T2K実験国際共同研究グループ、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学、J-PARCセンター(J-PARC)、大阪公立大学の5者は10月23日、日本の「T2K実験」と米国の「NOvA実験」という、特徴の異なる国際大型ニュートリノ振動実験が初の共同解析を行い、3種類のニュートリノのマスの階層性(質量順序)により、その粒子と反粒子の振る舞いの差に大きな制限をかけ、同時に質量の2乗差の測定精度を向上させたことを共同で発表した。
同成果は、KEK 素粒子原子核研究所ニュートリノグループの坂下健教授を代表とし、国内外約560人(日本人は約130名)の研究者が参加するT2K実験国際共同研究グループと、250人以上の研究者が参加するNOvA実験国際共同研究グループの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
異なる道で同じゴールを目指す日米が協力て得た成果
宇宙創生期のビッグバンでは、物質と反物質は同数誕生し、そのまま対消滅すれば宇宙には何も残らないはずだった。しかし、現在は圧倒的に物質が優勢な宇宙となっている。この謎は、「ニュートリノ(ν)振動」に隠されていると考えられている。νには電子(νe)、ミュー(νμ)、タウ(ντ)の3種類あるが、ν振動とは、例えば飛行中にνeからνμへと種類を変える現象だ。またこの発見により、標準理論では質量がゼロとされるνにわずかながら質量があることが判明。2015年に、梶田隆章博士がノーベル物理学賞を受賞した際の受賞理由ともなった。
そこで現在、ν振動を詳しく調べるため、日本ではT2K実験が、米国ではNOvA実験が実施されている。両実験は「加速器長基線ν振動実験」と賞され、人工的に強力なνビームを照射。発射源の近くと数百km遠方の2か所の検出器でνを捉え、飛行中に起こる種類の変化が調べられている。
T2K実験は、茨城県東海村のJ-PARCから、岐阜県飛騨市神岡の地下1kmにある5万トンの水チェレンコフ型検出器スーパーカミオカンデまでの約295kmにおいて、2010年から実験が続いている(T2Kとは「Tokai to Kamioka)」の略)。一方、NOvA(NuMI Off-axis νe Appearance)実験は、米イリノイ州シカゴ近郊のフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)から、ミネソタ州アッシュリバーにある1万4000トンの液体シンチレーター検出器までの約810kmにおいて、2014年に開始し、現在も実験が続いている。
ν振動は、飛行距離で現象の現れ方が異なるため、両実験のデータを統合することで、より多くの情報を得られると期待されていた。そこで、2017年ごろから両実験を組み合わせる準備が始まり、T2K実験の10年分とNOvA実験の6年分を組み合わせた解析成果が今回発表された。これにより、νの「CP対称性の破れ」と質量に関する新しい知見が得られたという。
CP対称性の破れは、νμからνeへの振動が、νと反νの間に非対称性が生じる現象だ。しかし、3種類のνの質量順序によっては、その現れ方が変わってくる。νには極めてわずかな質量を持つが(正確な値は未測定)、その階層性には「正順」と「逆順」がある。正順は、軽い質量状態が2つ、重い状態が1つ。逆順は、重い質量状態が2つ、軽い状態が1つとなる階層性だ。
正順では、νμがνeに振動する確率が高まり、反νμが反νeに振動する確率は低下する。一方、逆順の場合はその逆だ。CP対称性の破れとνの質量順序による両方の効果は、1つの実験では分離が容易ではないが、両実験のデータを統合することで分離しやすくなる。
両実験共に、単独の解析では正順序の方が有意性の高い結果が得られていた。しかし今回の共同解析では、どちらの質量順序にも有意差は認められなかったとする。もし正順が正しかった場合、CP対称性の破れについて明確な結論を得られず、さらなるデータが必要となる。一方、逆順だった場合は、今回の結果はνがCP対称性を破っている有力な証拠となり、現在の宇宙で物質が圧倒的に優勢である説明につながる可能性があるとしている。
また今回の共同解析では、νの質量2乗差の不確かさを2%未満にまで縮小。これは、これまでで最も精密な測定結果となるとする。またこの高精度化により、他のν実験との精密な比較が可能となり、νの性質をさらに検証できるようになったとした。
米国では現在、フェルミラボ主導で、1300kmというさらに長い基線の「DUNE実験」の準備が進行中で、2030年代初頭にはν質量順序の決定的な解を得られ可能性があるという。一方で日本では、「ハイパーカミオカンデ」が2028年から実験開始の予定。スーパーカミオカンデの約8倍大きい検出器と大強度ビームによる統計量の多い測定により、CP対称性の破れを高感度に探索する計画となっている。
