朱雀三号の打ち上げが意味するもの
打ち上げ成功により、朱雀三号は、同社の朱雀二号、米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の「ヴァルカン」、そして米ブルー・オリジンの「ニュー・グレン」に続き、軌道に到達したメタン・ロケットとして史上4例目となった。それも、新型ロケットの初の打ち上げで成功を収めたことは、同社の技術力の高さを示すものであり、注目に値する。
着陸は失敗に終わったものの、これまでに再使用型の衛星打ち上げロケットが最初の試みで着陸に成功した例はない。スペースXは失敗を繰り返しており、ブルー・オリジンのニュー・グレンが2回目の試みで達成したのが最短だ。
また、着陸場の近くまで戻ってくることができたのは、少なくともそこまで飛行や制御が正常だったという証であり、次につながる大きな成果であろう。
藍箭航天は、朱雀三号の主な打ち上げ需要として、上海垣信衛星科技が進める衛星コンステレーション「千帆星座」や、中国衛星網絡集団の「国網」、中国航空工業集団が開発を進める無人スペースシャトル「昊竜」などを想定しているとされる。
再使用ロケットは打ち上げ回数が増えることでコスト低減につながる――逆に言えば、多くの打ち上げ需要がなければ対して安くならず、再使用する“うま味”がなくなってしまう。中国国内だけでも多くの打ち上げ需要があることは、藍箭航天にとって強みであり、そもそも再使用ロケットを開発する動機にもなっているのだ。
藍箭航天はまた、当初目標としていた性能を達成するため、朱雀三号の改良型の開発も進めている。改良型エンジンを装備するなどして打ち上げ能力を強化し、地球低軌道に向け、第1段を回収する場合に18.3t、しない場合には21.3tになる。また、着陸場ではなく発射台の近くに着陸することも可能になり、この場合でも12.5tの打ち上げ能力があるという。
同社はさらに、新型エンジン「藍焱20」(BF-20)も開発している。液酸/メタンを推進薬に使うフル・フロー・サイクルのエンジンで、2025年9月に初の燃焼試験を実施した。将来的に、地球低軌道に約100tの打ち上げ能力をもつ、完全再使用型の超大型ロケットに使用するとしている。
中国の“再使用ロケット時代”の幕開け
中国では、藍箭航天のほかにも多くの企業が再使用型ロケットの開発競争を繰り広げている。
たとえば、中国国有の中国航天科技集団の傘下にある上海航天技術研究院(SAST)は、まもなく「長征十二号甲」の初打ち上げに挑むとされる。すでに運用中の長征十二号がケロシン燃料だが、長征十二号甲はメタン・ロケットで、第1段の再使用を可能としている。
また、藍箭航天と同じ民間企業の天兵科技も、「天龍三号」という再使用ロケットを開発しており、こちらも近日中にも初打ち上げを行うという。
このほか、星際栄耀の「双曲線三号」、中科宇航の「力箭三号」、星河動力の「智神星一号」、深藍航天の「星云」といった再使用ロケットの開発も確認されている。
このうち何社が成功するかは未知数だ。回収や再使用には複数社が成功してもおかしくはないが、事業として成功できるかどうかはまた別問題である。
前述のように、再使用ロケットは打ち上げ回数が増えることで、初めて低コスト化につながる。すなわち、単に再使用型のロケットを開発して終わりではなく、再使用ロケットの真価が発揮できるだけの打ち上げ需要があるかどうかに、ビジネスとしての成否が左右される。
スペースXは、衛星コンステレーション「スターリンク」の構築・運用を自社で担うことで内製需要を生み、ファルコン9の打ち上げ頻度を年100回以上にまで押し上げている。
中国でも、スターリンクに似た大規模コンステレーションの計画が複数動いており、潜在的な需要は大きい。ただし、それでも上に挙げただけの企業やロケットすべてが生き残れる可能性は低く、競争の結果として淘汰が進むだろう。
現時点では、朱雀三号を含む中国の再使用ロケットが主に想定する需要は、中国国内のみに置かれている。米国の輸出規制(ITAR)などの影響で、欧米の主流商業衛星が中国ロケットを選びにくい状況が続いており、中国が国際的な商業打ち上げ市場で受注を広げにくいためだ。
このため、朱雀三号などが米国や日本の商業打ち上げ市場に与える影響も、当面は限定的とみられる。
ただし、衛星打ち上げロケットの第1段回収・再使用は、米国でもスペースXなど限られた企業しか実用化できていない領域である。中国がこの技術を手にしており、しかも比較的短期間で実機の検証段階に到達しつつあることは驚異的だ。また、回収・再使用を支える技術と運用ノウハウの蓄積は、中長期の競争力に直結することから、技術面だけでなく産業面でも軽視できない。
各社の今後の動向については、引き続き注意深く情報を追っていく必要がある。
参考文献


