金沢大学(金大)と東北大学の両者は12月17日、水星で観測された電磁波現象「コーラス放射」が、地球磁気圏(地球の磁場が支配する宇宙空間の領域)で長年観測されてきたものと類似した周波数変化の特徴を示し、惑星間での電磁波現象の共通性があることを解明したと共同で発表した。

  • GEOTAILと「みお」によるコーラス放射の協調観測のイメージ

    GEOTAIL(左)と「みお」(右)によるコーラス放射の協調観測のイメージ。(c)水星画像:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington BepiColombo探査機画像:ESA 地球画像:NASA(出所:共同プレスリリースPDF)(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、金大 理工研究域 電子情報通信学系の尾崎光紀准教授、同・八木谷聡教授、同・松田昇也准教授、金大 学術メディア創成センターの笠原禎也教授、東北大大学院 理学研究科の笠羽康正教授、京都大学 生存圏研究所の大村善治特任教授、マグネデザインの疋島充氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所の村上豪助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

惑星が起こす電磁波やオーロラの理解進展に光

コーラス放射は、惑星磁気圏内の電子と電磁波の共鳴により発生する現象で、地球では高エネルギープラズマが集まる放射線帯(ヴァン・アレン帯)の形成と消失に関わる。同現象は周波数が可聴域で上下し、小鳥のさえずりのような音が無線通信に紛れることで知られる。周波数により影響を受ける電子のエネルギーが決まるため、宇宙天気予測や宇宙機の放射線防護において、コーラス放射の周波数特性の理解は極めて重要とされる。

一方、太陽系最小の惑星である水星には、地球の約100分の1と弱いが固有磁場が存在する。現在、同惑星に向けてJAXAと欧州宇宙機関(ESA)の国際探査計画「BepiColombo(ベピ・コロンボ)」が進行中で、水星磁気圏探査機「みお」と水星表面探査機「MPO」が2026年11月の周回軌道投入を目指している。

これまで水星磁気圏における電磁波現象は未探査で、理論研究での予測に留まっていた。「みお」には、その検証用として電磁波観測装置が搭載されている。「みお」とMPOはまだ周回軌道に入っていないが、2021年から2025年に計6回の水星スイングバイを実施。その際、同装置により水星磁気圏における可聴域の自然電磁波を複数回検出された。

これがコーラス放射なら、大気のほぼない水星近傍に、プラズマを構成する100eV以下の低エネルギー(冷たい)電子が存在することを示唆する。しかし、この電磁波が地球同様に「小鳥のさえずり」のような特徴を持つのかどうかは未確認だった。そこで研究チームは今回、詳細な解析を行うことにしたという。

比較対象とされたのは、2022年11月まで30年以上運用された日米共同の地球磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」のデータである。同衛星により、コーラス放射の発生条件、空間分布、周波数特性などの知見が得られ、地球近傍の宇宙空間に関する理解が大きく前進した。同衛星は、地球半径の約10倍という遠方を観測しており、その領域は地球より1桁以上小さな水星磁気圏と物理的条件が似ているため、比較に適していたとする。

水星のデータは、GEOTAILによる典型的なコーラス放射の周波数増加率や振幅強度などと照合された。その結果、短時間での周波数変動(地球同様に、電子と電磁波との非線形な結合を示す)や、高エネルギー電子が流入しやすい朝側領域への集中など、定量的な一致が確認されたとした。これらは、惑星間での電磁波の発生メカニズムの普遍性を示し、水星以外の他惑星への適用も視野に入る発見だった。

  • 「みお」と、GEOTAILによるコーラス放射の周波数変化率の類似性

    「みお」(灰色の長方形)と、GEOTAIL(色付きの点)によるコーラス放射の周波数変化率の類似性(出所:共同プレスリリースPDF)

さらに、研究チームが提唱する「水星周辺の冷たい電子の存在」を裏付ける重要な証拠にもなる。大気のほぼない水星では、冷たい電子は存在しないとされてきたが、今回の成果により、表面から湧き出す成分が水星を包む電離大気の多くを占め得ることが示唆された。これは、2027年春から始まる「みお」の周回観測における重要なテーマとなるとしている。

今回の成果は、磁場が弱く磁気圏が小さいため、放射線帯は形成されにくいとされる水星でも、高エネルギー電子の加速が有効であることを示すものだ。「みお」の観測開始により、コーラス放射の空間分布や周波数変動、冷たい電子の実在性や起源などが解明され、水星理解の進展が期待されるとした。また、火星・木星・土星など、他惑星への応用も視野に入る。地球のオーロラのような現象が他惑星でどのように展開されるのか、その理解に寄与していくとしている。