宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月10日、イプシロンSロケット第2段モーターの再地上燃焼試験で発生した爆発事故について、原因の調査状況を報告した。まだ解明には至っていないものの、海中から回収した部品の分析により、爆発場所を特定。今後、小型モーターを使った燃焼試験を行い、爆発に至ったメカニズムの解明を目指す。
執念の海中探索でボスを回収
イプシロンSロケット第2段について、記者説明会の開催は約半年ぶり。前回までの内容については過去記事を参照して欲しいが、今回まず注目すべきは、継続して実施していた海中探索により、ついにボスというリング状の金属部品が見つかったことだ(詳細はこちら)。
すでにノズルやジョイントホルダは回収できており、リーク痕が見当たらなかったことから、問題が発生した起点は、そこよりも外側であることが分かっていた。今回見つかったボスは、ジョイントホルダとモーターケースの間にある部品だ。リング形状を維持しており、表面を詳細に分析した結果、リークの起点とは考えられないことが分かった。
リテーナリングについては、まだ6個中の1個しか見つかっていないが、ボスの分析により、脱落順序を特定。この脱落によってリークが発生した可能性について評価したところ、試験データや回収品と整合しないことから、その可能性は否定された。以上の結果から、消去法的に、残るのはモーターケース後方ドーム部分のみとなった。
つまり、CFRP製の後方ドームのどこかにまず穴が開き、爆発に至ったというわけだ。直径30cmの小型モーターケースに穴を開け、水圧で破壊させる試験を行ったところ、穴の位置によっては、亀裂がボス側まで達した。これは、後方ドームに穴が開き、ボスが脱落してノズルやジョイントホルダが飛散することがあり得ることを示唆する。
リーク/爆発の発生シナリオは1つに
原因究明では、3つのトップ事象を設定し、FTA(故障の木解析)を展開している。前述したリークに対応するのはFTA(B)で、これまでの調査で判明したことを反映させた結果、いくつかの要因が否定され、1つだけが残った。それは、後方ドームのインシュレーション(ゴム製の断熱材)の焼損が想定より大きく、それによって穴が開いたということだ。
リークの直後に発生した爆発に対応するFTA(C)についても要因の絞り込みが進み、外部からの熱負荷過大は排除。内部の熱負荷過大のみが残った。
前回、JAXAからリーク/爆発の発生シナリオが2ケース発表されたが、これらの結果から、ケース2(ボスからのリーク/爆発)は排除。ケース1(CFRPからのリーク/爆発)が残った。
これで、リークと爆発の全体像はほぼ把握できたことになるが、残る大きな謎は、なぜインシュレーションの焼損が想定より大きかったのか、ということだ。爆発が起きた2回の燃焼試験(能代/種子島)では、ともに点火後に燃焼圧力が予測より高くなっており、ここで何らかの想定外の事象が発生していた可能性が高い。
この燃焼圧力の乖離に対応するのがFTA(A)で、現時点で残っている要因から、以下の3つの可能が考えられている。
ケース1は、推進剤とインシュレーションの間にできた小さな空隙が原因である場合。推進剤の燃焼が進み、この空隙まで達すると、瞬間的に燃焼面積が広がるので、これが影響した可能性がある。ただ、製造時の検査データで見つかった空隙は直径3cm弱しかなく、それほど大きな影響が出るとはやや考えにくい。
ほかの2ケースは、リリーフブーツへの入熱が想定より大きく、それが問題を引き起こした可能性だ。リリーフブーツとは、推進剤側インシュレーションとモーターケース側インシュレーションの間にある隙間のことで、モーターケースの前方と後方に存在する。推進剤は充填後、冷えて固まるときに縮むので、ここはその応力を緩和するための部位だ。
燃焼時、ここは奥側が行き止まりのため、設計上は、流れの無い“止水領域”の想定になっていたという。しかし、仮に渦のような流れが発生して入熱が過大になったり、燃焼ガスの酸化アルミニウムが流れ込んだりしたら、推進剤側のインシュレーションに穴が開いたり(ケース2)、推進剤が着火温度まで上昇する(ケース3)可能性がある。
これによって想定外の場所で燃焼が発生。この異常燃焼の熱でモーターケース側のインシュレーションが炙られ、最終的に穴が開いて爆発に至った、というのがケース2とケース3で考えられるメカニズムだ。
検証試験では検討中の“奥の手”も
