京都大学(京大)、理化学研究所(理研)、大阪大学(阪大)、筑波大学の4者は1月23日、スズの不安定同位体で、陽子・中性子共に「魔法数」の「二重閉殻構造」を持つ「132Sn」の物質半径の測定に成功し、その値が第一原理計算による予言値よりも小さいことなどを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、京大大学院 理学研究科の土方佑斗大学院生(現・理研所属)、同・銭廣十三准教授、同・堂園昌伯助教、理研 仁科加速器科学研究センター 核反応研究部の上坂友洋部長、阪大 核物理研究センターの松田洋平教授、同・大田晋輔教授、筑波大 計算科学研究センターの宮城宇志助教、東大 原子核科学研究センターの横山輪助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する理論物理と実験物理を扱う英文学術誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載された。
重い中性子過剰核は、正電荷で反発し合う陽子を抑え込むために多くの中性子を抱え、結果として外側に滲み出す「中性子スキン構造」が発達する。近年、この構造解明の手がかりとして、陽子・中性子共に「魔法数」(陽子と中性子が安定となる個数2、8、20、28、50、82、126のこと)を持つ二重閉殻構造の1つ、不安定核132Sn(陽子50・中性子82)が注目を集めている。
二重閉殻核は理論計算の不定性が小さく、その中性子スキンの厚さから、中性子星に代表される中性子物質の「状態方程式」を調べることが可能だ。この物性理解には詳細なデータが不可欠なため、研究チームは今回、132Snの陽子に対する「弾性散乱」実験を実施し、その物質半径の直接測定を試みたという。
陽子の弾性散乱とは、陽子が原子核に散乱される際にエネルギーの授受をせず、運動量のみ移行する反応のことだ。この測定では量子的な干渉を利用し、原子核内の陽子や中性子の密度分布や半径などを直接観測することができる。不安定核での測定は極めて困難だったが、今回、散乱角度に依存した干渉縞の初確認に成功。その角度分布解析から、132Snの物質密度分布と物質半径が決定された。
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実験装置の概略図。ウラン238(238U)ビームとベリリウム標的の衝突から生成された132SnビームがBigRIPSスペクトロメータを通過し、終端で固体水素標的に照射される。陽子弾性散乱事象をRPS検出器群で測定する仕組みだ。(出所:京大プレスリリースPDF)
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(a)陽子弾性散乱の角度ごとの強度(微分散乱断面積)。干渉縞が確認された。黒線は実験データを基に再現した理論計算。(b)干渉縞から得られた132Snの物質密度分布。球対称を仮定し、動径方向の密度分布として表現されている。灰色のバンドは実験誤差を反映した不定性を表す。(出所:京大プレスリリースPDF)
次に、得られた物質半径を複数の理論計算と比較したところ、どの予言値よりも小さいことが判明。これは、陽子と中性子が想像以上にコンパクトな領域に閉じ込められていることを意味するとした。
さらに、物質半径の同位体依存性を調査。中性子過剰な二重閉殻核である132Snは、安定核において成立する半径と質量の間の関係性の「1/3べき乗則」からズレが生じていることも解明された。同法則は「原子核密度の飽和性」のことであり、原子核の質量数によらず、密度が一定なら半径は質量数の1/3べき乗に比例することを示す。今回のズレは、カルシウムに次いで2例目であることから、中性子過剰核に共通する特徴である可能性が浮上した。
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(a)132Snの荷電半径と物質半径を、第一原理計算(緑、オレンジ、シアンの十字、十字の長さは用いている相互作用の不定性を加味)と、従来用いられてきた多様な「平均場近似」の理論モデル(マゼンタ、黒)で比較したもの。概ね実験結果(縦軸:先行研究による荷電半径の結果、横軸:今回の研究結果)の方が、黒丸で囲んだ理論計算より小さい(ただし、シアンで示されるような例外もある)。(b)物質半径と荷電半径のスズ同位体の質量数依存性。点はすべて実験値。安定核で物質半径は質量数Aの1/3乗に比例しているが、132Snではそこから大きく外れている。(出所:京大プレスリリースPDF)
今後は、この特徴の普遍性を調べることが重要であり、特に、中性子過剰で二重閉殻核で最も大きな「208Pb」を含む鉛同位体での確認が不可欠とした。もしカルシウムやスズのような特徴が成立しなければ、不定性が小さいと思われていた二重閉殻構造を持つ原子核の理論モデルや、状態方程式の理解筋にも大幅な修正が必要になるとする
中性子過剰で二重閉殻構造を持つ原子核の1つに、カルシウムの極超長寿命不安定核(半減期6400京年)の「48Ca」が存在する。米国における48Caと208Pbに関する実験では、中性子スキン厚が、48Caでは非常に薄く、208Pbでは非常に厚いという矛盾する結果が示されている。今回の結果は、その48Caに関する実験結果を支持するものであり、荷電半径と合わせて考えると、132Snも48Caと同様に小さい物質半径、薄い中性子スキン厚であることが判明した。もし、従来の理論に基づいて今回の結果を解釈すれば、中性子物質は状態方程式の解釈から「柔らかい」特性を持つことが示唆された。
研究チームは現在、今回の成果を足がかりに、不安定核領域でのみで現れる特殊な魔法数(16、32、34)により、二重閉殻構造を獲得していることが判明した52Caでの測定を計画中とのこと。陽子に対し中性子数が極めて多い52Caを調べることで、中性子物質の物性により詳しくアプローチすることが期待されるとしている。