中国の半導体産業が底堅さをみせている。米国による対中輸出規制の影響で、最先端のEUV(極紫外線)プロセスは使えないものの、用途の広い熟成プロセスでは幅広い領域をカバーしており、化合物パワー半導体まで積極的な投資が目につく。こうした動きをさらに加速しそうなのが、日系企業が存在感を放つふたつのマスク技術だ。どちらもプロセスの微細化と歩留まり向上に寄与するものだけに、日中の共存共栄につながるものだ。
好調な中国半導体企業、独自技術開発も
中国は旺盛なAI需要の波に乗って、上海に本社を置く半導体受託生産の中芯国際集成電路製造(SMIC)や、メモリーの長江存儲(YMTC)といった大手が好業績をあげている。TSMCのように最先端プロセスで“荒稼ぎ”はできないが、28~65nm(ナノメートル)あたりの熟成プロセス半導体は自動車やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)、産業分野向けに活況だ。
さらに華為技術(ファーウェイ)は中国生産の5nmプロセス半導体搭載パソコンを、小米(シャオミ)は3nmプロセスを開発するなど、独自の先端技術が花開いている。ただEUV半導体露光機がないだけに、ArF(フッ化アルゴン)光源のリソグラフィで多重露光とエッチングを繰り返しての生産となり、コスト増は避けられない。
こうしたなか注目されるのが、ふたつのマスク技術だ。ともに当初は最先端EUVプロセスへの適用を想定していたが、足下ではArFプロセスへの導入拡大が進んでいる。
中国で注目集める「メタルハードマスク」と「カーブリニアマスク」
真空装置のアルバックは、メタルハードマスク(MHM)の売上げが中国市場で伸びている。半導体製造工程では配線パターンや導通孔をレジストに形成するが、このときにつかうエッチングガスやプラズマにレジストが耐えられず、“レジスト倒れ”を起こすことがある。そこで設計に忠実な回路形成を行うためにレジストに描いたパターンをいったん、エッチング耐性の高い窒化チタン(TiN)などに転写したのがメタルハードマスク。ArFで微細パターンを追求したい中国のニーズにあっている。
一方、回路情報を詰め込んだ合成石英基板であるフォトマスクの高度化も進んでいる。半導体露光機からの光を通してシリコンウエハーに回路情報を焼き付けるのがフォトマスクの役割だが、プロセスが微細化するにつれ従来の直線だけではパターンの表現が難しくなっている。つまり、回折現象などの影響で解像度が限界に近づいている。そこで、シリコンウエハーにフォトマスクパターンを忠実に転写する技術として注目されるのが、多角形曲線マスク(カーブリニアマスク)だ。
これまでも曲線を使ったリソグラフィや光近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)などが提案されてきたが、描画データ量が膨大になることから商業ベースに乗りにくかった。この状況が変わったのは、フォトマスクへの高速描画が可能なマルチビームEB(電子線直接描画)やソフトウェア環境の進化によるものだ。
唯一のEUV半導体露光機ベンダーであるASMLも深く関わるカーブリニアマスクだが、中国半導体業界の注目度も相当のものだ。カーブリニアマスクをつかえば、米国規制対象外のArF(フッ化アルゴン)半導体露光機でいちだんと微細なプロセスを低コストで量産できる可能性が高まる。フォトマスク外販市場で高いシェアをもつ国内勢も、「需要が見込める中国に本格的に出ていくことを検討している」と、前のめりになってきた。