新潟大学(新大)は3月17日、アルマ望遠鏡を用いて地球から約2万6000光年離れた天の川銀河外縁部(銀河中心から約4万4000光年以上離れた領域)を観測し、「ホットコア」と呼ばれる生まれたばかりの星を包む分子雲を新たに発見すると共に、メタノールやジメチルエーテルなどの有機分子を含む多種多様な分子を検出し、太陽系周辺とは大きく異なる環境における原始星を取り巻く環境の物質進化に関する新たな知見が得られたと発表した。

同成果は、新大大学院 自然科学研究科の池田達紀大学院生、新大 理学部の下西隆准教授、新大 創生学部の金子紘之特任准教授、理化学研究所の古家健次研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

  • 今回観測された5つの星形成領域やホットコア「Sh 2-283-1a SMM1」の電波スペクトルなど

    (上段左)今回観測された5つの星形成領域の天の川銀河における位置。(上段中央)Sh 2-283領域の赤外線3色合成画像(赤:2.16μm、緑:1.65μm、青:1.22μm、UKIDSSサーベイより)。(上段右上)今回アルマ望遠鏡で観測されたホットコア「Sh 2-283-1a SMM1」におけるメタノールガスの分子輝線分布。(下段)同ホットコアの電波スペクトル。複雑な有機分子から無機分子まで、多様な分子種が検出された。(c)池田達紀(新潟大学)、R.Hurt/NASA/JPL-Caltech/ESOの画像を含む(出所:新大プレスリリースPDF)

星は星間ガスや星間塵が集まって形成された分子雲内で誕生し、核融合反応が始まると周囲のガスや塵を加熱し始める。この原始星を包むガス分子の雲は、絶対温度約100K(約-173℃)の低温である。しかし、星が誕生する前のガスや塵は約10K(約-263℃)という極低温であるため、それらに比べると遥かに高温なことから「ホットコア」と呼ばれている。

ホットコア内では、星の材料となる星間物質が極めて豊かな化学進化を遂げることが知られている。実際、太陽系周辺の星形成領域にある多くのホットコアからは、水や複雑な有機分子を含むさまざまな分子が発見されてきた。なお、天文学における複雑な有機分子とは、メタノールのような6個以上の原子からなる有機分子のことを指す。このことから、ホットコアの研究は星形成に伴う物質進化を理解する上で重要とされる。

天の川銀河の円盤部は直径約10万~約13万光年と推定されており、そのうち、銀河中心から約4万4000光年よりも外側の領域が「外縁部」に該当する。この領域は、太陽系周辺(銀河中心から約2万5000~約2万7000光年)と比較して、炭素や酸素といった重元素の存在比が低い。こうした環境は、形成初期の天の川銀河や、遥か遠方に位置する初期の銀河の環境に類似していると考えられている。

さらに、外縁部では星の材料となるガス自体が少なく、星形成活動が非常に不活発なため、超新星爆発などの激しい現象の影響も少ない静穏な環境だ。数多くの星が密集する銀河中心部を“都会”、星の誕生が比較的活発な太陽系周辺を“郊外”とするなら、外縁部は過去の姿がそのまま保持された“田舎”に例えられる。このような特殊な環境におけるホットコアの化学組成を調べることは、星・惑星形成における物質進化の環境依存性を理解する上で不可欠だ。

そこで研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて、銀河中心から約5万光年の距離にある外縁部の「Sh 2-283」など、5つの星形成領域を観測したという。

観測の結果、Sh 2-283領域において新たなホットコアが発見された。この領域からは、メタノールやジメチルエーテルなどの複雑な有機分子を含む、多種多様な分子が輝線として検出されたとする。天の川銀河の外縁部において、このようなホットコアが確認されたのは史上2例目となる。

次に、発見されたホットコアの化学組成が、太陽系周辺や大・小マゼラン銀河のホットコアの化学組成と比較された。その結果、外縁部のホットコアでは、二酸化硫黄やジメチルエーテルなどの分子の存在量が、材料となる炭素や硫黄の減少度合いを考慮しても、少ない傾向にあることが判明した。これらの分子の生成には、ホットコア外部からの宇宙線の寄与が重要であると考えられている。今回の結果は、静穏な外縁部では他の領域と比較して宇宙線が弱いため、これらの分子の生成に関わる反応がうまく進行しなかった可能性が示唆された。

今回の研究により、ホットコアにおける物質進化は、原始星自身を取り巻く環境によって大きく変化する可能性が示された。今後、さらにアルマ望遠鏡などを活用してこうした領域における星形成活動の探査を続けていくことで、太陽系周辺とは大きく異なる環境における星・惑星形成領域での物質進化の詳細な様子が解明されることが期待されるとしている。