半導体市場調査会社のTechInsightsが2026年の半導体産業と技術について包括的に展望し、その中から選定した5つのメガトレンドを分析した結果を発表した。
2026年のコンピューティング関連半導体売上高は好調だった2025年から引き続いて成長が予想されている。
ただし、同市場は、データセンター向けAIアクセラレータとプロセッサが急速に成長している一方、従来の消費者市場(PC、モバイル、組み込み)の成長は依然として低調であり、2025年の主要トレンドの続きと言える状況になるとみられるという。しかし、AI分野においても、従来のメモリ技術ではさらなる電力と性能要求を満たすことができず、データエコノミーのボトルネックになりつつあるためで、さらにデータセンターの増加とモデルの大規模化に伴う電力問題の深刻化が増すことが予想されるともしている。
こうした電力問題とパフォーマンス問題の解決策としては先端プロセスと先端パッケージングの進化が挙げられる。また、メモリの帯域幅の拡大がメモリのボトルネックの解消につながることが期待されるようになる。
このほかとしては、地政学的リスクの増大、特に米中間の関税と輸出制限は2026年に緩和ではなく、エスカレートする可能性もあり、こうした不透明さが半導体サプライチェーン全体にわたって、予測不可能な環境を生み出す要因となるとする。
1. AIはクラウド依存優勢でエッジはまだ先の話
大規模言語モデル(LLM)のパラメータ量は今後も増加し続ける見込みであり、その実現のためにデータセンター投資が継続されることとなるが、大規模キャンパスの電力需要は最大5GWに到達し、既存の電力網では賄いきれずにボトルネックとなっている。
そのため、パワー半導体として、高電圧SiCと高速スイッチングGaNパワーマネジメントIC(PMIC)がAIデータセンターにおいて不可欠な要素になりつつあり、「NVIDIAの800VDCイニシアチブ」はその証といえる。この取り組みは18の業界パートナーが参加し、メガワット規模のラックに対応するラック内ソリューションの提供を目指している。
こうした世界でもほんの一握りの企業によって開発されている「フロンティア」モデルが真かするのと同時に、より小規模で、特化されたモデルが台頭し、速度、効率、コスト、プライバシー、文化、言語といった面で最適化されることも期待される。実際、TechInsightsの社内でも自社のデータでトレーニングされた「Insightful Chatモデル」がクライアントのプライバシーに配慮した専門的な洞察を提供するようになっているという。
小規模特化モデルは、エージェントAIの基盤構築や、より限られたハードウェアリソースでのエッジAIの実現など、特定のタスクに利用されるようになることが期待されているが、Microsoft Copilot+ PCは、多くの人が期待したほどの牽引役にはなっていない。また、スマートホーム分野に関する最近の市場調査からは、エッジよりもクラウド処理への依存が高まっていることが示されるなど、エッジAIのメリット以上にクラウドへの依存が依然として高いままであり、エッジAIへの移行は2026年のトレンドにはならないとしている。
全体的に見ると、効率的な特化型AIモデルが登場する一方で、市場の中心はLLMのままであり、その対象範囲の拡大とともにメモリと電力問題も拡大し続けることとなるため、これらのボトルネックを解決できる企業が2026年の勝者となることが予想されるとする。
2. 微細化とトランジスタ構造の進化で性能向上と省電力化が進展
2nmプロセスによるGAAナノシートトランジスタへの移行という重要な年となる2026年。この新たなアーキテクチャは、低消費電力化と性能向上を同時に満たすことができる。先端プロセスを提供する3社、TSMC、Samsung Electronics、Intelのいずれもが2nmプロセス相当の技術を提供するが、中でもSamsungは先行して2022年提供3nmからGAAの導入を進めており、GAA技術は共同他者より1歩先んじているが、実際に主要外部顧客が採用するのは2nm(SF2)からと見られている。
最大手のTSMCの2nm(N2)プロセスは、2026年よりGAAで量産が行われる。すでにAMDは次世代データセンターCPU「EPYC」の製造契約を締結済みである。半導体市場のけん引役であるAIアクセラレータ関連は、最先端プロセスの動向とは切り離して考える必要がある。例えばNVIDIAの次世代GPUプラットフォーム「Rubin」は、3nm(N3)で製造されるためで、N2の採用は2027年以降と見られている。
TSMCは先進製造業において圧倒的な市場リーダーであり、同社のN2プロセスは、ナノシートGAAとともに2026年にリュさん開始される。AMDは既に次世代EPYCデータセンターCPU(GPUではない)をN2で製造する契約を締結しており、2026年に市場投入される予定である。 2026年のAIアクセラレータのロードマップは、これらの新しいプロセスには影響を受けない。例えば、NVIDIAのRubin GPUは、TSMCの3nmプロセスで製造される。新しい2nmアーキテクチャがAIアクセラレータのパワーとパフォーマンスを向上させ始めるのは2027年以降だろう
2026年の注目点は、各ファウンドリとどの顧客が正式契約を締結し、最終製品における早期のパフォーマンス向上と歩留まりを中心とする製造上の問題の有無の行方となる。先端プロセスで独り勝ち状態のTSMCに対抗できる真の競争相手が出現し、TSMCを追撃できれば、業界はその恩恵を受けることができるようになるとみられる。
