自動車、産業分野ともに復調傾向

onsemiは11月11日、都内でメディアブリーフィングを開催し、同社の現在の状況および車載イメージセンサ事業に関する最新の取り組みなどの説明を行った。

同社日本法人であるオンセミの代表取締役社長を務める林孝浩氏は、最近の同社の動向として、11月3日に発表された2025年第3四半期の業績に触れ、「売上高は前年同期比6%増の15億5090万ドル。市場セグメント別で見ると、51%がオートモーティブで電気自動車(EV)やADAS関連がけん引役となっている。次いで27%がインダストリアルで、AIデータセンター関連の売り上げが前年同期比で約2倍と伸びており、今後も成長が期待できる。そして残りの22%がその他となっている。また、国・地域別で見ると、アジアが50%、次いで22%の米国、20%の欧州、そして8%が日本」とし、車載とインダストリアルともに回復基調で、安定化の兆しが見えてきたとする。

  • onsemiの2025年第3四半期の決算概要

    onsemiの2025年第3四半期の決算概要 (提供:onsemi)

  • onsemiの2025年第3四半期の決算ハイライト

    onsemiの2025年第3四半期の決算ハイライト (提供:onsemi)

縦型GaNが狙うAIデータセンター市場

また、技術的には直近では縦型GaNのサンプル出荷を開始したほか、Aura SemiconductorからVcoreパワーマネジメントのIPを取得し、AIデータセンター向け製品の開発を加速させることを明らかにしたとする。

  • 縦型GaNのサンプル品

    説明を行ったオンセミの林社長(左)とonsemi ゼネラル・マネージャー車載センシング部門のGeoff Ballew氏(右)。林氏が手に持っているのが縦型GaNのサンプル品

  • 縦型GaNのサンプル品

    縦型GaNのサンプル品

特に縦型GaNについては、「高速スイッチング、高電圧を実現できる革新的な技術。製造の面で課題があったが、それを独自の技術ならびにアーキテクチャをもとに研究開発を進めて解決し、サンプル提供が可能な段階まで到達できた。すでにデバイス構造、製造プロセスなどの特許を100件以上保有しており、次世代の開発も継続して進めていく」(同)と、その技術的な優位性を強調。同社のシラキュースにある専用工場の2万ft2のクリーンルームに4000万ドル以上の製造装置を投入し、1億2000万ドル以上の投資を行ってきた成果であり、AIデータセンターのほか、EV、再生可能エネルギー、航空宇宙などの分野にインパクトを与える技術になるとの見方を示す。

  • シラキュース工場の概要

    シラキュース工場の概要 (提供:onsemi)

自動車の生産を止めないために供給にもコミット

車載イメージセンサ事業の現状については、onsemi ゼネラル・マネージャー車載センシング部門のGeoff Ballew(ジェフ・バロー)氏が説明。「これまで画質の向上を中心に図ってきたほか、機能の向上も併せて図ってきた」とし、画質の向上を重視しつつも、システムとしてのオペレーションを安全に動作させることも重要事項としてとらえ、イノベーションの創出を図ってきたとのことで、その結果として2024年には車載イメージセンサだけで11億2500万ドルの売り上げを達成し、2004年からの20年間で累計12億個の車載イメージセンサが出荷され、現在、道路上を走る多くの車両に搭載されているとする。

同氏は、車載イメージセンサにとって日本は重要市場だとする。背景には、自動車(OEM)メーカーのほか、ティア1、ティア2など多くの関連サプライヤが存在し、多くの車両に安全システムが標準搭載されていることが挙げられる。「車載イメージセンサ事業の売り上げの約20%が日本向けに出荷されたものだが、日本のOEMは海外にも工場を有しており、そうした分はそれぞれの国・地域での売り上げに含まれる。そのため、数値以上に大きな影響力を持っている」(同)とのことで、この直近5年間だけを振り返ってみても、日本向けに出荷されたイメージセンサは1億3000万個以上だとする。

また、「良きサプライヤというのは、良い製品を提供するだけではなく、コロナ禍で起きた供給不足がわかりやすいが、製品の供給を保証し、納期通りに供給していくことが重要だと思っている。自動車の生産は部品が1つ足りないだけで止まってしまう。そうならないように、供給をタイムリーに行っていくことは重視していく」(同)と、半導体が入手できない状況に陥ると自動車が生産できないという問題に対して供給責任を果たしていくことを強調したほか、日本のOEMが要求する高い製品品質や製造プロセスのクオリティを遵守していくことで、より質の高い製品をグローバルに供給していくことにつなげていきたいともする。

  • 日本市場に向けた戦略

    日本市場に向けた戦略 (提供:onsemi)

未来の車載イメージセンサに求められる技術の開発を推進

自動車の環境は意外と半導体には厳しく、例えば温度範囲としては-40℃~+125℃の範囲で安定した低消費電力と画像品質が求められるほか、一度販売され、路上での利用が始まれば、廃車になるまでの寿命は長く、その間、要求性能を満たしている必要がある。「例えば、日本、欧州、米国では信号機といっても使われている技術は同じではない。しかし、車両に搭載されるイメージセンサとしては、同じように機能する必要がある。また、夜間の低照度環境であっても歩行者など、肉眼で見えにくい存在も認識する必要があるなど、どんな状況であっても、正しく判別し、出力できる必要がある。onsemiとしてはエントリレベルからハイエンドまで用意しており、ラグジュアリクラスの車両から、軽自動車のような小型車までそれぞれのニーズに合った製品や技術の提案を可能としている」(同)と、さまざまなニーズに対応する製品群を用意しているとする。

  • 色飽和の例

    色飽和の例。従来のイメージセンサの場合、肉眼的には赤黄青の見分けができるが、それぞれ中心部と周辺部の色味が異なり、特に赤は赤色なのか黄色なのかの識別がイメージセンサとしては難しい状況になってしまっているのがわかる。自動車では、確実に認識する必要があり、これをはっきりと見分けられるようにすることが求められることとなる (提供:onsemi)

全方位で自動車でのニーズに対応を進める同社が開発している最新技術が「ベイヤーグローバルトーンマッピング(BGTM)」だという。これは、HDRの圧縮が可能なRAWデータを扱うオンチップのトーンマッピングアルゴリズムで、これを活用することで例えば26ビットのHDR情報を20ビットのISP(イメージシグナルプロセッサ)であっても色の歪み無しで表現することが可能になるという。

  • BGTMのデモの様子
  • BGTMのデモの様子
  • BGTMのデモの様子
  • BGTMのデモの様子。右が26ビットをそのままISPで処理したリファレンス画像、左が20ビットISPで処理後のBGTMによる色とダイナミックレンジを保持した画像。遜色がないことが見て取れる

同社では、単一露光で130dBを超えるフリッカーフリーのダイナミックレンジおよび最大150dBの全ダイナミックレンジの提供にフォーカスして開発を進めているとのことで、これにより低照度環境のような厳しい照明条件であっても、システムの信頼性を向上させることができるようになるほか、交通信号やブレーキランプなどの強い光源によるピクセル飽和や色忠実度の低下の低減などを図ることができるようになるとしている。