国際宇宙ステーション(ISS)から日本時間3月7日午前2時頃、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「HTV-X」1号機が離脱。地上から荷物を運ぶ補給機としての役割を終え、技術実証プラットフォームとして活躍するフェーズに移った。
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国際宇宙ステーション(ISS)から離れていく、新型宇宙ステーション補給機1号機「HTV-X1」 出所:新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)ISSからの離脱ライブ中継(JAXA公式YouTubeチャンネル)
同日深夜には、HTV-X1のISS離脱の模様を伝える番組がYouTubeなどで配信され、JAXAの番組にはHTV-Xプロジェクトチームの一員である末廣知也氏と、MCの磯貝初奈氏が登場。JAXAの油井亀美也宇宙飛行士によるビデオメッセージなども交えてISSでの約4カ月を振り返ったうえで、今後約3カ月にわたり実施される3段階の技術実証の詳細について解説した。
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HTV-X1が、把持されていたロボットアーム(SSRMS)から離れていく瞬間の様子 出所:新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)ISSからの離脱ライブ中継(JAXA公式YouTubeチャンネル)
“最強型”(24形態)のH3ロケット7号機で、2025年10月26日に種子島宇宙センターから打ち上げられ、その後10月30日にISSにドッキングした、新型宇宙ステーション補給機1号機「HTV-X1」。ISSへのドッキング時のロボットアーム操作は、長期滞在中だった油井亀美也宇宙飛行士によって行われ、油井飛行士からは親しみを込めて“HTV-X君”と呼ばれていた。
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HTV-Xは先代の補給機「HTV」(愛称:こうのとり)と同様に、地上からISSへさまざまな荷物を運び、代わりにISSで飛行士たちが生活する上で出た廃棄物を載せて大気圏に再突入し、ミッションを終える。この点においては大きな差異はない。
使い勝手の面では、HTV-Xの与圧モジュールとISS内を行き来するためのハッチ(出入り口)の間口が広く取られ、実験ラックなど大型の船内物資の輸送ができるほか、与圧モジュールには新たに電源供給機能が加わり、冷蔵庫を載せて温度管理が必要な実験サンプルなどを運べるようになったことが、大きな進化点だ。油井飛行士によると、「広くて明るくて静かで快適なHTV-X君の“お腹のなか”で、本当に私たちも快適に仕事ができている」と、新型補給機の“居心地の良さ”をアピールしていた。
こうのとりからの進化ポイントとしては、HTV-Xは打ち上げ直前まで荷物を積み込めるようになったことも大きい。実際、今回運ばれた生鮮食品のラインナップには、こうのとりでも運ばれたりんごやみかんに加え、トマトや和梨が新たに登場。長期宇宙滞在では宇宙飛行士もさまざまなストレスを抱えることになるが、こうした食材を摂ることでそれらを緩和し、パフォーマンス向上につなげるねらいがある。また、“食”という身近なテーマを通じてひろく宇宙活動が認知されることや、国産生鮮食品を輸送できる点を訴求するという目的もあったそうだ。
約4カ月、ISSにドッキングして補給機の役割をほぼ完遂したHTV-X1にも、いよいよ別れのときがきた。
今回の離脱にあたり、まずはISSに滞在中のクリストファー・ウィリアムズ宇宙飛行士が操作するロボットアームに把持され、3月6日午前4時23分頃(日本時間、以下同)にISSから分離。所定の位置まで運ばれたHTV-X1は、翌7日午前2時頃にはロボットアームによる把持が解かれ、ISSからの離脱を完了した。
その後、スラスタを噴いて単独で姿勢制御のマヌーバを開始したHTV-X1は、午前2時46分頃にはISSの周囲に設定された接近領域の外へ出たことが確認されている。
HTV-Xのユニークかつチャーミングなポイントのひとつが、機体左右に太陽電池パドルを30度の傾きをつけて取り付けていて、それが翼をひろげた鳥のような姿に見えることだ。今回、米国航空宇宙局(NASA)のISS離脱配信では、HTV-Xが太陽光を受けて金色に光り輝きながらISSを離れていく様子を長回しでずっと追い続けており、まるでISSに別れを告げて飛び去っていく渡り鳥のように見えたのが印象的だった。
HTV-Xの補給機としての役割はこうのとりと似ているが、ISSを離れた後の過ごし方はこうのとりとはまったく異なる。こうのとりはISS離脱後、大気圏に再突入して廃棄物をいわば“焼却処分”するだけだったが、HTV-Xはこの後、軌道上での3カ月にわたる技術実証ミッションフェーズに移行する。
HTV-X1の技術実証ミッションは大きく3段階に分かれていて、実施期間は、最初のH-SSODが約1週間、Mt.FUJIが約3週間、そして最後のDELIGHTとSDXをあわせて約2カ月となっている。
まずは、ISSよりも高い最大500kmという高度から、超小型衛星を放出する「H-SSOD」を実施。初ミッションで放出されるのは、日本大学理工学部奥山研究室が開発した、W6U(外形寸法226×100×366mm/重量約7.2kg)というサイズの人工衛星「てんこう2」だ。
てんこう2は、2018年に打ち上げられた人工衛星「てんこう」の後継機。初代と同じ検出器を用いて、地球低軌道周辺の高エネルギー粒子の空間分布などを観測。また、機体に搭載した新たなマイクロコンピュータの宇宙環境耐性の評価や、高解像度カメラによる地球観測、さらには日大理工学部と芸術学部が連携してつくりあげる「宇宙×エンタメ」ミッションにも挑戦する。
続いて実施されるのが、HTV-X1に取り付けられた衛星レーザ測距(SLR)用小型リフレクター「Mt.FUJI」を用いて、人工衛星の姿勢を地上からのレーザーで測るという、“世界初”の軌道上姿勢運動推定実験だ。
HTV-X1には、このリフレクターが3つ搭載されており、地上からMt.FUJIにレーザーを当てて機体の軌道や位置、姿勢を把握できるかどうかを実証。将来、スペースデブリ(宇宙ごみ)の様子を推定する技術に応用され、今後のデブリ除去に寄与することが期待されている。Mt.FUJIは小さく軽く低コストで作れるので、宇宙機に気軽に乗せられるのもメリットだという。
そして最後にはISSよりも低い軌道に降りてきて、展開型軽量平面アンテナの軌道上実証を行う「DELIGHT」と、次世代宇宙用太陽電池の軌道上実証「SDX」のふたつを行う。これは、宇宙太陽光発電システム(SSPS)のような大型の構造物を軌道上で展開・構築することを見据えた実証で、軽量パネルを展開中の挙動や、展開後の構造特性を計測することをめざしている。
どのミッションも、今後の宇宙開発や宇宙利用に欠かせないものばかり。目に見える成果につなげていくには時間を要するだろうが、地球大気圏への再突入までの間、“HTV-X君”が軌道上でつつがなくこれらの技術実証を進めていく姿に、引き続き注目したい。






