宇宙船内のような微小重力下では、筋量の低下(萎縮)が重力レベルに応じてほぼ直線的に変化し、筋機能を含めた筋量・機能の維持には少なくとも0.67Gが必要であることが示されたと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が3月16日に発表した。

  • JAXAが開発した可変人工重力装置「MARS」によって宇宙空間で人工重力を生成し、異なる重力空間でマウスを約4週間飼育。筋萎縮の抑制のためには0.33G、筋線維タイプと筋機能の維持のためには0.67Gが必要であり、異なる重力レベルで制御されていることが確認された 出所:JAXAニュースリリース

    JAXAが開発した可変人工重力装置「MARS」によって宇宙空間で人工重力を生成し、異なる重力空間でマウスを約4週間飼育。筋萎縮の抑制のためには0.33G、筋線維タイプと筋機能の維持のためには0.67Gが必要であり、異なる重力レベルで制御されていることが確認された 出所:JAXAニュースリリース

JAXAでは、「重力を定量的なパラメータとして生体応答を体系的に理解した世界初の成果」であり、月や火星といった将来の長期有人探査における、医学的リスク評価や対策立案に重要な科学的基盤を提供するものと説明している。

国際宇宙ステーション(ISS)の利用成果最大化に向けた日米協力枠組み(Japan-U.S. Open Platform Partnership Program: JP-US OP3)のもと、JAXAと米航空宇宙局(NASA)が共同で実施した低重力ミッションにおける研究成果。詳細は、米国科学振興協会(AAAS)が提供するオープンアクセス・ジャーナル「Science Advances」に日本時間3月14日に掲載されている。

研究の概要

JAXAや筑波大学、東北大学、ハーバード大学などからなる国際研究チームは今回、ISSの日本実験棟「きぼう」に搭載された可変人工重力研究システム「MARS」を用いて、4種類の重力環境(微小重力、火星重力相当の0.33G、火星と地球の中間の重力相当の0.67G、地球重力相当の1G)を作り出し、そこでマウスを約1カ月間飼育。姿勢保持に重要な抗重力筋であるヒラメ筋を対象に、遺伝子発現などの分子レベルの変化に加え、筋力および筋電図を含む機能的変化を統合的に解析した。

MARS(Multiple Artificial-gravity Research System)は、将来の月や火星などの有人探査を見据え、そのテストベットとして「きぼう」を活用し、国際宇宙探査へ科学的に寄与することをめざしてJAXAが開発した実験装置。月や火星などの重力を模擬でき、微小重力から1Gまでの人工重力環境でマウスを飼育できる“世界で唯一の装置”だという。

今回の研究では、微小重力下で起こる筋量の低下(萎縮)は、重力レベルに応じてほぼ直線的に変化することが明らかになり、筋機能を含めた筋量・機能の維持には少なくとも0.67Gが必要であることが示されたという。

さらに血液中成分の網羅的解析から、血液指標についても重力に依存した変化が存在することが明らかになり、重力環境の違いを反映する11種類のバイオマーカー(体内の状態や変化を反映する指標となる分子)の候補を同定。これらの結果は、血液検査という低侵襲な手法を用いて、生体がどの程度の重力影響を受けているかを推定できる可能性を示唆しているとのこと。

研究チームは今後、この研究で明らかになった重力レベルごとの筋肉応答の違いを分子レベルで解明。筋萎縮や筋機能低下を防ぐ、新たな対策法の開発につなげていく。また、同定された血中代謝物の有用性を検証し、宇宙滞在中や地上における筋肉の健康状態を非侵襲的に評価できる指標の確立をめざす。

これらの成果は、将来の月・火星探査だけでなく、加齢や疾患に伴う筋力低下の理解と予防にも寄与することが期待されるとしている。