3. メモリ業界を牽引するHBM4、新顔HBFに期待
AIアクセラレータを中心に活用されるHBMは高価格、高利益率製品であり、大手メモリメーカー各社が現行世代であるHBM3Eの生産能力の拡大を進めているほか、次世代の16Hi HBM4(16層品)を搭載したAIアクセラレータプラットフォームの量産が2026年上期より開始される見込みである。
また、HBMのベースダイについても従来のプレーナーからFinFETでの製造へと変更され、電力効率の向上が期待されるようになる。
さらに、キオクシアとSanDiskが開発した高帯域幅フラッシュメモリ(HBF)は、最終的にHBMを置き換える可能性があり、2026年にそのプロトタイプのリリースが期待されている。HBFのアプローチは、NANDメモリアレイを多数のミニアレイに分割し、各アレイに並列にアクセスするというもので、データセンターGPUにおけるHBMの置き換えだけでなく、スマートフォン(スマホ)などのエッジAIデバイスへの適用も期待されている。
DRAM/NANDの両方を手掛ける大手サプライヤは、利益率の高いDRAM/HBMの生産を優先し、その生産能力確保のためにNANDではなくHBMに振ることから、すべてのメモリの価格変動が激しくなり、2026年のメモリ供給は多くの産業分野で制限されるとTechInsightsでは予想している。
ただし、NANDについても積層数を3xx以上としたTLC/QLC製品が登場することが期待され、そうした3D NANDの高密度化と高性能化に向けて、高アスペクト比(HAR)極低温エッチング装置、ハイブリッド/直接ウェハ・ツー・ウェハ接合、オンピッチSGD(OPS)セル設計といった革新的な技術が登場すると予想される。
4. 電力と熱の問題解決に期待されるシリコンフォトニクスと先端パッケージング
AIのデータボトルネックの半分がメモリ起因とすると、残り半分はメモリから演算コアにデータを取り込む部分にあり、その速度と消費電力の課題解決としてシリコンフォトニクスが、コパッケージドオプティクス(CPO)として、ネットワークの消費電力を最大70%削減する技術として期待されている。
2026年は、TSMCのコンパクトユニバーサルフォトニックエンジン(COUPE)は、同社のCoWoS 2.5D集積パッケージング技術に統合される形で活用が期待されている。すでにNVIDIAの次世代スイッチングソリューションは、同プラットフォームを活用するように開発されている模様である。
加えて、デバイスの熱特性管理が重要な課題となっている。特に先端AIアクセラレータは液体冷却を必要とするレベルで、対応データセンター建設コストの増大、そしてそれに伴う水資源の枯渇による環境問題といった課題が生じている。メモリとCPOは熱に敏感であるため、高密度メモリデバイスが演算コアに近づき、CPOが集積されるにつれて、熱管理の改善は新しいテクノロジーを統合するための重要なステップとなるといえる。
そのため、先端パッケージングが重要な役割を担うことが期待され、放熱性と構造的完全性という点で優れた熱特性を持つガラス基板への移行が有望視されているほか、その他の解決策として、高度な熱伝導性材料(TIM)の開発も進んでいる。例えば、SK hynixは、近日発売予定の16Hi HBM4モジュールに、高度なMR-MUFパッケージング技術を採用する予定である。Intelの2nm相当プロセス技術である「Intel 18A」に採用されている裏面電源供給などの革新的な製造技術も、デバイスの熱プロファイルを改善する可能性がある。
5. 米中デカップリングによる貿易と関税の混乱
近年の米国を中心とした政治的な動き引き起こされている関税や貿易の制限により、ビジネスの環境は不安定になっているといえる。
多くの国・地域が、米国のCHIPS法をはじめとする大規模な政府投資によって半導体製造の自立性を高める動きを見せつつある。また米国は、関税と貿易制限を組み合わせ、国内製造を促進するための追加的な手段として活用しているが、これらの動向はCHIPS法というアメに付随するムチのようなもので、半導体や材料の調達環境は予測不可能であるといえ、2026年は、サプライチェーンの変革と、高関税を回避できる地域への製造拠点の移転に向けた取り組みが加速すると予想される。
また、米国政権によるさまざまな対中措置に対し、中国は戦略的にxPU(CPU/GPU/NPUなど)開発を加速させ、RISC-Vを中心に据えて独立性の確保を目指しているほか、パワー半導体の生産も増加させている。
ただし、EUV露光装置の入手制約により、中国は未だ7nmプロセス以下の量産に苦心しており、中国政府は国産代替技術の支援と開発を継続する一方で、国産技術が代替するまでは非国産技術の使用を認める政策をとっており、2026年も当該分野の中国の動きは注目すべきである。
AIモデルそのものについては、中国は先行する米国との差を縮めていると言えるだろう。すでにAI研究論文、特許、ベンチャーキャピタル投資の件数において世界をリードする状況となりつつあり、DeepSeek R1は、米国のトップクラスのクローズドモデルと常に遜色ない水準を維持しつつ、一般的に価格が手頃で、大部分がオープンソースになっている。規制によって中国のハードウェアへのアクセスは制限されているかもしれないが、2026年には中国からさらなるソフトウェア革新が生まれる可能性があるとTechInsightsでは予想している。
