愛媛大学、福岡教育大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の3者は8月6日、JAXAが運用するX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」を用いて、天の川銀河にあるブラックホールX線連星「4U 1630-472」の活動末期に観測し、観測史上最もX線で暗い状態で、高電離の鉄による吸収線を検出することに成功したと発表した。

  • ブラックホールX線連星の想像図

    ブラックホールX線連星の想像図。ブラックホール(右)の強い重力により、伴星のガスが引き寄せられ、回転しながらブラックホールに落ちる過程で高温の降着円盤が周囲に形成される。(c) JAXA(出所:愛媛大プレスリリースPDF)

同成果は、愛媛大の志達めぐみ准教授、福岡教育大の水本岬希講師ら国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

ブラックホールのダイナミックな動きを明らかに

恒星質量ブラックホールと伴星からなるブラックホールX線連星では、ブラックホールが強い重力で伴星からガスを剥ぎ取り、周囲に高温の降着円盤を形成する。その温度は内側では1000万度近くに達し、強いX線を放出する。

天の川銀河には、候補天体も含めると100個ほどブラックホールX線連星が確認されている。その多くは、突発的に増光する「アウトバースト現象」を起こす。通常、ブラックホール近傍からのX線は観測が困難なほど弱いが、数年~数十年に1度、ブラックホールへ大量のガスが落下することで急激に増光し、時には1週間で1万倍以上の明るさになる。この際、ガスの一部が降着円盤面に沿ったウインドとして外向きに噴き出すことがある。しかし、これらの活動の仕組みはまだ不明な点が多い。

活発なブラックホールから放たれる強い電磁波やガスは、周囲の環境に大きな影響を及ぼしている可能性がある。天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホール「いて座A*」でも、同様に強い放射やガスの噴出が観測されており、星形成や銀河の進化に深く関与する可能性が指摘されている。そのため、ブラックホールの活動の謎を解明することは、宇宙の歴史を紐解く手がかりになると期待されている。そこで研究チームは今回、2024年2月16日~17日に、じょうぎ座の方向に位置するブラックホールX線連星4U 1630-472を、およそ25時間にわたって観測し、その詳細を調べたという。

ブラックホールX線連星の増光の時期や増光中の明るさの変化を正確に予測することは難しい。一方、X線観測衛星のスケジュールは通常1~2週間前には細かく決定するため、突発現象を観測するには、いち早くその変化を察知し、観測計画を変更する必要がある。そこで研究チームは今回、XRISMとは別の広視野X線観測装置で複数のブラックホールX線連星を日々監視し、衛星運用チームと緊密に連携。その結果、ブラックホールX線連星が暗くなり、XRISMでは捉えられなくなるタイミングの直前で観測が実現された。

XRISMの軟X線分光装置「Resolve」により、高電離の鉄による吸収線が検出された。今回のブラックホールX線連星は約2年に1度の割合で増光するが、観測時期は減光して静穏期に戻りつつあり、最も明るい時期の数十分の1ほどの明るさだった。これほどX線放射が弱まった時期に、ブラックホールX線連星の吸収線の構造を詳細に分解して検出したのは世界初の成果だ。また、観測期間の後半には、X線の明るさが前半からほぼ変化がないにもかかわらず、鉄による吸収が前半より強くなっていることが確認された。

一方、詳細な解析の結果、吸収線の原因である電離ガスは、降着円盤の外側(ブラックホールから離れた部分)に位置していることが判明。このガスの速度は秒速200km以下であり、過去の明るい時期に観測された高速ウインドの数分の1以下と非常に遅いことも明らかにされた。この速度では強い重力を振り切れないため、降着円盤上に留まるガスと考えられるとした。

観測の後半に吸収が強くなったのは、降着円盤の縁に局所的に膨らんだガスの塊が形成され、それがXRISMの観測方向と重なってX線を遮ったためと解釈された。ガスの塊の正体は、伴星から流れ出たガスが降着円盤に衝突した際の衝撃で形成されたものである可能性があるとしている。

  • XRISMで取得されたX線スペクトルとNASAのチャンドラ衛星で過去に取得されたスペクトルの比較

    XRISMで取得されたX線スペクトル(青:観測前半・赤:観測後半)と、米国航空宇宙局(NASA)のチャンドラ衛星で過去に取得されたスペクトル(灰色)。比較しやすくするため、赤はX線強度を真の値から約6割に減らされており、6.7keV付近と6.9~7.0keV付近の吸収線を除けば、実際には青のスペクトルとほぼ一致している。(c) JAXA(出所:愛媛大プレスリリースPDF)

今回の観測では、降着円盤の内側(ブラックホール近傍)のX線放射領域を取り巻く高温ガスの、複雑な分布や運動の様子が調査された。これらのガスは、やがてブラックホールに落下するか、ウインドとして宇宙空間に広がるかどちらの可能性もある。今回の成果は、ブラックホールのダイナミックな活動を理解する上で重要な情報になるとした。

  • 吸収線とその変化の起源

    吸収線とその変化の起源。観測期間全体にわたり、ブラックホールから約1万km付近に広がった電離ガスが、降着円盤上に分布していると考えられる。また、伴星から落ちてきたガスと降着円盤がぶつかる場所では、衝突により円盤面と垂直方向に電離ガスの塊が形成されており、観測後半にはその塊が連星系の軌道運動と共にXRISMの観測方向と重なり、そのガスがX線をさらに吸収することで吸収線がより深くなったと解釈された。(出所:愛媛大プレスリリースPDF)

今回の主な吸収線の観測から、高温ガスはウインドとして連星系の外へ噴き出してはいないことが推定された。一方、今回よりも明るい時期には、秒速約1000kmのスピードで噴き出す高速ウインドが観測されている。X線光度や降着円盤のガスの状態がどのような条件を満たす時に、ガスが加速されて高速ウインドが噴き出すのか、どのぐらいのガスやエネルギーが宇宙空間にまき散らされるのか、そうした疑問を解明することが、研究チームの今後の大きな目標だという。そのため、増光中のさまざまな明るさでXRISMによる観測を行うべく、観測態勢を整える予定としている。