状。(a)PHBH1層と竹2層による「P1B2構成」、PHBH2層と竹3層による「P2B3」構成の模式図、および(c)引張試験に用いた試験片の形状。(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究では、竹シートとPHBHシートを熱圧縮により積層化した複合材料を作製し、まず力学特性に対する積層数や配向の影響が詳細に調査された。その結果、PHBH1層を竹2層で挟んだ「P1B2構成」が最高の性能を示し、素材を引っ張った時にどれだけ伸びにくいかを表すヤング率が1.19GPa、どれだけの力で壊れるのかを表す引張強度71.2MPaが記録された。これは、PHBH単体(21.4MPa)や竹単体(61.8MPa)を大きく上回る値であり、竹とPHBHの積層構造による相乗的な補強効果が実証された形だ。

  • PHBH、竹、および竹-PHBH複合材料の応力-ひずみ曲線

    PHBH、竹、および竹-PHBH複合材料の応力-ひずみ曲線。(出所:東北大プレスリリースPDF)

また、走査電子顕微鏡による断面観察では、P1B2構成において竹繊維がPHBH中に良好に埋め込まれ、応力伝達に効率的な構造が形成されていることが判明した。一方で、積層数を増やして厚みを増すと、界面の接着不全による層間剥離が生じやすくなり、かえって性能が低下することも明らかにされた。天然素材を増量すればよいわけではなく、界面と積層構造の緻密な最適化が不可欠であることが示された。

次に、環境負荷への耐性を評価するため、コンポスト環境での生分解試験が実施された。その結果、P1B2構成の材料は45日で約45%が生分解され、試験片の外観も暴露時間に応じて変化することが確認された。使用後には、自然界の微生物によって着実に分解が進むことが確認されたのである。

  • 竹-PHBH複合材料(P1B2構成)の外観変化

    竹-PHBH複合材料(P1B2構成)の外観変化。(a)作製直後の状態と、(b)コンポスト環境で5週間曝露した後の様子。分解の進行に伴い、表面に著しい変化が生じている。(出所:東北大プレスリリースPDF)

また、分解の進行に伴ってヤング率と引張強度が著しく低下し、特に引張強度保持率が生分解度に対して指数関数的に減少した。研究チームでは、この挙動をポリマーの分子鎖がランダムに切断される理論に基づいて解析。分子レベルの分解減少と、材料としてのマクロな力学劣化を紐付ける理論モデルの構築に成功したとする。

  • 竹-PHBH複合材料における生分解度と引張強さ保持率およびヤング率保持率の関係

    竹-PHBH複合材料(P1B2構成)における生分解度と引張強さ保持率およびヤング率保持率の関係。図中の数式は、分解進行と強度低下の理論的関係を示す。ここで、σ0は初期引張強さ、σresは長時間分解後に残る引張強さ、Dは生分解度、D0は分解発現閾値、βは引張強さの低下と分解進行の関係を表す係数である。(出所:東北大プレスリリースPDF)

さらに研究チームは、分解の進行に伴う強度低下の速度や、長期分解後に残存する強度、劣化が顕在化し始める初期段階を同時に表現可能な数理モデルも提案。これにより、生分解性複合材料が実用環境でどの程度の期間、機能を維持できるかという「機能寿命」を理論的に予測する手法が確立されたとした。

続いて、より過酷な海水環境および温水条件で浸漬試験が実施された。その結果、いずれの環境でも力学特性の低下が確認された。特に海水環では強度の低下が顕著であり、塩類や微生物がポリマーの鎖切断や竹-PHBH界面の劣化を加速させている可能性が示唆された。具体的には、海水中でヤング率が43.7%、引張強度が50%低下した一方、温水条件ではそれぞれ30%と26%の低下に留まった。

また、海水魚を飼育する水槽内に試料を19週間曝露した試験では、魚類への有害な影響は観察されなかったとした。この結果は、今回開発された材料が海洋・沿岸環境での使用においても、環境安全の面で極めて有望であることを裏付けるものだという。

  • 海水環境における曝露試験の様子

    海水環境における曝露試験の様子。海水魚を飼育する水槽内で竹-PHBH複合材料の劣化挙動を評価し、同時に海洋生態系への安全性を確認した。(出所:東北大プレスリリースPDF)

  • 竹-PHBH複合材料の水環境中における分解進行の推定結果

    コンポスト試験で得た相関に基づく、竹-PHBH複合材料の水環境中における分解進行の推定結果。(a)引張強度保持率と生分解度の相関を直接用いて求めた海水および温水条件(水道水)での推定生分解度。(b)環境条件の違いを考慮して補正したモデルによる推定生分解度。(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究の特徴は、コンポスト試験で直接測定した生分解度と引張強度保持率の相関を基準とし、直接的な測定が困難な海水環境などにおいても、力学特性の変化から分解の進行を推定できる理論式を導き出した点にあるとする。これにより、材料の分解性だけでなく、想定される期間、想定される使用環境下での耐用年数を設計段階で見極めることが可能になるという。また今回の知見は、竹とPHBHの組み合わせに限らず、他の天然由来の補強材と生分解性ポリマーを用いたグリーン複合材料全般に広く応用できる可能性があるとした。

研究チームは今後、竹の配向や成形条件をさらに突き詰め、必要な期間だけ性能を保ち、役目を終えると速やかに分解する“機能寿命設計型”材料の実現を目指すとする。海水や土壌、コンポストなど、環境ごとに異なる分解メカニズムの解明を進め、寿命予測の精度さらに高めていく予定とした。これらの取組により、包装材や農業用資材、海洋・沿岸関連製品など、環境負荷低減と機能性を両立した持続可能材料の社会実装が進むことが期待されるとしている。