理化学研究所(理研)、神戸大学、筑波大学の3者は11月21日、スーパーコンピュータ「富岳」とAIを用い、3000億個の粒子で個々の星を再現する、世界最高解像度の天の川銀河シミュレーションを実現したと共同で発表した。
同成果は、理研 数理創造研究センター 数理基礎部門の平島敬也 基礎科学特別研究員、神戸大大学院 理学研究科の斎藤貴之准教授、同・牧野淳一郎特命教授、筑波大 計算科学研究センターの吉川耕司准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、HPCなどの国際会議「SC25」の論文集に掲載された。
「富岳」の活用で超高解像度のシミュレーションを実現!
従来の銀河シミュレーションは多くの制約から、個々の星の運動や超新星爆発の衝撃波といった多階層的な物理現象を再現できず、低解像度にとどまっていた。空間解像度を高めるにはシミュレーション中の粒子数を増やし、時間解像度は時間刻みを縮める必要がある。しかし、それでは最先端のスーパーコンピュータでも1回のシミュレーションに数年を要すると予想されていた。
この課題克服のため、研究チームは、短い時間刻みが必要な超新星爆発によるガスの広がりの高速予測AIを用いた「サロゲート・モデル」を開発。今回の研究ではそれをさらに発展させ、粒子法を基盤に、重力相互作用の計算には「N体計算」を、ガスの流体運動やエネルギー輸送には「SPH法」を適用。両者を統合したコードを構築し、星単位で表す高解像度かつ大規模な天の川銀河シミュレーションを開発したという。
従来は、影響の小さい超新星爆発などの急激な変化のみが非常に短い時間刻みを必要とし、それが全体の時間刻みを制約し、並列効率を著しく低下させていた。そこで、短い時間刻みが必要な領域のみを切り出し、サロゲート・モデルに超新星爆発直後のガスの挙動を高速に予測させるハイブリッド方式を導入。その結果、計算効率が最大で従来比の約20倍に向上した。さらに、深層学習モデルの学習はGPU上に、シミュレーション中の推論(予測)はシミュレーション本体と同じCPU側に最適化して組み込むことで、CPUとGPU間のデータ転送に要する待ち時間という新たなボトルネックも回避された。
コード開発とベンチマーク測定には、「富岳」の約15万ノード(700万コア超)を使用し、従来の100倍以上の高解像度となる総粒子数3000億個が達成された。これにより、天の川銀河を星単位で解像する初の「star-by-star」シミュレーションが実現されたのである。
また、「富岳」全体を用いた性能評価では、弱スケーリング(計算領域と粒子数を比例して増加)と、強スケーリング(総粒子数を固定したままノード数を増加)の双方で高効率が示された。粒子交換などのノード間通信が増加する大規模並列条件下でも、重力と流体の相互作用などの主要な計算部分は、多数ノード環境で良好な性能を維持できることが示された。
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今回のシミュレーションコードの並列性能を、「富岳」上で約15万ノード規模まで評価した結果。計算領域と粒子数を比例して増加させた弱スケーリング(左)、総粒子数を固定したままノード数を増やした強スケーリング(右)の結果を示す。共に高い並列効率を維持しており、「富岳」全体規模(約15万ノード・700万コア超)においても計算性能が良好に保たれることが確認された(出所:神戸大Webサイト)
コード開発では、多様なアーキテクチャ向けに最適化が進められた。その結果、一般的なx86-64系CPUや、「富岳」のAArch64系CPUなどの複数のアーキテクチャ、さらにCUDAを用いたNVIDIA GPUなどのアクセラレータ上でも、高い移植性と性能が確保された。特にGPUに関しては、東京大学と筑波大学の共同運用スーパーコンピュータ「Miyabi」上で最適化し、GPUを用いた重力相互作用計算で並列化効率約38%が達成された。
今回の成果により、個々の星が起こす超新星爆発や、それに伴うガスの加熱・膨張・冷却などの過程が、銀河全体の進化と整合的に追跡可能となった。加えて、サロゲート・モデルにより時間刻みの制約を回避しつつ、銀河スケールの統計量(星形成率やガス流出入率など)を従来と同等の精度で再現可能に。長時間・高解像度の銀河進化解析に向け、このシミュレーションを実装する有効性が示されたとする。
今後は、今回よりも長時間進化させ、位置天文観測衛星ガイアなどの観測データと星の軌道や金属量、年齢分布を直接比較することで、渦巻腕や棒構造、厚い円盤の形成過程を時系列で検証することが可能になるとのこと。さらに、星形成や超新星爆発によるエネルギー供給を通じ、星間ガスがどのように加熱・攪拌され、銀河外への流出と再取り込みを追跡し、ガスと元素の循環過程の一貫した調査も可能になるという。これにより、太陽系や生命の材料となる元素が、銀河のどの環境でいつ生成され、運ばれてきたのかに迫れるようになるとした。
今後は、GPUを基盤とするAI for Science開発用スーパーコンピュータ(2026年度稼働予定)や「富岳」の次世代機(開発名「富岳NEXT」)への展開を進め、銀河から宇宙論スケールまでの多階層的な現象を、高精度かつ高効率に再現する新しい大規模シミュレーションの基盤技術として発展することが期待されるとしている。
