京都産業大学(京産大)は3月3日、同大学 神山天文台の口径1.3m荒木望遠鏡と可視光・低分散分光器「LOSA/F2」を用いて、3番目の恒星間天体「アトラス彗星」(3I/ATLAS)を観測した結果、可視光波長域では太陽系の通常の彗星と酷似したスペクトルを持ち、氷成分が太陽系の彗星と大きく違わないことが示唆された一方で、「アミノラジカル」(NH2)分子が極端に少ないこともわかり、アトラス彗星の氷中はその元であるアンモニアが欠乏していることが判明したと発表した。

  • ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたアトラス彗星(3I/ATLAS)の姿

    2025年11月30日にハッブル宇宙望遠鏡が捉えたアトラス彗星(3I/ATLAS)の姿。(c)NASA, ESA, STScI, D. Jewitt (UCLA). Image Processing: J. DePasquale (STScI)(出所:京産大 神山天文台Webサイト)

同成果は、京産大 理学部 宇宙物理・気象学科の河北秀世教授(同大学 神山宇宙科学研究所(神山天文台) 所長兼任)、京産大大学院 理学研究科の辻本倖大学院生、京産大 研究機構 新中善晴選任専門職(京産大 神山天文台 研究員兼任)、フォトクロスの小林仁美氏(神山宇宙科学研究所 客員研究員兼任)、産業医科大学 医学部の大坪貴文助教、国立天文台 天文情報センターの渡部潤一特任教授(2026年4月1日より神山宇宙科学研究所所長に就任予定)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に近日中に掲載される予定だ。

太陽系とは異なる彗星の多様性が判明!

太陽系には太陽や惑星、衛星などの他に無数の小天体が存在しており、彗星もその1つだ。彗星は水(H2O)の氷や塵を含んだ「核」を持ち、太陽に接近して表面が温められることでガスや塵を放出する。その結果、輪郭の不明瞭なぼんやりとした「コマ」や、長く伸びる「尾」が観察される。彗星は、太陽系が誕生した約46億年前の状態を留める“タイムカプセル”とも称され、太陽系の起源を探る上で欠かせない天体だ。

彗星は極端な楕円軌道を描くことが多く、周期が200年未満の短周期彗星は、海王星外縁のカイパー・ベルト付近が起源とされる。一方、200年以上の長周期彗星は、さらに外側で太陽系を球状に取り囲むとされる仮想の天体群「オールトの雲」が起源と考えられている。オールトの雲の最外縁は1.5光年にも達すると推測されているが、現在の技術では直接観測できない未知の領域だ。

現在、太陽以外の恒星でも数多くの惑星が発見されているが、それらの星々が惑星のみを従えているとは考えにくい。他の星系にもオールトの雲のような天体群が存在する可能性がある。こうした天体は中心星の重力による拘束が弱いため、恒星同士の接近や近隣の超新星爆発などの影響を受けやすく、容易に星間空間へと放り出されることも考えられる。

かつて、これら星間空間を漂う小天体が別の星系を訪れる確立は、統計的に非常に低いと見積もられていた。しかし、2017年に初の恒星間天体「1I/オウムアムア」が発見されたことで、その認識は一変する。恒星間天体を示す「I」を関した天体が初めて記録され、2019年の「2I/ボリソフ彗星」、そして2025年7月には今回の「3I/アトラス彗星」が確認された。

アトラス彗星は2025年10月29日に太陽に最接近した後、現在は二度と戻らない軌道で太陽系を去りつつある。そこで神山天文台(神山宇宙科学研究所)の研究チームは、この貴重な機会を逃さぬよう、アトラス彗星に対する詳細な分光観測を実施したという。

観測は、2025年11月下旬から12月上旬までの間に計3夜(11月29日、12月4日、12月6日)行われた。荒木望遠鏡と分光器「LOSA/F2」を用いた観測の結果、アトラス彗星は可視光波長域において、太陽系で一般的に観測される彗星と極めてよく似たスペクトルを示すことが判明した。これは、アトラス彗星に含まれる主要なる氷成分が、太陽系の彗星と大きな差がないことを示唆するものだ。

具体的には、可視光スペクトルから「シアンラジカル」(CN)、二原子炭素(C2)、三原子炭素(C3)といった分子の発光に加え、酸素原子の禁制線([OI])が確認された。これらはいずれも、太陽系の彗星で普遍的に見られる特徴である。

  • キャプシアトラス彗星の可視光スペクトルョン

    アトラス彗星の可視光スペクトル(実線)。見やすさを考慮し、観測日によって異なる色で縦方向にずらして表示されている。波長分解能(λ/Δλ)は約500であり、波長500nm付近では約1nmまで分解できている。縦軸は相対強度(任意単位)、横軸は波長。点線は、参考の神山天文台のスペクトル。(出所:京産大 神山天文台Webサイト)

ちなみに、CN分子はもともと彗星核の氷に含まれる「シアン化水素」(HCN)分子がガスとして放出され、太陽の紫外線によってCN分子と水素(H)原子に分解されることで生成されると考えられている。酸素原子も、同様にH2O分子が分解されて生成されたとされる。アトラス彗星も太陽系の彗星と同様の光化学プロセスを経て、これらのガスを放出していることが裏付けられたとした。

ところが、さらに詳細な分析を進めたところ、太陽系の彗星では通常なら検出されるNH2分子が極端に欠乏していることが明らかにされた。この分子は、彗星の氷に含まれていたアンモニア(NH3)が紫外線で分解されて生じると考えられている。つまり、アトラス彗星の氷中にはアンモニアがほとんど含まれないと結論づけられるとした。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる観測でも、アトラス彗星からは太陽系の彗星とは異なるガス組成の兆候が報告されており、今回の神山天文台での観測結果も、アトラス彗星が誕生した他星系の環境が、太陽系とは質的に異なっていた可能性を強く物語っているとしている。