JAXAは「机上の検討だけでは限界がある」として、これを解明するために、追加で検証試験を行う方針。イプシロンロケットの井元隆行プロジェクトマネージャは、「回収品、製造データ、設計データの検証は、かなりの労力をかけてやり尽くした。あとは試験をやって、しっかり原因を究明したい」と述べる。
注目したいのは、小型モデルを6種類(A~F)用意して実施する燃焼試験だ。実機は直径2.5mであるのに対し、小型モデルの直径は44cmなので、約5.7分の1サイズということになる。小型にすることで、効率的に試験が行えるというメリットがあり、これはメーカー側の設備を使い、11月下旬より実施する予定だという。
まず試験AとBは、イプシロンSの「E-21」と強化型イプシロンの「M-35」をそれぞれ模擬。実機の燃焼では、M-35が問題なかったのに対し、E-21では爆発が起きた。比較することで、違いを詳細に確認する。なお検証で使うモーターケースは頑丈な金属製にし、爆発は起きないようになっているとのことだ。
試験C~Fは、欠陥を人工的に作って燃焼させ、その影響を確認するものだ。試験Cは、推進剤とインシュレーションの間の一部を剥離させておく。試験Dは、推進剤側インシュレーションの一部を削除。試験Eは、それにさらに強制着火を加える。試験Fは、リリーフブーツの隙間を広げたときに、何が起きるかを見る。
このうち、試験A/B/Fは年内に実施し、そのほかの3つについては、まだ設計中のため、年明け以降の実施となる見込み。JAXAにとって、ベストなのはこの試験によって原因を突き止めることであるが、もし要因がサイズに依存している場合、小型モデルでは現象が再現せず、絞り込みきれない可能性もある。
そうなった場合には、実機サイズのモーターによる燃焼試験も検討しているという。ただ、そのまま燃焼させてしまうと同じように爆発する可能性が高い。そうなると、機体がバラバラに吹き飛んでまた解明できなくなるため、外側には疑似推進剤を充填し、燃焼を途中で止めることを考えているそうだ。
固体ロケットは、モーターケースの内部に推進剤が詰まっているだけであり、一度点火すると、通常、途中で止めることはできない。しかしこの試験は、内側は本物の推進剤なので、通常と同じように燃焼が進むが、外側の疑似推進剤は成分の配合を変えて燃えないようになっており、ここで燃焼が止まるという仕組みだ。
爆発しては困るので早めに止めたいが、その一方で、なるべくギリギリまで燃焼させた方が、現象を掴みやすい。そのあたりはやや悩ましいところではあるが、もし実施するのであれば、原因究明の切り札になるだろう。なお、イプシロン8号機用に製造したモーターケースが推進剤の充填前で保管されており、試験するときはこれが使える見込みだ。
開発計画全体を見直す可能性も
イプシロンSロケットの開発は、すでに2年遅れている。強化型の最終号機であるイプシロン6号機が打ち上げられたのは2022年10月。それからもう3年、固体ロケットの打ち上げが途絶えてしまっている。現在の計画では、イプシロンS初号機(イプシロン7号機)は2025年度の打ち上げ予定だが、事実上これはもうほぼ不可能だ。
もし前述した小型モデルの燃焼試験により、年度内に原因が突き止められたとしても、その対策を考えて設計に反映させ、試験用の実機モーターを製造し、再々地上燃焼試験を成功させる必要がある。それからフライト品を製造して打ち上げるとなると、早くても2026年度内ということになるだろう。
JAXAにとって最悪のケースは、小型モデルの燃焼試験で原因を絞り込めず、切り札である実機サイズの燃焼試験でも現象が再現しなかった場合だ。搭載が決まっていたベトナムの地球観測衛星「LOTUSat-1」は、打ち上げをずっと待っている。日本の宇宙開発自体への影響も大きく、これ以上の長期化は避けたい。
岡田匡史 JAXA理事/宇宙輸送技術部門長は、「固体ロケットの空白期間をなるべく短くすることが重要」と指摘。まだJAXAとして正式な決定ではないと前置きしつつ、第2段は強化型のM-35を当面使用する案や、強化型イプシロンを継続させる案など、複数のオプションの検討を進めていることを明かした。
なお、実機サイズの燃焼試験は種子島宇宙センターのテストスタンドで行うことになるが、この設備の復旧は2025年度冬期になる見込み。前回の報告では、復旧の完了は2025年秋ごろとなっていたが、再製作する設備が追加されたことで、完成時期が延びた。ただ年度内に完了するのであれば、試験計画に大きな影響はでないだろう。













