京都工芸繊維大学(京工繊)と中央大学の両者は2月6日、電気的性質が異なるp型およびn型に制御した「半導体カーボンナノチューブ(CNT)」を用いた、冷却不要の高感度赤外線センサを開発したと共同で発表した。
同成果は、京工繊 材料化学系の野々口斐之准教授、同・山雄健史教授、同・稲田雄飛助教、中央大 理工学部の河野行雄教授、同・李恒助教、産業技術総合研究所 センシング技術研究部門 製造センシング研究グループの鈴木大地主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ/マイクロスケールの構造を扱う学術誌「Small Structures」に掲載された。
従来材料に比べ検出感度は約11倍に
赤外線は、可視光の長波長端である760~830nmから1mm程度までの幅広い範囲の電磁波だ。波長によって性質が異なるため、近赤外線、中赤外線、遠赤外線の3タイプに分けられている。中でも短波長側の近赤外線は、布やプラスチックなど、多くの有機材料を透過する性質を持ち、非破壊で内部の様子を調べることが可能だ。しかし赤外線はエネルギーが低いため、高感度に検出するには冷却が必要な装置が多く、低コストで簡便に使えるセンサの開発が求められていた。
CNTは、炭素原子が六角形に並んだ1枚のシート(2次元物質)であるグラフェンが筒状に丸まったものであり、直径数nmの極細の中空構造を持つ。その構造をコントロールすることで、電気の流れ方が金属的にも半導体的にもなることから、電子デバイス、センサ、エネルギー材料など、幅広い分野で高機能材料として注目されている。
そこで研究チームは今回、半導体型の単層CNTを高純度に分離し、さらに電気的性質の異なるp型とn型にそれぞれ化学的に制御した薄膜を組み合わせることで、冷却不要で高感度な赤外線センサの開発を試みたという。
電子が集団で振動する現象は「プラズモン共鳴」と呼ばれ、特定の光を強く吸収して熱に変換する性質を持つ。赤外線がCNTに照射された場合もこの現象が励起され、光エネルギーが効率よく熱に変換される。しかし、p型とn型では性質が異なることから、その境界部分に温度差が生じる。この温度差は「熱電変換」により電圧として取り出せ、赤外線の強さを電気信号として高感度に検出することが可能だ。
実験の結果、金属的性質のCNTが混在する従来材料を用いたセンサと比べ、今回の半導体CNTのみからなるセンサは、約11倍高い感度を示すことが確認された。これは、半導体CNTが熱を電気に変える熱電性能に優れ、さらに赤外線がプラズモン共鳴によって強く吸収されることで、効率よく温まることも大きな理由とのこと。加えて、化学的なドーピング処理によって熱が逃げにくくなり、より大きな温度差が生じることも示唆された。従来材料では、これら3つの性質を同時に制御するという発想がなく、今回初めてその同時最適化が実現されたことが、高感度化につながったとする。
今回の研究では、半導体型CNTの高純度分離、熱電性能を最大限に引き出す薄膜形成、p型・n型ドーピング、さらにそれらの電気特性を長期間安定に保つ封止技術までが一体として確立された。その結果、赤外線吸収、温度上昇、熱電変換の各過程を切り分けて評価でき、感度向上の要因を定量的に議論することが可能になったとした。
さらに、このセンサを用いることで、パッケージ内部の金属物体の形状を赤外線で画像化できることも実証された。このような非破壊・非接触での観察技術は、空港などのセキュリティ検査、製品内部の欠陥検査、医療・バイオ分野での診断、さらには次世代のテラヘルツ・赤外線通信の受信素子としての応用が期待されるという。
今回の成果は、冷却を必要としない小型・低消費電力の高感度赤外線センサ実現に向けた重要な一歩とする研究チームは今後、柔軟基板への実装やウェアラブルデバイスへの展開など、将来の社会実装に向けた応用研究を進める予定としている。


