中国の民間宇宙企業「天兵科技」は2023年4月2日、同社が開発した「天竜二号」ロケットを、酒泉衛星発射センターから打ち上げた。ロケットは正常に飛行し、搭載していた小型衛星を所定の軌道に投入した。

同社にとって初のロケット打ち上げであり、天竜二号も初打ち上げながら成功を収めるという、宇宙開発史に残る快挙を成し遂げた。

同社はさらに大型の再使用ロケットの開発など、野心的な計画を掲げている。

  • 天兵科技が開発した「天竜二号」ロケットの打ち上げの様子

    天兵科技が開発した「天竜二号」ロケットの打ち上げの様子 (C) Space Pioneer

天兵科技

天兵科技(英語名:Space Pioneer)は2019年に、起業家の康永来(Kang Yonglai)氏によって設立された企業である。

康氏はロケット技術者として20年以上のキャリアを持ち、同社以前にも「藍箭空間科技(Landspace)」という別の宇宙企業の設立に携わった経歴を持つ。現在の従業員数は約400人で、その多くは国営宇宙企業などからの転職組だという。

同社は設立後、さまざまな投資家やベンチャーキャピタルから短期間で多額の資金調達に成功している。

天竜二号は同社が初めて開発した衛星打ち上げ用ロケットで、全長32.8m、直径3.35 m、離昇時質量153tの3段式ロケットで、高度500kmの太陽同期軌道へ1.5t、地球低軌道へは2tの打ち上げ能力をもつ。また、将来的には性能向上により、地球低軌道への打ち上げ能力を4tにまで増やせるという。

ロケットの第1段には、中国国営の宇宙企業、中国航天科技集団(CASC)傘下の航天推進技術研究院が開発した「YF-102」を3基装着する。第2段には、天兵科技が自社開発した「天火11」エンジンを1基、第3段には小型の「天火31」エンジンを1基装備する。

YF-102と天火11は、ともに推進剤に液体酸素とケロシンを使用する。燃料のケロシンは石炭から生成したもので、ロケットとしては史上初だという。

YF-102はガス・ジェネレーター・サイクルを採用したエンジンで、推力を630kNから835kNまで可変させることができ、最大130を超える推力質量比を特長とする。天火11は二段燃焼サイクルを採用しており、300kNの推力をもつ。また、ともに3Dプリントで造形した部品を多数採用しているという

さらに、ロケットは移動式の発射台から打ち上げ可能で、またタンクローリーからの推進剤の自動充填や、打ち上げのモバイル管制なども実現しており、固定の発射施設を不要とするなど、打ち上げ運用を極力省力化し、コスト削減や打ち上げの即時性向上などが図られている。

  • 打ち上げを待つ天竜二号ロケット

    打ち上げを待つ天竜二号ロケット (C) Space Pioneer

天竜二号の1号機は、日本時間4月2日17時48分(北京時間16時48分)、中国北西部にある酒泉衛星発射センターから離昇した。

ロケットは順調に飛行し、搭載していた小型衛星「愛太空科学号(宇宙を愛する科学号)」を、高度500kmの太陽同期軌道に投入した。なお、同衛星が軌道に乗ったことは米軍も探知しており、打ち上げ成功が裏付けられている。

今回の打ち上げは、天兵科技にとって初の衛星打ち上げ用ロケットの打ち上げであるとともに、天竜二号も初打ち上げながら成功を収めるという快挙を成し遂げた。また、民間企業が開発した液体ロケットが、初打ち上げで軌道投入に成功したのは世界初であり、宇宙開発史に残る偉業となった。

打ち上げ成功後、同社は「天竜二号は、我が国の低コスト、高信頼性、即応性、および小型衛星や大規模な衛星コンステレーションの打ち上げニーズを満たす上で、先駆的な意義を持っています」との声明を発表している。

「今回の軌道への打ち上げ成功は始まりに過ぎません。今後、私たちは大型のロケット、超大型のロケット、再使用できる有翼の有人宇宙船などの開発を続け、高度な航空宇宙推進技術とサービス・ソリューションにより、軌道輸送と大陸間輸送を可能にし、航空宇宙技術が多くの人々の生活と真に役立つようになるでしょう」。

  • 離昇した天竜二号ロケット

    離昇した天竜二号ロケット (C) Space Pioneer