既報の通り、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月22日、H3ロケット8号機で準天頂衛星システム「みちびき5号機」の打ち上げを実施したものの、飛行中に発生した問題により、所定の軌道への投入に失敗。同日14時35分より記者会見を開催し、現時点で分かっていることについて説明を行った。

  • H3ロケット8号機の打ち上げの様子 出所:準天頂衛星システム「みちびき5号機」/H3ロケット8号機打上げライブ中継(JAXA公式YouTubeチャンネル)

    H3ロケット8号機の打ち上げの様子 出所:準天頂衛星システム「みちびき5号機」/H3ロケット8号機打上げライブ中継(JAXA公式YouTubeチャンネル)

第2段エンジンの燃焼で異常が発生

まだ打ち上げの数時間後ということもあり、原因など詳しいことは分かっていないものの、まずは確認できている事象から整理してみたい。

失敗に直接関わる大きな事象は、第2段エンジンの2回目の燃焼が正常に起動せず、すぐに停止したことだ。今回の打ち上げでは、まず1回目の燃焼で地球を周回する軌道に入れ、2回目の燃焼で遠地点高度を上げ、近地点高度が約370km、遠地点高度が約35,586kmの楕円軌道に投入する計画だったが、それができなかった。

ただ、今回の打ち上げでは、それ以前から異変が見られた。第2段エンジンの1回目の燃焼開始(下図の6)はほぼ予定通りのタイミングだったが、燃焼が停止したのは27秒遅れ(下図の7)。数秒程度なら正常な範囲であるが、これは明らかにおかしい。

  • H3ロケット8号機の打ち上げ結果 (C)JAXA

    H3ロケット8号機の打ち上げ結果 (C)JAXA

JAXAによると、すでに第1段の飛行中、打ち上げ後200秒くらいから、第2段の水素タンクの圧力が下がり始めたという。第2段エンジンの1回目燃焼において、推力がやや小さかったことも確認されており、そのため予定の軌道への投入に時間がかかり、燃焼停止が遅れたと考えれば、辻褄は合う。

しかしその後も圧力の低下は進み、2回目の燃焼開始時には、通常よりもかなり低い圧力になっていたという。ロケットは自動シーケンスで燃焼開始を試みたものの、推力が一度立ち上がったあと、すぐに止まってしまった。圧力が低すぎると、燃料を吸い込めなくなることが分かっており、その現象が発生した可能性がある。

搭載したみちびき5号機を分離したのかどうかは、記者会見の時点では分かっていない。実際に投入された軌道の高度もまだ検討中とのことで、明らかにされなかった。ロケットとの通信は正常に行われていたが、もともとクリスマス局(編注:キリバス共和国・クリスマス島にある、JAXAの追尾局)との通信完了後に送信機の電源を切るシーケンスになっており、それ以降の状態は不明だ。

  • 本来の飛行計画 (C)JAXA

    本来の飛行計画 (C)JAXA

今後の見通しは現時点で何も立たず

事実として分かっていることは以上だ。

ここからは推測を交えた話になるが、まず気になるのは人工衛星の状況である。おそらく、ここからのリカバリーはきわめて難しい。仮にロケットから分離できていたとしても、現在の軌道高度はかなり低いはずで、すぐに再突入してしまう可能性がある。対策を立てるにしても、時間的な猶予はあまりない。

日本にとって、他国のシステムに頼らず、独自に衛星測位が可能になるみちびきの7機体制の構築は悲願。今回のみちびき5号機のあと、2026年2月に同7号機を打ち上げ、それで7機体制が完成する計画だったが、原因究明と対策が完了するまでロケットの打ち上げが止まるうえに、追加の打ち上げも必要となる。計画の年単位の遅れは必至だ。

H3ロケットは初号機が2023年3月に失敗してから、原因究明が難航。2号機を2024年2月に打ち上げるまで、1年近くを要した。原因次第で対策に要する期間も大幅に変わるため、次の打ち上げがいつになるかは、現時点でまったく分からない。まずは、原因をなるべく早く突き止めるしかない。

ただ気になるのは、火星衛星探査計画(MMX)の打ち上げを2026年度に控えていることだ。惑星探査のウィンドウは人間の都合で動かせないため、これにもし間に合わないようなら、打ち上げを2年後のウィンドウまで遅らせるか、あるいはロケットを変更して海外で打ち上げるしかない。

H3ロケットは、先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)を搭載した初号機が打ち上げに失敗。7機目となる8号機は、それに続く失敗となり、約83.3%まで上がっていた成功率は約71.4%まで低下した。初号機でのつまずきを挽回するため、この先はH-IIAのような連続成功が求められていただけに、7回目の打ち上げで再度の失敗というのは衝撃が大きい。

当時のプロジェクトマネージャとして、初号機の原因究明で指揮を執ったJAXAの岡田匡史理事(打ち上げ実施責任者)は、「いま我々がやるべきは全力での原因究明」とコメント。「今後H3が信頼性の高いロケットとしてまた役目を果たせるよう、私も全力で取り組みたい」と、決意を述べた。

  • JAXAの岡田匡史理事(打ち上げ実施責任者) (C)JAXA

    JAXAの岡田匡史理事(打ち上げ実施責任者) (C)JAXA