物質・材料研究機構(NIMS)や東京大学などでつくる研究グループが、二硫化モリブデン(MoS2)を用いた“革新的な成膜技術”を開発したと1月21日に発表。「ウエハースケールで高品質かつ均一な二次元半導体(2D半導体)の単結晶薄膜を安定して製造できる道を切り拓いた」とし、将来の大規模集積回路や低消費電力エレクトロニクス、光電子デバイス応用において大きな意義があると説明している。

  • MoS2単結晶ウエハーとデバイス群 出所:NIMSニュースリリース

    MoS2単結晶ウエハーとデバイス群 出所:NIMSニュースリリース

NIMSの佐久間 芳樹NIMS特別研究員、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の長汐晃輔教授らの研究グループと、名古屋大学、筑波大学、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズとの共同研究による成果。論文は自然科学分野の学術雑誌「Nature Communications」に掲載されている。

研究の背景

シリコンを用いた従来の半導体デバイスは微細化の限界に近づいている。特にサブ1nm(ナノメートル)ノード世代においては、MOSFETの微細化に伴ってトランジスタのチャネル長が短くなることで現れる特性劣化(短チャネル効果)を抑制できる、新しい半導体材料が求められている。

その候補として注目されているのが、わずか0.7nmの原子層厚さを持つ二次元材料(2D材料)だ。特に、二硫化モリブデン(MoS2)は高い電気的・機械的特性をあわせ持ち、次世代論理デバイスのチャネル材料として有力視されている。

その実用化に向け、ウエハースケールで高品質かつ単結晶性を持つ原子層厚さのMoS2膜を安定的に成長させることが必須となる。これまでの研究では、粉末原料を用いた簡易的な化学気相成長法(粉末原料CVD)を用いてサファイア基板上にMoS2を成長させる試みが行われてきたが、再現性や大面積化に課題があった。

ほかにも、60度反平行ドメインや回転ドメインの混在による結晶粒界の形成が避けられず、トランジスタの性能指標である「電子移動度」が著しく劣化するという問題が指摘されている。

今回の研究成果

研究グループは今回、「有機金属化学気相成長法」(MOCVD)を用いた単層膜厚のMoS2の成長に関して、サファイア基板上のMoS2結晶粒が自己整合して単結晶化する革新的な成長メカニズムを発見。

このメカニズムを利用することで、単層MoS2単結晶膜をウエハースケールで再現性高くエピタキシャル成長(欠陥の少ない高品質な薄膜を製造できる、薄膜結晶成長技術のひとつ)させることが可能になった。また、電子移動度の温度依存性から、この手法によるMoS2は欠陥密度が少なく高品質であることが実証されたとのこと。

  • 従来手法と、今回の研究による新手法の違い 出所:東京大学ニュースリリース

    従来手法と、今回の研究による新手法の違い 出所:東京大学ニュースリリース

  • Differential DF-TEMによる自己整合機構の直接的な証拠 出所:東京大学ニュースリリース

    Differential DF-TEMによる自己整合機構の直接的な証拠 出所:東京大学ニュースリリース

  • (a)自己制限的成長挙動、(b)ラマンおよび(c)PLマッピング測定 (a)縦軸は吸光度、横軸は成長に要する時間。従来手法に比べ、本手法では成長が単層で制限される、つまり二層目の成長がほとんど起こらず、均一な単層膜ができていることがわかる。(b)ラマン計測の結果から、できあがった膜の厚さは均一であるとわかる。(c)縦軸は蛍光(PL)強度、横軸は発光エネルギー。特定のエネルギーにおいて強いPLが見られ、得られたMoS2膜が高品質かつ均一な単層膜であることがわかる 出所:東京大学ニュースリリース

    (a)自己制限的成長挙動、(b)ラマンおよび(c)PLマッピング測定 (a)縦軸は吸光度、横軸は成長に要する時間。従来手法に比べ、本手法では成長が単層で制限される、つまり二層目の成長がほとんど起こらず、均一な単層膜ができていることがわかる。(b)ラマン計測の結果から、できあがった膜の厚さは均一であるとわかる。(c)縦軸は蛍光(PL)強度、横軸は発光エネルギー。特定のエネルギーにおいて強いPLが見られ、得られたMoS2膜が高品質かつ均一な単層膜であることがわかる 出所:東京大学ニュースリリース

今回の研究では、産業展開に有利な高い制御性を備えたMOCVD法に基づく新手法を開発しているのもポイントのひとつ。MOCVDは、半導体や酸化物などの薄膜形成のための成長技術であり、現在の半導体産業でも広く用いられているという。

研究グループは、今回の成果は2D半導体の“産業的なウエハースケール成長”の実現に向けた大きな進展だと強調。特に、「粒界のない単結晶の形成(高移動度デバイスの実現)」、「自己制限的な単層成長(膜厚の均一性保証)」、「MOCVD技術の利用(既存の半導体産業に直結したプロセス互換性)」という3つの特徴は、2D半導体をシリコンに代わる次世代ロジック材料として実用化するための重要な要件を満たすと説明している。

今後は、欠陥密度のさらなる低減や、MoS2以外の遷移金属ダイカルコゲナイド(WSe2など)への適用拡大を進めるとともに、産業規模での大面積集積デバイス化をめざす。これにより、次世代の低消費電力エレクトロニクスや光通信デバイス、さらにはIoTセンサー技術に大きく寄与することが期待されるとのこと。