京都大学(京大)と九州大学(九大)の両者は4月1日、優れた半導体特性を持つものの、光や酸素に弱く劣化しやすいことが課題だった有機分子「ルブレン」の構造を改良し、骨格内に七員環を組み込んだ新しい有機半導体材料「縮環ルブレン」の開発に成功したと共同で発表した。
同成果は、京大大学院 工学研究科の久田雅人大学院生(研究当時)、同・清水大貴助教、同・松田建児教授、同・筒井祐介助教、同・関修平教授、理化学研究所 創発物性科学研究センターのKirill Bulgarevich研究員、同・瀧宮和男チームリーダー、九大 理学研究院の宮田潔志准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する旗艦学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
有機半導体は、炭素を主成分とする有機化合物でありながら、シリコンなどの無機半導体のように電気を流す性質を持つ材料だ。軽量かつ柔軟性に富み、インクジェット技術を用いて塗布・印刷プロセスによる安価な電子デバイスの作製が可能なため、次世代のディスプレイや太陽電池を実現できる材料として大きな期待を集めている。
通常、ルブレンは炭素原子が六角形に並んだ構造で構成されており、このような構造はベンゼンやグラフェンといった炭素系化合物によく見られる六角環骨格であり、平面状の物質を形成する特徴がある。一方、この炭素骨格中に七角形(七員環)のような非六員環構造を組み込むと、分子は平面から鞍型やねじれ型へと湾曲する。このような曲がった構造を持つ芳香族化合物は、その曲がり具合(曲率)に応じて特異な性質を示すことが知られていた。
だが、高性能なルブレン骨格にこれを適用し、その安定性や機能の変化を詳細に解明した例はこれまでに存在していなかったとする。そこで研究チームは今回、これまで複数の七員環構造を導入した分子を合成・調査してきた経験を基に、縮環ルブレン分子をターゲットとした研究を開始したという。
これまで有機合成化学の分野で七員環構造の構築に広く用いられてきた酸化的な合成手法をルブレンに適用しても、目的の縮環ルブレン分子が得られないことはすでに報告されていた。そこで、還元的な条件である「山本カップリング反応」を利用し、ルブレンに七員環構造を導入する独自の合成経路を開発し、縮環ルブレン分子を得ることに成功したとする。
X線構造解析により、この新分子「縮環ルブレン」には曲がり方として、「鞍型」と「ねじれ型」という異なる2つの状態が存在することが解明された。この2つの構造を持った分子は分離することができ、熱によって互いに入れ替わる性質も確かめられた。
次に、縮環ルブレン分子の光照射に対する安定性が評価された。従来のルブレンが3.3時間で半分まで分解してしまう条件下において、縮環ルブレン分子の半減期は約5日間(鞍型)から約3週間以上(ねじれ型)と、大幅に安定性が増すことが明らかにされた。
最後に、観測された分子の曲がり方による安定性の違いの由来が、量子化学計算を用いて評価された。さらに、鞍型縮環ルブレン分子を用いた単結晶トランジスタにおいて、ルブレンに匹敵する5.33cm2/Vsという高い電荷移動度が達成された。また、ねじれ型縮環ルブレン分子の薄膜では、1つの光子から2つの励起子(電気の元)を生み出す「一重項励起子分裂」と呼ばれる現象が、7.2ピコ秒という極めて高速に進行することが発見された。
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(a)縮環ルブレン分子とルブレンの光耐久性の比較、(b)鞍型縮環ルブレン分子のFETデバイス特性、(c)ねじれ型縮環ルブレン分子の過渡吸収スペクトルと生じた励起三重項種の減衰。(出所:京大プレスリリースPDF)
今回の研究により、骨格に七員環を導入し形状を制御することで、高性能だが不安定だった有機材料に安定性と高性能を両立できることが実証された。分子の曲がり具合を調整することで、半導体としての性能や光への応答性を自在に操れる可能性が示されたとした。
また、今回合成された構造は、理論的に存在が予測されている未知の三次元炭素材料「シュワルツァイト」の部分構造にも相当する。シュワルツァイトは、数学的に定義された「負の曲率」を持つ周期的な最小曲面(シュワルツ面)に沿って、炭素原子が配列した未知の三次元炭素材料のことだ。グラフェン(平面)、カーボンナノチューブ(筒状)、フラーレン(球状)に続く、新たなナノ炭素材料として理論的に予測されている。
シュワルツァイトはまだシミュレーションでしか存在しないが、極めて大きな表面積を持ち、内部にトンネル構造を有するため、数秒でフル充電できるような超高性能な次々世代エネルギー貯蔵デバイスなどが期待されている。今回の成果は、この未来のナノ炭素材料の実現に向けた重要な一歩にもなるとしている。

