最先端のフュージョン(核融合)エネルギー技術を開発する米民間企業のCommonwealth Fusion Systems(CFS)は8月28日、三井物産と三菱商事が主導する日系企業12社によるコンソーシアムなどから、シリーズB2ラウンドにて総額8億6300万ドルの資金調達を行ったことを発表。これに際しCFSは9月3日、都内にて記者発表会を開催し、出資元であるコンソーシアムの各社と共に、フュージョンエネルギーの可能性や開発の現状について説明した。
安全かつクリーンな新エネルギーとして期待される核融合
フュージョンエネルギーは、水素を原料として軽い原子核を融合させ重い原子核を作る技術であり、水素の同位体である重水素と三重水素が融合しヘリウムを形成する際に放出される莫大なエネルギーをもとに、電力を生み出すという仕組みだ。これは、原子力発電において利用される「核分裂」に比べ数倍のエネルギーを生成可能であり、またカーボンゼロでクリーンかつ理論上は無限にエネルギー算出が可能であるなど、環境負荷の低いエネルギー源として知られる。加えて、核分裂とは違いメルトダウンのリスクもないといい、少し空気を送り込むだけでフュージョンプロセスが停止されるなど安全性が高く、コンパクトかつ高出力の発電所の実現にも寄与するという。
そんな“本質的に安全で経済的にも競争力があるエネルギー”として本格的な実用化が期待される、フュージョンエネルギー。CFSはその社会実装に向けて2018年にマサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトして以来、数十年にわたり実績を重ねてきた核融合科学に、民間セクターの革新性とスピードを掛け合わせることで、可能な限り迅速な商業化を目指している。
同社はこれまで、グローバルで30億ドル近くの民間資金を調達しており、現在は保有する革新的な磁石開発技術を活用し、米・マサチューセッツ州デベンズにフュージョン実験装置「SPARC」を建設中とのこと。同装置では、フュージョンプロセスに投入するエネルギーよりも多くのエネルギーを生み出す「net fusion energy」と呼ばれるしきい値の実証を目指すといい、2027年の完成に向け、その建設は約65%完了しているとする。また同時に、世界初となるグリッド規模のフュージョン発電所「ARC」の開発にも着手しており、2030年代初頭にはバージニア州の施設にてフュージョン電力を実際の電力網に供給することが期待されている。
「世界のトップマーケット」になりうる日本の12社が出資
そんなCFSは今般、シリーズB2ラウンドとしてさらなる資金調達に着手。その中で、SPARCの建設においても連携を行っていた日本市場での取り組みが検討された。日本政府はエネルギー戦略として商業フュージョンにも注力しており、専用の規制整備を進めるなど、その経済的可能性を認識し社会実装に向けた取り組みを本格化している。そうした流れは民間にも同じく到来しているものの、各企業が個社として単独で取り組むには多くのチャレンジが残されていることから、フュージョンエネルギーの発展に挑戦する志を共にする企業を募ったとのこと。そして、三菱商事と三井物産が主導し、日本政策投資銀行、フジクラ、JERA、日揮、三井不動産、商船三井、NTT、三井住友銀行、三井住友信託銀行、関西電力を加えた12社からなるコンソーシアムによる出資を決定したとする。
記者発表会に登壇した三井物産 執行役員・エネルギーソリューション本部長の内田康弘氏は、「フュージョンエネルギーは日本のエネルギー戦略にとっても極めて重要であり、国家戦略として取り上げられると同時に、米国でも同様に重要な戦略として取り上げられており、両国政府間では戦略的なパートナーシップに基づく連携が行われている」とコメント。そして民間企業12社が連携した今回の取り組みについては「国家間の戦略にも沿ったものだと理解している」とした上で、「フュージョンエネルギーに関する取り組みを民間側からも促進していきたい」とした。
なお、コンソーシアムの一員であるフジクラは、磁場閉じ込め方式(トカマク型)によるフュージョンエネルギー技術の開発を行うCFSに対し、高磁場においても高い電流特性と高強度を実現する高温超電導線材を納入するなど、CFS設立当初から関係を構築してきたとのこと。フジクラの製品を用いることで、約1億℃のプラズマを閉じ込め制御するための高温超電導マグネットが実現されているという。
このように、CFSと日本企業コンソーシアムとの間では、フュージョンエネルギーの実証・商業化に向かう道のりの中で、日本企業が有する事業開発の経験やファイナンスの知見などさまざまな要素を還元していく一方で、CFSが商業化に向かう道のりを共に歩むことで日本企業側もさまざまな知見を獲得するといい、各社が有するノウハウや専門性を持ち帰ることで、日本国内におけるフュージョンエネルギー発電の早期商用化・産業化に貢献するとしている。
CFSのBob Mumgaard CEO兼共同創設者は、グローバル市場でさまざまな投資家から資金を調達した中で、今回日本で記者発表会を行うことになった理由について、「日本は我々にとって重要なサプライヤであり、政策立案レベルでも協力を重ねてきた。また研究者たちがフュージョンエネルギーに関する長い歴史を重ねていることもあり、日本は将来的にフュージョン産業のリーダーになりうると考えている」とし、「一か所に留まらずグローバルで進める必要があるフュージョンエネルギーにおいて、日本はトップマーケットという位置づけであり、今後も長く計画協力を進めていきたい」とコメントした。




