宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月24日、X線分光撮像衛星「XRISM」を用いた精密な分光観測により、カシオペア座の中央に位置する恒星「ガンマ星」が放つ謎の強烈なX線の源が、主星の周囲を巡る伴星の白色矮星であることを突き止め、約50年に及ぶ謎を解明したと発表した。

  • カシオペア座

    カシオペア座。(左)可視光像(Digitized Sky Survey)。(右)X線像(Swift衛星)。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、JAXA 宇宙科学研究所の辻本匡弘准教授が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州各国の主要機関が共同運営し、日本も加盟する世界的な天文学および天体物理学を扱う学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。

カシオペア座の“真ん中”の星の正体を解明!

秋から冬にかけての夜空で北斗七星と並んで、北極星を探す際の指標となるカシオペア座は、5つの明るい星が「W」の字を形作っていることで知られている。その中央に位置する2等星のガンマ星は、太陽の約16倍の質量を持つ「B型輝線星(Be星)」に分類される。恒星の分類において、B型星は主系列星の中でO型星に次ぐ巨大かつ高温な青白く輝く星であり、その中でもB型輝線星は、自転が非常に速いために赤道付近からガスが流出し、星の周囲に巨大なガス円盤を形成されているのが最大の特徴だ。

カシオペア座ガンマ星を巡る謎は、人類が宇宙をX線で観測し始めた約50年前にまで遡る。当時の観測で、ガンマ星は通常のB型輝線星ではあり得ないほど異常に明るいX線を放射していることが判明し、以来、X線天文学における長年のミステリーとなってきた。その後、2000年になって高精度な観測の結果、ガンマ星は周期203日の連星系であることが確認されたものの、肝心の伴星の正体は確認できず、強烈なX線放射との因果関係も不明なままであった。そこで研究チームは今回、圧倒的なX線分光能力を誇るXRISMを用いて、ガンマ星の詳細な観測を行ったという。

今回、謎を解く決定打となったのは、天体の運動によって光の波長が変化する「ドップラー効果」の精密測定である。連星系においては、主星がどれほど巨大で、伴星がどれほど小さかったとしても、主星は伴星の重力的な影響を受けてわずかにふらつく。この「ふらつき」によって、地球から見た星の距離が周期的に近づいたり遠ざかったりするため、観測されるスペクトルにはドップラーシフトが生じる。この微細な波長の変化を詳細に追跡することで、連星系を構成するそれぞれの天体の正体を探ることが可能になるのである。

具体的には、ガンマ星連星系において主星と伴星が共通重心の周囲を、主星が反時計回り、伴星は時計回りに回転しているとする。伴星は主星に比べて質量が軽いため、主星に振り回される形でその運動速度は非常に大きくなる。これをスペクトル観測すると、主星から届く光と伴星から届く光の波長変化は、上述のような公転運動の場合、互いに正反対の動きを示すことが期待される。特に、速度の速い伴星側の振れ幅は主星に比べて格段に大きく、理論上は両者の質量比の逆数である約20倍に達するという。

  • カシオペア座ガンマ星の運動モデル

    カシオペア座ガンマ星の運動モデル。(上)共通重心を回る連星運動のシミュレーション(「binsim」ソフトウェアによるもの)、(下)連星運動に伴って生じる輝線のドップラーシフトの概念図。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

しかし、このドップラーシフトによる色の変化は極めてわずかであり、従来のX線衛星では捉えることが困難だった。そこで、光速の0.01%の速度を識別できるX線分光器を搭載したXRISMの出番というわけである。研究チームは今回、伴星が軌道上の特定の3箇所(0時20分、3時15分、10時20分の位置)にあるタイミングを見計らってX線スペクトルを取得すると同時に、可視光スペクトルの観測も実施。その結果、連星運動に伴う明瞭なドップラーシフトが検出され、可視光は主星から、そして謎だったX線は伴星から放射されていることが確実となったのである。

  • 実際の観測データ

    実際の観測データ。(左)可視光の水素Hα輝線(BeSS)。(右)X線の鉄蛍光輝線(XRISM)。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

得られたX線スペクトルの特徴に加え、可視光や紫外線がまったく検出されていないという事実を併せると、伴星の正体は白色矮星であると結論づけられたとする。白色矮星は、太陽の約8倍以下の質量を持つ中~小質量星が進化の末に燃え尽き、核融合反応が停止して高密度な核だけが残った天体だ。我々の太陽も、約50億年後には膨張して赤色巨星となった後、最終的にはこのような白色矮星へと姿を変えることが予見されている。

通常、星は質量が大きいほど寿命が短く、早く燃え尽きるはずだが、この連星系では巨大な主星がまだ活動を続けている一方で、より小質量であるはずの伴星が先に最期を迎えている点は奇妙な点といえる。この逆転現象は、かつて連星間で激しい質量転移が行われ、もともと重かった方の星が外層の水素を剥ぎ取られて先に白色矮星化したことが考えられるとする。こうした連星特有の複雑な進化プロセスを解明する上でも、今回の成果は極めて重要な意義を持つとしている。