ハイパワー領域対応の650V耐圧GaNパワー半導体

ルネサス エレクトロニクスは7月2日、同社が2024年6月に買収したTransphormのSuperGaN技術を活用した「第4世代プラスプロセス(Gen IV Plus)」ベースの650V耐圧GaNパワー半導体を開発、量産を開始したことを発表した。

一般的にGaN HEMTは電圧が0Vの時でも電流が流れてしまう「ノーマリーオン」であり、これをオフ(ノーマリーオフ)化することが求められる。このオフ化の方法としては、GaN層とその上に接合されているAlGaN層の界面に自然に形成される高速なチャネル「2-dimensional electron gas(2DEG)」を空乏化する必要があり、ゲート-ソース間にマイナスの電圧を印加することで空乏化して電流が流れなくしたりしてノーマリーオフ化がなされている。しかし、その場合、ゲート-ソース間の定格電圧が低かったり、ゲートにノイズが入りやすく、その影響で破壊されたりするといったことがあり、ノイズが増大する大電力(ハイパワー)用途には向かないという課題があった。

ルネサス(旧Transphorm)は、こうしたノーマリーオフ化(Eモード)したGaN HEMTではなく、GaN HEMTについてはノーマリーオンのまま(Dモード)とすることで、ゲート耐性を向上。ノイズに強い構造を実現しつつ、その前段に低耐圧のSi MOSFETを直列したカスコード構造を採用することで、外部から見たらