スペースワンは8月31日、カイロスロケット2号機の飛行中に発生した異常について、ノズルの角度を検知するセンサーからの誤信号が原因だったことを明らかにした。同ロケットは、第1段の飛行中に姿勢が大きく乱れ、軌道投入に失敗している。今後打ち上げ予定の3号機には対策を施した上で、4機の衛星を搭載することも発表された。

  • カイロスロケット2号機の打ち上げ。途中までは正常に飛行していたが……

    カイロスロケット2号機の打ち上げ。途中までは正常に飛行していたが……

打ち上げの86秒後に何が起きた?

カイロスロケット2号機は、2024年12月18日に打ち上げを実施した。第1段は順調に飛行を開始していたが、打ち上げの86秒後あたりで突然姿勢が大きく乱れ、回転しながら飛行を継続。第2段を分離したものの、飛行経路の逸脱を修正できず、機体に搭載した自律飛行安全システムの判断により、打ち上げの187秒後、飛行を中断した。

  • 一連の画像からは、姿勢が突然乱れたことが分かる <br />(C)スペースワン <br />(C)nvs-live.com

    一連の画像からは、姿勢が突然乱れたことが分かる
    (C)スペースワン
    (C)nvs-live.com

最終的に飛行を中断したのは経路の逸脱が原因だが、それを引き起こした事象は、第1段の飛行中に発生した姿勢の乱れだ。では、なぜ姿勢制御に異常が生じたのか。同社の原因究明で明らかになったのは、打ち上げの86.2秒後にセンサーからのデータが異常値になり、ノズルの向きを正常に制御できなくなったということだ。

カイロスは、ノズルの向きを動かすことで、姿勢を維持している。これはTVC(Thrust Vector Control)と呼ばれ、ロケットでは一般的な機能だ。ノズルの横には電動アクチュエータを搭載しており、これを伸び縮みさせることで、向きを変える。90度ずらした位置に2セットを用意し、ロケットのピッチ軸/ヨー軸を制御できるようになっている。

  • カイロス第1段のTVC。ノズルの角度は最大6度曲げられる設計になっていた <br />(C)スペースワン

    カイロス第1段のTVC。ノズルの角度は最大6度曲げられる設計になっていた
    (C)スペースワン

電動アクチュエータの反対側には、リファレンスロッドが設置されている。これは機械的に伸縮する棒状の装置で、電動アクチュエータが伸びたらノズルが押され、リファレンスロッドは縮む。その逆のときは反対に動く。検知方法は違うものの、どちらもセンサーを搭載しており、伸び縮みの動き(ストローク信号)を知ることが可能だ。

このストローク信号によって、第1段の姿勢制御コントローラは、ノズルの実際の角度を検知できる。ノズルの角度を変えたいときは、電動アクチュエータを伸縮させることになるが、ストローク信号でフィードバック制御することによって、指定した角度に合わせられるというわけだ。

  • 姿勢制御に関する信号の流れ <br />(C)スペースワン

    姿勢制御に関する信号の流れ
    (C)スペースワン

今回、異常が発生したのは、リファレンスロッド(1軸)のストローク信号。この値が急変したため、姿勢制御コントローラはノズルが急に動いたと錯覚し、それを戻そうと、電動アクチュエータを動かし続けた結果、ノズルの向きが大きく変わり、姿勢を制御できなくなってしまった、というのが一連の流れだ。

  • 発生した事象の流れ <br />(C)スペースワン

    発生した事象の流れ
    (C)スペースワン

飛ばさないと分からないロケットの“宿命”

気になるのは、なぜストローク信号が異常になったのか、ということだが、記者会見において、同社の関野展弘副社長は「メーカーとの守秘義務や我々のノウハウに関わる」として、詳細は避けた。ただし内部の調査では、問題の発生場所は特定しており、何が起きればこうなるという再現もできているそうだ。

地上での単体/システム試験では同様の事象は発生したことがなく、「フライト環境で初めて顕在化した」という。ロケットは可能な限り地上で試験を行い、不具合を潰した上で打ち上げに臨むが、どうしても実際に飛ばしてみないと分からないことがある。これは「どのロケットでも経験する宿命的な問題」(同社の遠藤守取締役)だ。

  • カイロスロケットの概要 <br />(C)スペースワン

    カイロスロケットの概要
    (C)スペースワン

とはいえ、何が起こるか分からないからこそ、事前にさまざまな異常を想定し、いかに対策を盛り込めるかが重要だ。今回、もし電動アクチュエータの故障のような事態であれば対処は難しかっただろうが、問題が起きたのはひとつのセンサーからの信号のみで、電動アクチュエータ自体は正常に作動していた。ソフトウェアの工夫で対処できた可能性もある。

今回の場合、電動アクチュエータ側とリファレンスロッド側のストローク信号の動きがまったく連動していない時点で、何らかの異常が発生したことは容易に把握できる。にも関わらず通常時のロジック通りにノズルを動かしてしまっていたわけで、ここにまだ工夫の余地はあったかもしれない。

関野副社長によれば、ノズルの角度を算出するためには、両側のストローク信号を使っていたという。電動アクチュエータ側は正常だったので、片側のデータだけでも問題なく飛行を継続できそうだが、両側のストローク信号が必要なのは、固体ロケットの燃焼時は高い内圧による変形によって、ノズルの回転中心の位置が変わるためだ。

回転中心の位置が変わらないのであれば、事前にストロークと角度の関係を調べておけば、片側でも角度は正確に分かる。しかし燃焼時にはこの関係が変わってしまうため、両側のデータを使ってうまく補正し、正確な角度を割り出しているというわけだ。

ただ、もし片側のデータだけで多少不正確な制御であっても、大きくスピンするほどの姿勢の乱れを避けることができていれば、第2段以降の飛行でカバーできていた可能性もあり、それだけに惜しい。ソフトウェア周りの改善は目立たないが、信頼性向上のためにも、やれることはすべてやり尽くしておきたい。

改良した3号機は4機の超小型衛星を搭載

3号機に向けた対策としては、まずセンサーの設計を一部見直し、故障耐性を上げる。さらに、センサーからの信号伝達経路についても、クランプ位置の変更などを行い、信頼性を向上。また、同様の構造を採用していた第2段と第3段の姿勢制御系についても水平展開を行い、同様の対策を講じるという。

  • 3号機に向けた対策 <br />(C)スペースワン

    3号機に向けた対策
    (C)スペースワン

ただ今回、3号機の打ち上げ時期については明言しなかった。前述の対策を施すほか、なにか他に問題が隠れていないか、開発・製造のデータ確認、組み立て、点検工程の確認など、総点検を実施するということで、まだ確定していない。準備が整えば、打ち上げの2カ月前に発表するとのことだ。

失敗した前号機までと比較しやすいように、3号機も同じ軌道に打ち上げる。軌道を変えて打ち上げたら、成功したとしても、それが対策の正しさによるものなのか、飛行経路が変わったことによるものなのか分からなくなる。そのため、高度500kmの太陽同期軌道(SSO)という同条件で打ち上げを行う。

そして、3号機に搭載する衛星についても発表があった。搭載するのは4機の衛星で、テラスペースの「TATARA-1R」が70㎏級であるほかは、アークエッジ・スペースの「AETS-1」、Space Cubicsの「SC-Sat1a」、広尾学園の「HErO」と、すべて3Uサイズ(1Uは10cm角)のキューブサットとなる。

  • 3号機に搭載する衛星。アークエッジ・スペース以外の3者は、2号機にも衛星を搭載していた <br />(C)スペースワン

    3号機に搭載する衛星。アークエッジ・スペース以外の3者は、2号機にも衛星を搭載していた
    (C)スペースワン