宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月24日、同機構が運用するX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」などを用いて、近傍宇宙の活動銀河「NGC 3783」の中心に存在する超大質量ブラックホールの周囲を巡る降着円盤から突如噴き出したガスを観測した結果、光速の約20%にも達するそのガスの猛烈な加速は、太陽の「コロナ質量放出」と同様に磁力線のつなぎ替わり現象である「磁気リコネクション」によって引き起こされた可能性があると発表した。

  • 「Resolve」が取得したNGC 3783のX線スペクトルとハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像の合成画像

    XRISM搭載の軟X線分光装置「Resolve」が取得したNGC 3783のX線スペクトルとハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像の合成画像。(c)ハッブル宇宙望遠鏡はNASA、XRISMのスペクトルはJAXA/ESA/NASA(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、理研や理科大学などに所属するLiyi Gu氏を中心にXRISMが主導し、XMM-ニュートン、NuSTAR、ハッブル宇宙望遠鏡、チャンドラ、スウィフト、NICERの欧米の7つの宇宙ミッションの協力により行われた。詳細は、天文学と天体物理学を扱う学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。

宇宙中の大半の銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。その超大質量ブラックホールと、属する母銀河には質量の相関が認められることから、両者は互いに影響を及ぼしながら共進化してきたと推測されている。しかし、その具体的なメカニズムには謎が多く、現代天文学の未解決問題の1つとなっている。

この課題を解決する鍵となるのが、活動銀河核である。活動銀河核とは、超大質量ブラックホールに落ち込む物質の重力エネルギーが解放され、銀河中心部が非常に明るく輝く現象、あるいはその明るく輝く中心部自体を指す。こうした活動銀河核を持つ銀河は活動銀河と呼ばれ、中でも中心部が母銀河全体の明るさを凌駕するほど強力に輝くものは「クェーサー」に分類される。

活動銀河核は、超大質量ブラックホールの成長現場と考えられている。成長のためには物質の降着が必要だが、ブラックホールはすべての物質を吸い込むわけではなく、逆に一部をエネルギーや運動量として周囲へ放出している。このプロセスは「フィードバック」と呼ばれ、銀河の進化プロセスにおいて重要な役割を果たすと考えられている。つまり、ブラックホール周辺の星やガスに影響を与え、現在の宇宙の姿を形作る要因となった可能性があるのである。

2023年9月7日に打ち上げられたXRISMは、初期性能検証期間中の2024年7月18日から27日までの10日間に活動銀河核NGC 3783を観測し、その詳細なスペクトルデータを取得した。そしてXRISMは観測期間中、紫外線とX線の境界域にあたる「軟X線」の波長帯での明るさの変動を確認したという。

3日間続いた爆発現象を含め、こうした変動そのものは超大質量ブラックホールにおいて珍しいことではない。しかし、今回の特筆すべき点は、降着円盤からのガス放出の瞬間が観測されたことだ。このガスは光速の20%にも達する秒速約6万kmという、相対論的な猛烈な速度で弾き飛ばされたことが確認された。XRISM搭載の軟X線分光装置「Resolve(リゾルブ)」によって、その発生から加速の様子までが捉えられたのである。

  • 超大質量ブラックホールから高速ガスが噴出する様子の想像図

    超大質量ブラックホールから高速ガスが噴出する様子の想像図。ブラックホールの囲む降着円盤の超高温領域からループ状にX線フレアが発生し、猛烈なガスが放出される様子が描かれている。(c)ESA(出所:XRISM公式サイト)

ガスが噴出したのは、超大質量ブラックホール本体(事象の地平面)の大きさの約50倍という極めて近接した領域だった。そこは、重力と磁力が激しくせめぎ合う極限環境である。この噴出は、太陽表面で起きる爆発現象のコロナ質量放出と同様、磁気リコネクションによって引き起こされたと可能性があるとした。磁気リコネクションは、磁場のつなぎ替わりが起き、莫大なエネルギーが解放される現象を指す。

  • 「Solar Dynamics Observatory」がとらえた太陽からのフィラメント噴出

    太陽観測衛星「Solar Dynamics Observatory」がとらえた太陽からのフィラメント噴出。2012年に発生したこの現象では、コロナ質量放出によりプラズマが太陽系内に放出された。超大質量ブラックホールの降着円盤からのガス噴出は、このコロナ質量放出と加速パターンが酷似しており、同様に磁気リコネクションでガスが吹き飛ばれた可能性があるとしている。(c)NASA/GSFC(出所:XRISM公式サイト)

こうした噴出は強力な光エネルギー(放射圧)によっても引き起こされるが、今回の原因は「磁場の急激な変化」にあると分析された。計算の結果、観測された猛烈な急加速を起こすには、光エネルギーだけではまったく不足していることが判明したためだ。その一方で、ガスが加速していく様子を詳細に分析すると、太陽のコロナ質量放出における加速パターンと酷似していることが明らかになったとした。このことから、超大質量ブラックホールの周囲でも、磁気リコネクションでガスが吹き飛ばされたと考えると、つじつまが合うとしている。

今回の研究成果は、ブラックホールが単に物質を吸い込むだけでなく、特定の条件下では宇宙空間へ物質を吹き飛ばしている実態に新たな知見を与えるものとなったという。この成果は、長年の謎である活動銀河核から噴き出す超高速なガス噴出の駆動機構、および超大質量ブラックホールから銀河へのフィードバック機構の解明につながるものとしている。