米国国立科学財団(NSF)と米国立電波天文台(NRAO)の研究者らは、スペースXと共同で、同社の「スターリンク」(Starlink)などの衛星群と電波望遠鏡の共存を促進するための新しいシステムを導入したと現地時間8月12日に発表。天文学的発見のために電波干渉を減らしつつ、衛星インターネット接続を継続して提供できるようにする。

  • (C)NSF/AUI/NSF NRAO/B. Foott

    (C)NSF/AUI/NSF NRAO/B. Foott

スペースXは、数千機もの非静止軌道(NGSO:Non-Geostationary Orbit)衛星群によって高速・低遅延な衛星インターネットを提供するスターリンクを運用している。しかしこれらの衛星が発する信号は、無線周波数干渉の影響を受けやすい高感度な電波望遠鏡に干渉するおそれがあるほか、光学/赤外線天文学に関する施設への影響もあることから、NSF(U.S. National Science Foundation)とNRAO(National Radio Astronomy Observatory)、スペースXの間では、そうした影響を低減するための取り組みを数年にわたり続けてきている。

今回新たに導入した自己報告フレームワークである、運用データ共有「ODS」(Operational Data Sharing)システムは、衛星群と電波望遠鏡の共存を促進するために設計されたもの。電波望遠鏡の運用情報をリアルタイムでスターリンクに共有し、それを受けて衛星は干渉を最小限に抑えるために送信を動的に調整。電波望遠鏡と一定の距離内にあるときは、ビームを電波望遠鏡から遠ざけたり、データ送信を一時的に無効にするといった措置をとる。

スターリンクネットワークには、望遠鏡の観測スケジュール(“ボアサイト”と呼ばれる望遠鏡の指向方向と、観測周波数帯域を含む)が送られる。それを受けて、望遠鏡のボアサイト付近を通過する衛星は、ビームを数ミリ秒単位で望遠鏡から動的に遠ざけることで、電波望遠鏡の観測方向への送信を回避する。

スペースXは「スターリンクの衛星群が電波望遠鏡の近くで重要な接続オプションを提供しつつ、同時に宇宙に関する重要な科学研究を保護するための新たな技術」と説明。また、こうした望遠鏡ボアサイト回避法(Telescope Boresight Avoidance)は望遠鏡の観測を保護しながら、望遠鏡付近の利用者へのスターリンクサービスが中断されないことも保証するとしている。

  • スペースXが実現した、リアルタイム調整による電波天文学の保護の仕組み <br />(出所:STARLINK UPDATES)

    スペースXが実現した、リアルタイム調整による電波天文学の保護の仕組み
    (出所:STARLINK UPDATES)

スターリンク衛星を用いた予備実験では、ニューメキシコ州にあるNSF超大型干渉計(NSF VLA)による観測中に、干渉が大幅に低減されることが実証されたという。2024年のNSF VLAへの導入以来、ODSシステムは望遠鏡が使用する重要な周波数帯における干渉回避に効果があることが実証されており、スペースXも既に同システムを衛星運用に統合。オーストラリアやカリフォルニアを含む、世界中の他の天文台でもこのフレームワークの導入が始まっているという。

NSF NRAOでは、世界最大をうたう完全可動式電波望遠鏡「NSFグリーンバンク望遠鏡」(NSF GBT)や、米国のGPS運用に欠かせない「NSF超長基線アレイ」(NSF VLBA)などの施設にも、ODSの適用範囲を拡大する計画だ。最終的には、世界中の観測所や地球監視衛星、そして衛星運用者間で、周波数を共有するための普遍的なプラットフォームとして機能する可能性があるとしている。

NRAOのスペクトル管理担当アシスタントディレクター、クリス・デ・プリー氏は、「SpaceX社とNRAOの科学者間のオープンで頻繁なコミュニケーションは、このシステムの開発において非常に重要だった。すべての問題を解決できるアプローチはないが、ODSはこの深刻化する課題を解決するための重要な一歩だ」と述べている。