国立天文台(NAOJ)は3月6日、アルマ望遠鏡を用いて天の川銀河最奥部の「中心分子雲帯」を高精度に観測する「アルマ中心分子雲帯探査サーベイ」(ACES)の成果として、同望遠鏡史上最大サイズとなる満月3個分の観測データをつなぎ合わせた画像を公開し、銀河中心領域に広がる分子ガスの複雑なネットワークの詳細を明らかにしたと発表した。

同成果は、国立天文台 アルマ・プロジェクトのHsieh Pei-Ying助教ら70以上の研究機関に所属する国内外約160名の研究者が参加する国際共同研究チーム「ACESプロジェクト」によるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」で6本の論文にまとめられ、そのうち5本が公開済み、6本目が審査中となっている。

天の川銀河には、1000億とも2000億ともいわれる膨大な恒星が存在しており、それ以上に恒星や惑星などの材料となる星間ガスや星間塵が漂っている。これらの多くは重力的に安定する銀河円盤面に集中しており、特に超大質量ブラックホール「いて座A*」が位置する銀河中心近傍はガス密度が極めて高い。この領域は「中心分子雲帯」と呼ばれ、大質量星も誕生しやすく、星形成活動が活発な点が特徴である。また太陽質量の約8倍以上の大質量星は短命であり、最期には超新星爆発を起こすため、銀河中心部はその頻度の多い一際エネルギーの高い特殊な環境となっている。

宇宙に存在する大半の銀河の中心には、超大質量ブラックホールとそれに付随するように中心分子雲帯があると考えられている。強大な重力の影響下にある星形成活動を観測する場合、天の川銀河の中心分子雲帯が距離的に最も観測しやすいことから、その実態を解明するプロジェクトとしてACESが実施されることになったという。

ACESは、天の川銀河最奥部の650光年以上の広がりを持つ中心分子雲帯を、アルマ望遠鏡で網羅的にサーベイ観測する大規模観測プログラムだ。この領域で星形成の可能性を持つすべてのガス雲を対象とし、約300光年の全体像から約0.1光年の原始星コアに及ぶ幅広い空間スケールで、ガス中における音速(毎秒約4km)以下の精度でガス自身の運動を測定。銀河中心での星形成と銀河へのフィードバック現象が、どのようなプロセスで制御されているのかを解き明かすことを目的としている。

他の観測装置では数年を要するサーベイ観測であっても、アルマ望遠鏡なら150時間程度(6日強)で完遂可能だ。今回のプロジェクトでは、多数のデータをつなぎ合わせるモザイク観測により、天球上の満月3個分に相当するアルマ望遠鏡史上最大の電波画像が描き出された。

  • 高密度なガス雲がひしめく中心分子雲帯の位置

    高密度なガス雲がひしめく中心分子雲帯の位置。右上挿図はACESで取得された画像で、横方向の広がりは天球上の満月約3個分に相当する。アルマ望遠鏡史上最大の画像だ。(c)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/S. Longmore et al. Stars in inset: ESO/D. Minniti et al. Milky Way: ESO/S. Guisard(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

広い周波数帯域を持つアルマ望遠鏡は、数多くのスペクトル線を同時に捉えられることも特徴だ。ACESによる星形成の材料となる低温分子ガスの観測では、中心分子雲帯において、一酸化ケイ素のような単純な分子から、メタノールやアセトン、エタノールといった複雑な有機分子まで数十種類の分子が検出された。これにより、天の川銀河中心部の星間物質が極めて複雑な化学組成を持つことが示されたのである。

  • 中心分子雲帯の拡大図

    中心分子雲帯の拡大図。データの境界でガス分布が途切れて見えるのは、観測範囲が画像の端まで及んでいないためである。5種類の分子分布画像が合成されており、前景の恒星は近赤外線での撮影データに基づくもの。(c)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/S. Longmore et al. Background: ESO/D. Minniti et al.(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

また、数十光年にわたりフィラメント状に伸びる巨大構造から、生まれたての個々の恒星を包むガス雲まで、幅広い空間スケールで分子ガスの構造が捉えられた。従来は滑らかにぼんやりと広がって見えていた分子雲の姿が、複雑かつ多層的な構造として浮き彫りになり、中心分子雲帯における分子ガスの真の複雑さが明らかにされた。

  • ACESでは数十種類の分子分布が可視化された

    ACESでは数十種類の分子分布が可視化された。画像はその例で、上から一酸化硫黄(CS)、イソシアン酸(HNCO)、一酸化ケイ素(SiO)、一硫化炭素(CS)、シアノアセチレン(HC3N)の5種類。(c)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/S. Longmore et al.(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

フィラメント構造に沿って、星のゆりかごである分子雲の塊へと低温分子ガスが流れ込むプロセスは、星形成活動が比較的静穏な天の川銀河外縁部でも観測されている。しかし、星形成や超新星爆発などが激しい中心分子雲帯においても同様の星形成理論が通用できるのかどうかは、依然として大きな謎としている。

このような銀河中心部の過酷な環境は、初期宇宙で爆発的な星形成を行っていた銀河の極限環境と共通点が多いと推測されている。中心分子雲帯での星誕生や周囲の環境へのフィードバックに関する知見が深まれば、銀河がどのように成長・進化を遂げてきたのかという根源的な問いへの理解が進むと期待されている。

ACESのデータが公開されれば、世界中の天文学者が多くの分子スペクトルと連続波での画像を自由に活用できるようになる。これは、天の川銀河中心の研究のみならず、系外銀河の研究や、将来の観測計画策定にも寄与する貴重な情報源となるはずだという。加えて今回の成果は、アルマ望遠鏡の広帯域・高感度アップグレード(WSU)の時代に向けた重要な布石になることも期待されるとしている。