• カイロスロケット3号機の打ち上げの様子 (C)鳥嶋真也

    カイロスロケット3号機の打ち上げの様子 (C)鳥嶋真也

2026年3月5日、スペースワンの小型ロケット「カイロス」3号機は、和歌山県串本町のスペースポート紀伊から打ち上げられたものの、打ち上げ後69秒で飛行中断となった。

これでカイロスは、2024年3月の1号機、同年12月の2号機に続いて、3回連続で衛星の軌道投入に失敗したことになる。

今回の結果は、小型ロケットによる専用打ち上げ事業の難しさと、日本におけるその可能性をあらためて考えさせるものとなった。

カイロスロケット3号機の打ち上げを振り返る

カイロスロケット3号機は5日11時10分00秒、和歌山県にある自社射場「スペースポート紀伊」から打ち上げられた。当初は順調に飛行していたものの、離昇から68.8秒後、1段目固体ロケットモーターの燃焼中に、自律飛行安全システムによる飛行中断措置が行われた。

この時点でロケットは高度約29km、射点から南に約20kmの位置を飛行していた。ロケットと搭載していた衛星は破片となり、射点の南約150kmの海上に落下したと推定されている。同社によると、人的・物的被害は確認されていない。

  • 飛行中断措置直後とみられるカイロス3号機の写真 (C)鳥嶋真也

    飛行中断措置直後とみられるカイロス3号機の写真 (C)鳥嶋真也

打ち上げ後の記者会見で同社は、機体に搭載した自律飛行安全システムが異常を検知したため、飛行中断措置が行われたと説明した。自律飛行安全システムは、ロケットが飛行中の状態を監視し、異常が起きたときにコンピューターが自動的に飛行を中断させる仕組みだ。

ただ、同社によると、飛行中断直前まで機体は計画どおりの飛行経路を維持していたという。そのうえで、自律飛行安全システム側に問題があったことを示唆するデータがあるとし、現時点では、同システム自体に何らかの異常が発生した可能性があると考えられている。

同システムは2系統で冗長化されており、各系統が常時、自身の健全性を監視している。仮に一方の系統に異常が生じた場合には、他方の系統が即座に飛行中断措置を行う設計だという。

今回、機体側に大きな異常が見られないまま飛行中断に至ったことから、同社は、自律飛行安全システム内部で何らかの不具合が発生し、一方の系統が健全ではないと判定された結果、他方の系統が飛行中断措置を行った可能性があるとみている。

カイロスロケット3号機打ち上げ関連記事

スペースワンは、キヤノン電子やIHIエアロスペースなどが出資して2018年に設立された企業で、小型衛星向けの打ち上げ輸送サービスの事業化に取り組んでいる。カイロスとスペースポート紀伊を組み合わせ、2020年代中に年間20機、2030年代に年間30機の打ち上げを目標に掲げるとともに、契約から1年、衛星受領から4日で打ち上げる「世界最短、世界最高頻度」の利便性の高い宇宙輸送サービスとして、「宇宙宅配便」の確立をめざしている。

カイロスは2024年3月に1号機、同年12月に2号機の打ち上げに挑んだが、いずれも失敗に終わった。今回の失敗によって、宇宙宅配便の実現への道のりはさらに険しくなったが、同社は「この考えを変えるつもりはない」とし、スピード感を失わずに打ち上げ輸送サービスの実現に向けて前進する姿勢を強調した。

今回の打ち上げ失敗の原因となった可能性がある、自律飛行安全システムのような新技術は省力化や低コスト化のための重要な要素であり、その技術的な意義や将来性まで否定されるものではない。こうした技術を実際の打ち上げで検証し、信頼性を高めていくことも重要だ。

ただ、こうした技術を実用化し、宇宙宅配便という事業を成立させるには、技術面だけでなく、現在の小型衛星打ち上げ市場がどのような状況にあるのかを見ておく必要がある。小型ロケットによる小型衛星の打ち上げには、どのような強みと弱みがあるのか。そこからは、カイロスがめざす事業の難しさも見えてくる。

小型ロケット市場が「甘くない」理由

小型衛星の打ち上げ方法は、大きくふたつある。ひとつは、大型ロケットに相乗りし、他の衛星とまとめて打ち上げる方法。もうひとつは、小型ロケットによる専用打ち上げで、自社の衛星のために機体を丸ごと使う方法だ。

近年は前者、すなわち相乗り打ち上げの存在感が大きい。その代表例であるスペースXの「スモールサット・ライドシェア・プログラム」では、太陽同期軌道向けに50kgで35万ドルからという価格が示されており、小型衛星を低コストで宇宙へ運ぶ手段として強い競争力を持つ。

  • 複数の小型衛星をまとめて打ち上げる、スペースXの「スモールサット・ライドシェア・プログラム」による衛星搭載の様子 (C)SpaceX

    複数の小型衛星をまとめて打ち上げる、スペースXの「スモールサット・ライドシェア・プログラム」による衛星搭載の様子 (C)SpaceX

相乗り打ち上げの最大の利点は価格効率にある。中型・大型ロケットの輸送力を複数の顧客で分け合うため、専用打ち上げより費用を抑えられる。多数の衛星を一度に軌道へ送り込めるため、初期段階のコンステレーション構築にも向いている。

その反面、打ち上げ時期や投入軌道は主契約者や全体のミッション設計に左右されやすく、相乗りさせてもらう企業側の都合だけでそれらを柔軟に決めることは難しい。衛星を造ってすぐに打ち上げたい場合や、軌道や投入時期を細かく選びたい場合には向かない。

これに対し、小型ロケットによる専用打ち上げは、相乗りより割高になりやすい。ただ、特定の軌道に単独で投入したい観測衛星や、短期間での打ち上げが必要な衛星、安全保障分野のように即応性が重視されるミッションでは価値が大きい。要するに、「飛びたい時に、飛びたい場所へ行ける」こと自体が商品になる市場である。

スペースワンがめざしているのは、この小型ロケットによる専用打ち上げの分野だ。

もっとも、専用打ち上げに価値があるとしても、現在の市場環境は小型ロケットに必ずしも追い風ではない。

宇宙産業の調査・分析会社BryceTechによると、2024年に打ち上げられた小型衛星は2,790機で、全宇宙機の97%、総打ち上げ質量の81%を占めた。この数字だけを見れば、小型衛星時代が本格化しており、小型ロケットにも大きな商機があるように見える。

しかし、これらの衛星のうち、小型ロケットで打ち上げられた衛星は全体の6%にとどまり、その大半は中型・大型ロケットで相乗り打ち上げされている。つまり、小型衛星市場の拡大がそのまま、小型ロケット市場の拡大につながるとは限らない。

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