名古屋大学(名大)は2月26日、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた世界最大規模の恒星内部数値シミュレーションにより、太陽型恒星においては自転周期が赤道で最も速く極付近で最も遅い「太陽型差動回転」が維持され、長年理論的に信じられてきたその逆の「反太陽型差動回転」への遷移は起こりえないことを発見し、これまで観測で反太陽型が未発見だった事実と一致することを突き止めたと発表した。
同成果は、名大 宇宙地球環境研究所の堀田英之教授と同・八田良樹研究員の研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
恒星による磁気活動の変遷に新たな示唆
恒星は地球のような固体ではなくプラズマの塊であるため、剛体とは異なり緯度ごとに独立した自転周期を持つことができる。このような、場所によって自転周期が異なる現象は「差動回転」と呼ばれる。太陽においては、赤道付近の自転速度が最も速く極付近が最も遅いパターンを示しており、これは太陽型差動回転と定義されている。
太陽のような小質量星は約100億年の寿命を持つと推定されており、その過程で光度やサイズが変化すると共に、自転速度も徐々に減速していくと考えられている。従来の恒星の進化を扱った数値シミュレーションでは、自転が一定以上に遅くなると、太陽型から極付近が速く赤道付近が遅い反太陽型差動回転へと差動回転の様式が遷移することが示唆されてきた。
この差動回転の遷移は、理論上は約半世紀にわたって支持されてきた経緯がある。星の差動回転は、内部の乱流によって維持されるが、自転の減速に伴って乱流への自転の影響が弱まり、乱流の非等方性が失われることが遷移の要因とされてきた。
しかし、この反太陽型差動回転は実際の観測例がなく、あくまでも仮説の域を出ないという大きな課題を抱えていた。太陽以外の恒星でも、星の振動を利用して内部を探る「星震学」によって太陽型の自転は確認されているものの、反太陽型が確認された例は未だに存在しない。理論上は反太陽型予想されるパラメータを持つ星であっても、実際の観測結果は太陽型を示唆するなど、理論と観測の解離が顕著だった。そこで研究チームは今回、スーパーコンピュータ「富岳」を駆使し、これまでにない大規模かつ高精度な恒星内部の数値シミュレーションを実施したという。
今回の研究では、自転の遅い星の内部を54億点以上の計算格子で分解するという、従来を遥かに凌ぐ改造でのシミュレーションが行われた。これにより、年老いた太陽に相当する自転の遅い星において、反太陽型が実在するかどうかの再検証が試みられた。具体的には、赤道で約25日の自転周期を持つ太陽に対し、100日程度の周期を持つ星も対象とされた。これは従来の理論に基づけば、確実に反太陽型が実現するはずのパラメータ範囲である。
太陽のようなプラズマ天体では、乱流効果によって赤道の自転が速まる太陽型差動回転が自発的に形成される。しかし、「富岳」による超高精度シミュレーションを実施した結果、自転が極めて遅い条件下であっても、反太陽型への遷移は発生しないことが明らかにされた。
過去のシミュレーションで反太陽型が生じるとされていた主因は、計算の解像度不足にあったという。解像度が低いと磁場が散逸しやすく、差動回転の形成における磁場の寄与が過小評価されてしまうためだ。それに対して今回のシミュレーションでは、高解像度化によって磁場が維持され、それが差動回転の構造に決定的な役割を果たすことが判明した。この磁場の作用こそが、老齢の星においても反太陽型の差動回転が実現しない鍵を握っていたのである。
研究チームによると、半世紀近く理論的に信じられてきた太陽型と反太陽型の遷移予想が、最新のシミュレーションによって覆された意義は極めて大きいといい、今回の成果を受け、研究チームは恒星の内部ダイナミクスを再考すべき局面が訪れたと述べる。
また、今回の発見は太陽のような星の磁気活動の進化や、その惑星系への影響を考える上でも重要な示唆を与えるとする。一部の理論では、星が老いて反太陽型に遷移すると磁気活動が再び活発化すると予想されていたが、今回の結果はその可能性を否定した。太陽のような星は加齢と共に一貫して磁気活動が弱まっていくことが確かめられ、これは既存の観測データとも合致することから、今回の知見は、年老いた星にある系外惑星の環境を検討する上で重要な指標となるとしている。

