東北大学と情報通信研究機構(NICT)の両者は9月24日、量子情報を担う量子ビットとして直接利用できる単一光子の偏光状態や「量子もつれ」の状態を、低損失かつその状態を高度に維持しながら伝送経路を切り替えられる「量子もつれ光子ルーター」の開発に成功したと共同で発表した。

同成果は、東北大大学院 理学研究科の金田文寛教授、同・Pengfei Wang大学院生、NICT 未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センター 超伝導ICT研究室の藪野正裕主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Advanced Quantum Technologies」に掲載された。

量子もつれ光子の高精度伝送経路切り替えなどに期待

光は波(電磁波)であると同時に粒子でもあり、その粒子は「光子」と呼ばれる。この光子の偏光は、量子情報における「量子ビット」として自然に扱うことが可能だ。また、光子のような複数の粒子が互いに密接に結びついている現象を、量子もつれという。その結びつきは、例え量子同士が宇宙の端と端にあったとしても維持されるという不思議な性質を持つ。この性質により、遠隔地の量子デバイスに強い結び付きを持つ量子ネットワークの構築が可能となることから、光子やその量子もつれは量子情報の伝送を担えるとして期待されている。

量子ネットワークの構築には、単一光子や量子もつれ光子の偏光状態を乱さずに、伝送経路を自在に切り替えるルーティング技術が不可欠な基盤技術となる。しかし、既存の光ルーターや光スイッチは損失が大きく、偏光状態を維持することができない。要するに、光子は一度失うと取り戻せないのだ。そこで研究チームは今回、光子の低損失かつ偏光無依存なルーターの実現を目指したという。

  • 光子ルーターの概念図

    光子ルーターの概念図(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究では、電気光学スイッチと光学干渉計を組み合わせた光子ルーターが開発された。電気光学スイッチでは、従来、偏光を切り替えるスイッチ(ポッケルスセル)として用いられてきた2つの電気光学結晶の配列が、互いに90°回転されて配置された。これにより、電気光学結晶を通過する光子がどのような偏光状態にあっても、印加電圧に応じた同一の位相変化を受けることが可能な素子が実現された。

  • 光子ルーター実験装置模式図

    光子ルーター実験装置模式図。中央部分が光子ルーター(出所:東北大プレスリリースPDF)

光学干渉計では、すべての光学素子に対し、光子が浅い入射角(5°)となるよう変型させた干渉計が構築された。これは、一般に0°もしくは十分に小さい入射角で光が入射する際、反射による偏光回転が起こらないことを利用したもの。その結果、最小限の光学素子で光子ルーターの構築に成功したとする。

今回の実験では、光通信で使用する波長域にある単一光子源や量子もつれ光子源を用いてルーターが評価された。ルーターの通過による単一光子の損失は1.3%(0.06dB)と極めて低く、光子の伝送経路を切り替える精度は99.3%、光子の偏光が維持されている確率は99%以上が達成された。これまでに報告されていたどの光子ルーターデバイスをも上回る性能が示されたのである。

量子もつれ光子は、量子ネットワーク構築の資源となるものの、複数光子の強い相関状態にあるため、高精度なルーティングは単一光子よりも困難である。今回の研究では、偏光が直交する2光子の量子もつれ状態(N00N状態)の伝送経路をルーティング。さらに、N00N状態の特徴である、干渉縞の周期が古典的な光学干渉の1/2になる現象を、高い明瞭度(97%)で観測することができたとした。

  • 量子もつれ光子ルーティング前後の2光子干渉実験結果

    量子もつれ光子(N00N状態)ルーティング前後の2光子干渉実験結果(出所:東北大プレスリリースPDF)

偏光に依存しない単一光子や量子もつれ光子のルーティングは、光子を利用する量子情報技術の基盤技術となり得るものであり、今回の研究成果は、今後さらに高度な量子操作や量子ネットワーク技術に応用されていくことが期待されるとする。実際、今回の研究のルーター技術を応用した量子メモリ技術や、量子もつれ光子を合成する技術の研究がすでに進められているとした。

また今回の成果は、光子の伝送経路の切り替えだけでなく、各応用技術に最適化された多光子量子もつれの発生や、「多者間の非局所性検証実験」(非居所性とは、ある場所での出来事が光速を超えて遠隔地に影響を与えることはないということ)などの量子の世界の理解を深める基礎研究の高度化にも貢献することが期待されるとしている。