東京都立大学(都立大)と東京大学(東大)の両者は10月21日、金属が超伝導状態になると熱伝導率が急激に低下するという性質に着目し、超伝導転移温度に約6Kの差がある鉛(絶対温度7.2K(約-266℃))とアルミニウム(1.2K(約-272℃))のそれぞれの高純度な線をハンダ接合した結果、鉛だけが超伝導を示す温度域で、熱の流れやすさが順方向と逆方向で異なる熱整流現象として最大1.75倍の「熱整流比」を確認したことから、「熱ダイオード」の開発に成功したと共同で発表した。
同成果は、都立大大学院 理学研究科 物理学専攻の水口佳一准教授、同・Poonam Rani特任研究員、同・増子優幸大学院生、東大大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻の平田圭佑助教、同・内田健一教授(物質・材料研究機構 上席グループリーダー兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、応用物理と基礎物理を扱う学術誌「Advanced Physics Research」に掲載された。
磁気熱スイッチング技術の実現へ前進
熱流を自在に制御するサーマルマネジメント技術の開発が求められている。例えば、熱伝導率の大きな変化によって熱流のON/OFFを達成する熱スイッチ材料や、熱の流れやすさが方向によって異なる熱ダイオード材料などの研究が進められている。
金属は超伝導転移すると熱伝導率が大幅に低下するため、熱スイッチ材料となることは以前より知られていた。研究チームもこれまでの研究で、高純度な(純度:5N=99.999%)鉛線の磁場中熱伝導率測定を精密に行い、超伝導状態の低熱伝導率と常伝導状態の高熱伝導率の磁気熱スイッチング比が20倍以上に達することを明らかにするなど、超伝導体を用いた熱制御技術の開発を進めてきたとする。
超伝導体を用いた熱ダイオードは、2013年に理論的に提案されたものの、超伝導体-常伝導体接合における実験的に明確な熱整流の観測報告はこれまでになかった。その理由の1つは、超伝導転移温度や臨界磁場において急激な熱伝導率変化を示す超伝導体が限られており、バルクスケールの試料で熱伝導測定を行い、熱整流を確認することが困難だったことにある。
そこで研究チームは今回、高純度鉛線が示す巨大な磁気熱スイッチングを利用し、また鉛線の長さ方向(熱流方向)に平行に磁場を印加した際の急峻な変化に着目。それを利用することで、熱ダイオードの設計を行ったという。
今回の研究では、高純度(5N)の鉛線とアルミニウム線をスズ-鉛ハンダで接合し、異種金属の接合試料の熱伝導率として定義される「有効熱伝導率(κ*)」を測定。ヒーターで温度差を生じさせ、温度差と熱流量から有効熱伝導率の温度依存性が導出された。例えば、接合の中央の音頭が鉛の超伝導転移温度(H=0エルステッド(Oe、磁場の強さをあらわすCGS電磁単位)で7.2K、H=400 Oeで5.2Kと、磁場印加で低下する)の時、順方向測定では鉛線も常伝導状態のため高い有効熱伝導率を示す。一方、逆方向の場合は鉛線が超伝導状態となり、有効熱伝導率が低くなることから、今回はこの違いを利用し、熱整流が実現された。
-

(a)有効熱伝導測定(順方向)の際のセットアップ。順方向測定の後に逆方向測定を行うため、端子が4つ設けられ、1つは各測定で不使用とされた。(b)順方向と逆方向における熱の流れやすさの違いのイメージ(出所:共同プレスリリースPDF)
各磁場での有効熱伝導率の温度依存性では、特にH=400 Oeにおいて順方向と逆方向の有効熱伝導率差(Δκ)が最大値となることがわかった。そこで、Δκと「熱整流比」(順方向と逆方向の熱伝導特性の比率)を評価したところ、その温度依存性において、Δκ*も熱整流比もある特定の温度域で最大化し、ピーク構造を示すことが判明。さらに、ピーク温度の磁場依存性をプロットした結果、熱整流比を最大化する温度は磁場によって制御できることも明らかにされた。このことは、今回開発された熱ダイオードをある温度差の環境で動作させる場合、最適な磁場を印加することで熱整流効率を最大化できることを意味するという。
-

各磁場中での有効熱伝導率(κ*)の温度依存性。順方向(Forward)と逆方向(Reverse)の両データがプロットされている。印加磁場はH=(a)400 Oe、(b)0 Oe、(c)200 Oe、(d)600 Oe、(e)800 Oe。H=400 Oeの時に最大の熱整流が確認された(出所:共同プレスリリースPDF)
なお、制御に用いる磁場が数百Oeという弱い磁場(一般的なフェライト磁石の1/10程度)であることも応用上のメリットとのこと。現時点では、動作温度は鉛の超伝導転移温度以下に限られているが、研究チームは今後、さまざまな超伝導体との組み合わせを検討することで、動作温度の高温化や熱整流特性の向上を目指す方針とした。
-

順方向と逆方向の有効熱伝導率差(Δκ*)と熱整流比(TRR)の温度依存性。印加磁場はH=(a・f)0 Oe、(b・g)200 Oe、(c・h)400 Oe、(d・i)600 Oe、(e・j)800 Oe。H=400 Oeの時に最大の熱整流が見られた(出所:共同プレスリリースPDF)
また今回の熱ダイオードは、わずかな磁場の印加によって動作温度を最適化できることから、さまざまな温度差環境での高効率動作が可能となるといい、今後さらに開発が進むことで、低温で動作する電子デバイスの高性能化に貢献することが期待されるとしている。


