国立天文台、東北大学、早稲田大学(早大)の3者は1月22日、すばる望遠鏡を用いた観測により、約120億年前の初期宇宙において、非常に多くのガスを飲み込んで「エディントン限界」を超えて成長しながら、本来は同時に明るくは輝かないはずのX線と電波の両方で明るく輝く特異なクエーサーを発見したと共同で発表した。

  • 超大質量ブラックホールの想像図

    超大質量ブラックホールの想像図。中心のブラックホールにガスが引き寄せられて降着円盤が形成され、その中心部からジェットが放出されている様子。(c)NASA/JPL-Caltech(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、早大 理工学術院 先進理工学研究科の小渕紗希子大学院生、東北大 学際科学フロンティア研究所 新領域創成研究部の市川幸平准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

宇宙に存在する大半の銀河の中心には、太陽質量の数十万倍から数十億倍の超大質量ブラックホールが存在していると考えられている。ブラックホールは周囲の物質を吸い込むことで成長し、その過程で強い光を放つ。周囲のガスは次々と飲み込まれていくわけではなく、ブラックホールを周回しながら円盤状に取り囲んで「降着円盤」を形成する。

降着円盤を構成するガスは相対論的な速度で周回しており、摩擦熱で超高温となる。また、降着円盤を構成する物質は必ずしもすべてがブラックホールに飲み込まれるわけではなく、一部は相対論的な高速度のジェットとして両極方向に放出される。こうした現象に伴い、可視光、紫外線、X線、電波など、多種多様な波長の電磁波が放出される。

中心の超大質量ブラックホールが活動的な場合、非常に明るく輝く中心部は「活動銀河核」と呼ばれる。その中でも、母銀河全体の明るさを凌駕するほど強力に輝く天体がクェーサーだ。こうした天体がどのように成長し、母銀河の進化とどのように関連しているのかは、宇宙物理学における大きな謎となっている。

超大質量ブラックホールの成長を解明する重要な鍵が、「超エディントン降着」だ。ブラックホールが物質を取り込む速さ(質量降着率)には、光の圧力と重力が釣り合う理論的な上限である「エディントン限界」が存在するが、一部の天体ではそれを超えた超エディントン降着が確認されている。これは、ブラックホールが短時間で急激に巨大化する可能性を示すもので、初期宇宙にすでに超大質量ブラックホールが存在していた理由を説明する有力なモデルだ。

そこで研究チームは今回、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置「MOIRCS(モアックス)」を用いた分光観測を実施。初期宇宙にあるクェーサー周辺のガスの運動を調べ、超大質量ブラックホールの質量を高精度に測定することで、その成長過程を詳細に解析したという。

測定の結果、超エディントン降着段階にあるクェーサー「eFEDS J084222.9+001000」が、約120億年前の初期宇宙にて発見された。X線での輝度から見積もられた質量降着率は、理論上限の約13倍にも達することが判明した。このことから、これまでに観測された同程度の質量を持つ超大質量ブラックホールの中で、最も急速に成長している天体であることが明らかにされた。

  • 今回発見された天体と既知のブラックホールの質量とクエーサー光度の関係

    今回発見された天体(赤い星)と、既知のブラックホールの質量とクエーサー光度(ブラックホールの成長率)の関係。実線は理論的なエディントン限界を表し、点線はその10倍の降着率を示す。すばる望遠鏡による質量測定により、同天体が顕著な超エディントン降着状態にあることが示された。(c)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

特筆すべきは、このクェーサーがX線と電波の両方で非常に明るく輝いている点だ。従来、超エディントン降着の段階では、高温ガス領域が効率的に冷却されてX線が弱まり、電波で観測されるジェットも目立たなくなると考えられてきた。しかし今回、超エディントン降着にありながら、X線と電波が共に明るいクェーサーが初めて発見された。この天体には、従来の理論では想定されていなかった特異な成長メカニズムが隠されている可能性があるとした。

研究チームは、極めて明るいX線が観測された理由として、超大質量ブラックホールの成長が変動している可能性を提唱している。星やガスの塊との衝突などで一時的に大量のガスが流入すると、ブラックホールは急激に成長期(超エディントン降着)に入り、その後に元の状態へ戻る。この遷移過程で、超エディントン降着と明るいX線放射が一時的に共存する可能性があるという。今回の天体は、初期宇宙において、超大質量ブラックホールが変動を伴いながら成長する過程を初めて捉えた事例になるとした。

一方、電波の明るさは、このクェーサーが、母銀河の星生成を抑制しうるほど激しいジェットを放出していることを示唆しているという。超エディントン降着とジェット放射の関係は依然として未解明な部分が多いが、今回の発見は、初期宇宙において母銀河と中心の超大質量ブラックホールがどのように影響し合いながら成長するのかを理解する上で、極めて重要な手がかりになるとしている。