Armの自動車向け市場で重要な位置を占める日本

Armは11月6日、都内で年次イベント「Arm Unlocked Tokyo 2025」を開催した。従来と異なり、Automotive・Cloud/Infra・Edge AIという3つのコースが同時に開催される格好となり、共通の基調講演などは省かれている。今回はAutomotiveセッションの冒頭の挨拶と、その後に行われた記者説明会の内容を纏めてご紹介したい(Photo01)。

  • Suraj Gajendra氏(VP, Automotive Products & Software Solutions)

    Photo01:冒頭の挨拶や、その後の本田技術研究所の小川厚氏(常務執行役員 先進技術研究所担当)との対談などを行われたSuraj Gajendra氏(VP, Automotive Products & Software Solutions)。昨年3月にも来日して説明を行われた

ArmのVP, Automotive Products & Software SolutionsであるSuraj Gajendra氏が講演を行ったが、まずArmの自動車向けマーケットにとって日本が重要な位置を占めている事を強調した(Photo02)上で、従来の分散型ECUの組み合わせが現在SDV(Software Defined Vehicle)に推移しつつあることを確認し、今後はADV(AI Defined Vehicle)にシフトして行くことを説明した(Photo03)。

  • SDVへの取り組み

    Photo02:SDVへの取り組みとか、すでに一部Level 3の自動運転を実装した乗用車の発売、政府の取り組みなどに加え、SOAFEEへの加盟企業で日本企業が占める割合の多さとか2018年設立のAutoware Foundationや2023年設立のASRA(Advanced SoC Research for Automotive:自動車用先端SoC技術研究組合)なども取り上げられた

  • ADVはSDVの上に構築されるもの

    Photo03:ADVはSDVの上に構築されるものであって、なのでSDVを置き換えるという意味ではないとの事

SDVの次を担うADV

Armの定義によれば、単一の大きなAIモデルがほとんどの機能を担うものがこのADVになる。すでに高機能なADASシステムは、単独でセンサー入力を受け取ってアクチュエータに指示を出しており、これはもはやADVである、という訳だ。

現実問題として、すでにSDVの中にAIを使うタスクが大量に含まれており(Photo04)、しかもそうしたSDVの構築にもAIが使われているという現状では、次のステップはADVと位置付ける事そのものは不思議ではない。

  • ADASでは例えば速度制御とか障害物監視は画像やLiDARなどの信号をAIで処理している

    Photo04:ADASでは例えば速度制御とか障害物監視は画像やLiDARなどの信号をAIで処理しているし、車内のドライバ監視なども同様だ。そしてそうしたアプリケーションを開発する環境では、コード生成とか要件確認などにAIが使われている。その意味ではSDVとADVの境目は曖昧かもしれない

ただご存じの通りAIは非常に演算能力を必要とする一方で、自動車という枠の中では使える電力量(と発熱能力)に限りがある。特にEVではこの制限が厳しい訳で、この矛盾を解決する必要がある。そこでArmが提案するのは「Zena CSS」という訳だ(Photo05)。

  • 現時点でArmは自動車向けのNPUソリューションは提供していない

    Photo05:ちなみに現時点でArmは自動車向けのNPUソリューションは提供していない。これについては、ArmがNPUを提供する事で顧客が独自に開発する機会を失わせたりするのは得策ではない、という返答であった

AI時代で複雑化するエコシステム

今年3月の発表時にはまだZenaというブランドではなかった(Zenaブランドが明らかにされたのは6月の事だ)が、中身が変わるわけではない。

現時点では自動車向けのプロセッサとしては、ほぼほぼハイエンドの構成である。もちろん今後も新しいバージョンのZena CSSが登場してより性能と効率を向上させてゆくとしている訳だが、ここで重要なのはComputing Powerが上がり、より機能が増えるという事はソフトウェアの複雑性が増す事と同義語であり、よりソフトウェアレイヤが増えることにもつながる。なのでエコシステム全体が複雑化しつつ、それがきちんと機能する仕組みが重要になると説く。

これを解決するために、同社はさまざまなOpen Standardに協力を行っている。SOAFEEやASRAなどもその一例であるが、要するに顧客の開発しようとしているエコシステムをうまく統合できるような標準化基盤を確立することが重要、としている(Photo06)。

  • 、顧客が開発するChipletが上手く他のChipletと統合できるような仕組みが重要

    Photo06:ソフトウェアだけでなくハードウェアもそうで、顧客が開発するChipletが上手く他のChipletと統合できるような仕組みが重要、とする

ロボット分野への展開も計画

加えて、Automotive向けの技術はRoboticsにもそのまま利用できるとしており、こちらへの展開も考えている事を明らかにした(Photo07)。

  • AutomotiveとRoboticsは基本的に似ている

    Photo07:Gajendra氏曰く、AutomotiveとRoboticsは基本的に似ており、センサーによる入力に応じて判断を行い、その結果アクチュエータなり何なりを動かすという部分はまったく一緒だし、安全性が優先されることも同じだとする。もちろんソフトウェアスタックはまったく異なる

全体としては特に何か新しい発表があった訳ではないが、改めてArmの自動車向けの取り組みを、日本の自動車業界に強く紹介するための場といった様相の内容であった。今回は参加しなかったが、Cloud/InfraではAI Infraに向けた展望や次世代データセンターへの展望、富士通のMONAKAやSocionextによるSoC設計/開発の様子、AI-RANに向けた話などが紹介され、またEdge AIではEdge AIに向けたさまざまな取り組みと将来展望、ツールエコシステムの紹介などが行われた。

なお今回のイベントの内容は一部を除き、後日スライドが公開予定との事である。