広島大学、国立極地研究所(極地研)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、京都大学(京大)、大阪公立大学(大阪公大)の5者は8月6日、小惑星リュウグウに似た炭素質隕石「CIコンドライト」に、小惑星同士の衝突を模擬した人工的な衝撃を加える実験を実施した結果、同小惑星で採取された試料で確認された衝突による特徴を再現することに成功したと共同で発表した。

同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科の宮原正明准教授、京大 理学研究科の野口高明教授、大阪公大大学院 理学研究科の瀬戸雄介准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球・惑星科学を扱う学術誌「Earth and Planetary Science Letters」に掲載された。

リュウグウに残された衝突の痕跡を再現

太陽系の小惑星の約8割は「C型」で、リュウグウもその1つだ。CIコンドライトや「CMコンドライト」といった、太陽に最も近い化学組成を持つとされる始原的な炭素質隕石のグループと酷似した性質を有し、水質変成を受けており、有機物(炭素)や水に富む鉱物が含まれる。CIコンドライトは壊れやすく、地球上で風化作用を受けやすいため、非常に貴重な隕石だ。またリュウグウ試料は、鉱物の種類や化学的な特徴がCIコンドライトに酷似していることが、これまでの分析で確認されている。

リュウグウの表面には、過去の衝突による衝撃の痕跡と考えられる積層構造の岩石が多数見られる。このことから、リュウグウは幾度もの衝突で砕かれた岩石が再集積した「ラブルパイル天体」と推測されている。

一方で、CIコンドライト隕石を使ったこれまでの衝撃実験では、いくつかの課題があった。人工的に高速の弾丸を岩石に当てて衝突現象を模擬する衝撃実験において、隕石の含水量が多いと衝撃時に一気に破砕・飛散してしまうため、試料の回収が困難だった。さらに、CIコンドライトは非常に貴重なため、実験に使える試料自体の確保も困難であった。

そこで研究チームは今回、フランスで発見され、現在は極地研に一部が保管されている貴重なCIコンドライト隕石「オルゲイユ隕石」と、代々の南極地域観測隊が採取し、極地研が管理する約1万7000点の「南極隕石コレクション」の1つであるCIコンドライトに類似した隕石「Yamato 980115」のそれぞれの微小片を用いて、小惑星衝突時に隕石内部でどのような変化が起きるのかを実験的に再現・分析したという。

  • オルゲイユ隕石の試料

    衝撃実験に用いられたオルゲイユ隕石の試料(出所:共同プレスリリースPDF)

  • 隕石「Yamato 980115」の切断作業

    南極で回収された隕石「Yamato 980115」の切断作業。非常に脆いため、ワイヤーソーを用いて慎重に作業が行われている(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の実験では、物質・材料研究機構に設置されている「一段式火薬銃」が使用された。これは本来、金属やセラミックスの衝撃変形を調べるための装置だが、破砕と飛散を抑えて実験できるよう、100ミリグラム以下の少量かつ非常に小さな隕石試料を用いるための改良が施された。

  • 一段式火薬銃

    一段式火薬銃。火薬の力で金属製の円筒を高速で飛ばし、隕石衝突のような現象を再現するための実験装置(出所:共同プレスリリースPDF)

実験後の鉱物や隕石の構造がどのように変化するのかを詳細に分析するため、約0~45ギガパスカル(GPa、1GPaは約1万気圧)の衝撃圧力が再現され、リュウグウ試料の分析で使われた先進的な手法が応用された。さらに、その実験結果をもとにリュウグウ試料の衝撃履歴を評価し、実験結果と一致するかどうかも検証された。その結果、リュウグウの成り立ちやC型小惑星の進化を解明するための、以下の重要な知見が得られたとする。

  • 約4GPa以下の弱い衝撃では、鉱物や岩石の構造に大きな変化は見られなかった
  • 約4GPa超の衝撃では、含水鉱物や有機物が水分やガスが放出され、その圧力によって岩石が割れ目に沿って壊れやすくなる
  • 約10GPa超の衝撃では、岩石の一部が溶け、泡のような構造を持つガラス状のアモルファス(原子配列に規則性がない)物質が生成された

小惑星同士の衝突では、4~10GPaの強い衝撃が発生することがある。リュウグウ試料に関しては、一部で脱水や脱ガスの痕跡が確認されたものの、多くの試料では明確な変形や溶融は見られなかった。これは、多くのリュウグウ試料が4GPa以下の比較的弱い衝撃しか受けていないことを示唆しており、従来の解釈を裏付ける結果となった。このことから、リュウグウでは衝突で一部に高圧がかかり、含水鉱物や有機物が急激に水やガスを放出し、岩石が飛散したことが推測された。

一方、岩石そのものは激しく壊れずに済み、その破片がもう一度集積することで、リュウグウがラブルパイル構造となった可能性が高いことも明らかにされた。この現象は、多くのC型小惑星にも共通している可能性があるとする。

  • リュウグウ試料と衝撃実験後の隕石試料に見られる衝突の痕跡

    リュウグウ試料と衝撃実験後の隕石試料に見られる衝突の痕跡(電子顕微鏡像)。両試料共に、ひび割れや、脱ガスによる泡構造など、衝撃の痕跡が確認できる。リュウグウは過去の衝突で破壊され、その破片が再集積してできたラブルパイル天体であることが裏付けられた(出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームによると今後は、リュウグウ試料にわずかに残る衝撃の痕跡を詳しく調査し、小惑星の深部に埋もれていると予想される強い衝撃を受けた物質の存在を探ることが重要だという。また、他のC型小惑星や南極で見つかったC型小惑星由来の隕石を調べることで、太陽系の初期に起きた衝突や物質の動きについて、より詳細な全体像が明らかになっていくことが期待されるとしている。