広島大学、京都大学(京大)、理化学研究所(理研)、筑波大学、東レリサーチセンターの5者は3月23日、次世代の太陽電池として期待される「有機薄膜太陽電池」(OPV)において、長年の課題だった「低電圧損失」と「高効率電荷生成」のトレードオフを解消し、高効率化に向けて重要なその両立を実証したと共同で発表した。

  • 有機半導体を発電層として用いたOPV

    有機半導体を発電層として用いたOPV(出所:広島大プレスリリースPDF)

同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科の尾坂格教授、同・三木江翼助教、駿河翔太大学院生(研究当時)、京大大学院 工学研究科の大北英生教授、理研の但馬敬介チームディレクター、同・中野恭兵上級研究員、筑波大 物質工学系の石井宏幸教授、東レ リサーチセンター 形態科学研究部室長の稲元伸博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学を扱う学術誌「Communications Materials」に掲載された。

塗布プロセスで製造可能な次世代型太陽電池として、現在はペロブスカイト太陽電池の研究が進む中、発電層に有害物質の鉛を含んでいる点が課題とされていた。一方、ペロブスカイト太陽電池と同じプロセスで製造でき、かつ有害物質を含まないため環境負荷が小さいとして注目されているのがOPVである。国内では、従来のシリコン太陽電池パネルは導入場所が頭打ちになりつつあるが、OPVは軽量かつ柔軟なため、ペロブスカイト太陽電池同様に壁面や窓などへの設置に加え、電柱に巻き付けての利用なども想定される。これにより、発電面積を劇的に拡大でき、エネルギーの地産地消の実現も期待される。

ただ、OPVが抱える最大の課題はエネルギー変換効率が低いことで、実用化にはさらなる高効率化が求められている。その主要因の1つが大きな電圧損失であり、それを抑制することこそがOPV開発における最重要課題といえる。OPVでは、発電層にp型とn型の有機半導体材料の混合膜が用いられる。この半導体が太陽光を吸収すると、正孔と電子が対となった「励起子」が生成され、p/n界面において正孔と電子に解離することで発電が行われる。この解離にエネルギーが必要となることが、電圧損失を招いている。

OPVにおける電荷解離の駆動力エネルギーは、発電層に用いる「p型とn型材料の分子軌道のエネルギー差」(ΔE)によって規定される。ΔEが大きいほど電荷解離は起こりやすくなるが、その分エネルギー損失が増大し、電圧損失も大きくなる(電流は大きく電圧は小さくなる)傾向にある。

  • OPVの発電メカニズムと有機半導体の分子軌道のエネルギーと電圧損失の関係

    (a)OPVの発電メカニズム。p/n界面で、励起子が正孔と電子に解離する際のエネルギー消費が電圧損失の要因となる。(b)OPVにおける有機半導体の分子軌道のエネルギーと電圧損失の関係。HOMOは最高被占分子軌道、LUMOは最低空分子軌道を示す。(出所:広島大プレスリリースPDF)

逆に、ΔEを小さくすると、電圧損失は抑えられるが、電荷解離が起こりにくくなり電流が減少する(電流は小さく電圧は大きくなる)。つまり、この電圧と電流のトレードオフを解消して変換効率を向上させるには、ΔEを小さく保ちつつ効率的な電荷解離を実現するという、OPVの発電原理を覆すような有機半導体の開発が求められていた。そこで研究チームは今回、以前に開発したポリマー半導体「PTNT1-F」をp型材料として用い、OPV素子を作製し調査を行ったという。

  • ポリマー半導体PTNT1-Fの分子構造

    今回の研究ではp型材料として利用された、過去に研究チームが開発したポリマー半導体PTNT1-Fの分子構造。(出所:広島大プレスリリースPDF)

まず、PTNT1-Fをp型材料として用いたOPV素子と、ベンチマーク材料を用いたOPV素子との比較が行われた。すると、電圧と電流が共に向上することが確認された。OPVでは通常、電圧損失を抑制することで電圧を増大させると電流が低下するが、従来にない現象が観測されたのである。

この現象の起源を解明するため、次にこのOPV素子の発光特性が測定された。その結果、PTNT1-Fの素子はベンチマークの素子よりも高い発光特性を示すことが判明。これは、電圧損失の要因の1つである無輻射的な電荷再結合が抑制されていることが示されているとした。

実際に、測定から算出される無輻射電荷再結合に起因する電圧損失(ΔVnr)は0.18Vであり、ベンチマーク材料の0.20~0.23Vと比べて顕著に小さい値となった(最大で約30%低減)。さらに、この結果は、電圧損失の抑制が、p型とn型材料間のΔE縮小に起因することを明確に示しているという。

次に、ΔVnrに対する電荷生成効率がプロットされた。その結果、PTNT1-Fはベンチマーク材料と同等以上、さらには同様のΔVnrを持つ他材料と比較しても顕著に高い電荷生成効率であることが明らかにされた。このことは、ΔEが小さい場合でも効率的な電荷解離を実現できていることを裏付ける結果とした。

  • OPVにおける電荷生成効率と無輻射再結合に起因する電圧損失の関係

    OPVにおける電荷生成効率と無輻射再結合に起因する電圧損失の関係。電圧損失が0.2V以下になると電荷生成効率が低下し、トレードオフが顕著になる。PTNT1-Fは同様の電圧損失を示すOPVの中では、最も高い電荷生成効率を示す。(出所:広島大プレスリリースPDF)

次に、PTNT1-F素子が、なぜΔEが小さくても効率的な電荷解離を実現できたのかが調査された。X線回折および高感度透過型電子顕微鏡観察による薄膜構造の解析の結果、PTNT1-Fとベンチマーク材料との間には明確な差がないことが判明した。

そこで、次に高感度光電子収量分光測定が行われた。その結果、PTNT1-Fはベンチマーク材料と比較して、分子軌道の状態密度分布が顕著に狭いことが突き止められた。これは、ナノスケールの領域において、より秩序高い配列構造を有していることを示唆する結果だという。さらに量子化学計算から、PTNT1-Fはベンチマーク材料に比べてポリマー主鎖内における有効質量が小さいことも見出された。

これらの結果は、PTNT1-Fでは電荷が分子鎖内でより広く非局在化していることを示唆しているとする。つまり、ナノスケールの領域で電荷が広がることで、ΔEが小さい条件下でも効率的な電荷解離が可能になったことが考えられるとした。PTNT1-Fの特徴は、拡張されたπ電子系骨格に基づく剛直なポリマー構造にあり、研究チームはこれがOPVにおけるトレードオフ打破の鍵になったとしている。

  • p/n界面におけるp型とn型材料の模式図

    p/n界面におけるp型とn型材料の模式図。PTNT1-F(左)はベンチマーク材料(右)に比べて秩序高い構造を形成し、正孔が非局在化しやすいため、ΔEが小さくても、効率的な電荷解離が可能となる。(出所:広島大プレスリリースPDF)

今回の研究は、カーボンニュートラル実現に重要な次世代型技術として期待されるOPVの高効率化を可能にする非常に重要な成果とする。この成果を基盤とし、今後はポリマー半導体分子構造のさらなる最適化を進めることで、電圧損失を一層抑制しつつ、高電流を両立する高効率OPVの実現が期待されるとしている。