米国航空宇宙局(NASA)は、ボーイングの新型宇宙船「スターライナー」による商業クルー輸送計画を見直すと2025年11月24日に発表した。2024年の有人飛行試験で不具合が発生したことを受け、次の飛行ミッション「スターライナー1」(Starliner-1)は宇宙飛行士を乗せない無人ミッションとして実施。最大6回とされていた宇宙飛行士の交代ミッションについては、確定分を4回に調整し、残る2回はオプションとする。

  • 2024年、ISSにドッキング中のスターライナーCFT (C)NASA

    2024年、ISSにドッキング中のスターライナーCFT (C)NASA

スターライナーはどんな宇宙船なのか

スターライナーは、ボーイングが開発している有人宇宙船で、NASAの商業クルー輸送計画の下で、ISSへの宇宙飛行士輸送を担うことをめざしている。

宇宙船はカプセル型のクルー・モジュールと、スラスターやバッテリーなどを搭載するサービス・モジュールで構成される。設計上は最大7人の搭乗に対応するが、NASAのISSへの飛行ミッションでは最大4人を運ぶことを想定している。また、クルー・モジュールを最大10回再使用できるとしている。

NASAは2010年に、民間企業に宇宙船の開発を委託する計画を立ち上げた。ボーイングはこの計画に参画し、NASAからの資金提供を受けてスターライナーを開発している。同計画には、イーロン・マスク氏率いるスペースXも参加し、「クルー・ドラゴン」宇宙船を開発した。クルー・ドラゴンの開発は比較的順調に進み、2020年から運用を開始しているが、対照的にスターライナーは技術的な問題が相次ぎ、開発が大きく遅れている。

2019年には初の無人飛行試験に臨んだが、不具合が発生し、ISSへのドッキングを断念して地球へ早期帰還することになった。2022年に実施した2回目の無人飛行試験では、小規模な不具合は起きたものの、おおむね成功裏に終わった。

これを受け、2024年6月には宇宙飛行士を乗せた初の有人飛行試験「CFT」に臨んだ。しかし、打ち上げ前から不具合が続き、打ち上げ後もスラスターの停止やヘリウム系統からの漏れなど、推進系を中心に問題が発生した。

最終的にNASAとボーイングは、安全性に懸念が残るとして、宇宙飛行士を乗せたまま帰還させることを断念し、スターライナーを無人で地球に帰還させることを決定した。スターライナーCFTのクルーだった2人の宇宙飛行士は、その後スペースXのクルー・ドラゴン運用9号機(Crew-9)で2025年3月18日に地球へ帰還した。

その後、不具合の原因究明を経て、次のミッションに向けた改修が続いている。

  • 2024年、ISSから無人で帰還したスターライナーCFT (C)Boeing

    2024年、ISSから無人で帰還したスターライナーCFT (C)Boeing

ボーイングの商業クルー輸送契約、NASAが見直す背景とは

もともとNASAは2014年にボーイングと、スターライナーを用いてISSへ宇宙飛行士を輸送する商業クルー輸送契約を締結した。NASAは同時にスペースXとも同種の契約を結び、各社が無人飛行試験などの試験プログラムと有人飛行試験を経て認証を得たうえで、ISSへの定期的な有人ミッションを少なくとも2回、最大6回実施することになっていた。

スターライナーは当初、2017年の運用開始をめざしていたが、度重なる開発の遅延や不具合により、大幅に遅れている。

これを受け、NASAとボーイングは今回、契約内容の変更に合意した。これにより、ボーイングの輸送ミッションの確定分(definitive order)は4回となり、残る2回はオプションとされた。

また、スターライナーの次の飛行ミッション「スターライナー1」は、当初は4人の宇宙飛行士が搭乗する有人ミッションとして計画されていた。しかし方針を改め、補給物資を搭載した無人ミッションとして実施し、2024年の有人飛行試験ミッションを受けて施したシステム改修の飛行中実証を行うとしている。

NASAとボーイングは、試験、認証、およびミッション準備活動の完了を条件に、2026年4月以降にスターライナー1を実施することをめざすとしている。また、認証取得とスターライナー1の成功後、スターライナーはISSへのクルー交代ミッションを最大3回実施する計画とされる。

2026年中には2回のミッションが予定されており、スターライナー1が成功すれば、同年中に「スターライナー2」を有人で打ち上げることが想定されている。

NASAの商業クルー計画のマネージャーを務めるスティーヴ・スティッチ氏は、「NASAとボーイングは、来年に想定される2回の飛行に向けて、スターライナーの推進系について徹底的な試験を続けています」と語る。

「この改修により、2026年にシステムの安全認証の取得をめざすとともに、準備が整った時点でスターライナーによる最初のクルー交代ミッションを実施する予定です。さらに、2030年までのISSの運用ニーズに基づき、将来のスターライナーの飛行計画を設定します」(スティッチ氏)

なお、現時点でスターライナー2に搭乗予定の宇宙飛行士については明らかになっていない。ただ、スターライナー1に搭乗する予定だった宇宙飛行士は、ミッションや役職が変わっており、当初の割り当てがそのまま適用される状況ではない。

2022年の時点では、スターライナー1にはNASAのスコット・ティングル氏が船長、同じくNASAのマイケル・フィンク氏がパイロットに任命された。2023年には、ミッション・スペシャリストとしてカナダ宇宙庁のジョシュア・クトリック氏が任命された。また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の油井亀美也氏が、4人目のクルーとなる可能性もあった。

ただ、遅延が積み重なるにつれ、クルーの交代が何度も行われた。フィンク氏と油井氏は今年8月、クルー・ドラゴン運用11号機(Crew-11)で飛行し、現在もISSに滞在している。さらに今年11月4日には、ティングル氏がNASAの宇宙飛行士室長に就任し、スターライナー1への割り当てを外れることになった。

NASAがスターライナーへの支援を諦めていない背景には、「異機種冗長性」(dissimilar redundancy)という方針がある。スペースXのクルー・ドラゴンと、企業も技術も異なるボーイングのスターライナーを併存させることで、どちらかに問題が起きても、ISSへの宇宙飛行士輸送が止まらない体制を確保する考え方である。

今回の契約修正は、冗長性を維持しつつも、まずは無人飛行で改修の成果を実証し、安全性の裏付けを得たうえで運用に移行することをめざすというNASAの姿勢を示している。

  • ISSにドッキング中のスターライナーCFT (C)NASA

    ISSにドッキング中のスターライナーCFT (C)NASA

参考文献