京都大学(京大)は1月22日、有機半導体が基板上で形成する厚さ数ナノメートルの「超薄膜」において、これまで直接識別することが困難だった最初の一層目などの詳細な構造を、独自開発の解析手法を用いて分子レベルで正確かつ実験的に解明することに成功したと発表した。
同成果は、京大 化学研究所の塩谷暢貴助教、同・長谷川健教授らを中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Chemistry of Materials」に掲載された。
同じ化学組成を持つ物質でも、分子の並び方の違いによって複数の結晶構造が現れる現象を「多形成(ポリモルフィズム)」と呼び、有機材料もその特性を備えている。複数の結晶構造は「結晶多形」と総称され、それらは材料の性質と密接に関係していることから、多形の解明は医薬品や各種製品の開発における重要な基礎研究課題とされている。
センサや薄型ディスプレイ、トランジスタなどに活用される有機半導体は、炭素を中心とした共役系骨格を持つ有機分子で構成される半導体材料だ。同半導体は、分子が基板上に整然と並ぶ「薄膜」の状態で利用されることが多く、分子配列(結晶構造)がデバイス性能を大きく左右する。しかし、有機半導体が最初の1層目を形成する際の結晶構造を実験的に調べることは極めて困難であり、これまでは多層膜や単結晶の構造から薄膜の性質を推測せざるを得なかったという。
近年、一部の材料では「薄膜相(基板誘起相)」と呼ばれる、薄膜特有の結晶相が存在する可能性が指摘されていた。これは、分子が基板上でナノメートルサイズの薄膜層を形成した際に現れる、単結晶とは異なる構造を指す。しかし、単分子層と多層膜の構造を明確に区別する手法が確立されていなかったことが、薄膜成長の初期段階を理解する上での大きな障壁となっていた。
そこで研究チームは今回、この問題を解決するため、分子の並び方を高精度で捉える赤外分光法とX線回折、さらに量子化学計算を組み合わせた独自の解析手法を構築。薄膜の成長過程に潜む「隠れた結晶相」の直接解明を試みたという。
今回の研究では、代表的な有機半導体材料である「ジナフトチエノチオフェン」(DNTT)が着目された。DNTTは高い安定性と良好な電気特性を併せ持ち、デバイス研究のモデル物質として広く利用されている。しかし、その薄膜構造と電気物性の相関については、これまで単結晶構造を基に議論されてきた。そこで、上述した独自開発した手法を用いた詳細な解析が実施された。
解析の具体的な手順としては、まず赤外分光法を用いて各結晶相に特有の吸収バンドを識別し、次いでX線回折によって各結晶相の格子定数が実験的に決定。これらの情報を基に、最終的に量子化学計算を駆使して各結晶相の構造モデルが導き出された。
この統合解析の結果、DNTT薄膜には膜厚の変化に応じて3つの異なる結晶相が現れることが明らかになった。1層目の「単分子膜相」では単結晶や多層膜とも異なる独自の分子配列が見られ、数十nmの厚さの「薄膜相」では単分子膜相から転移した中間構造へと変化。そして、それ以上の厚さを持つ「バルク相」において、ようやく単結晶と同じ安定構造に至ることが判明した。
今回の研究成果は、これまで存在が曖昧だった単分子膜相の構造を薄膜相と明確に区別し、実験的に立証した点に大きな意義があるとする。これにより、有機薄膜の形成過程を連続的な相変化として体系的に理解できるようになったとした。この知見は、界面の精密制御を通じた高性能トランジスタや高感度センサの設計、さらには有機デバイスの再現性向上に寄与することが期待されるとする研究チームは今後、他の有機半導体材料へ今回の手法を展開し、普遍的な薄膜構造解析プラットフォームの構築を目指すと共に、界面の設計や制御技術と組み合わせた材料開発にも応用を進めていく予定としている。
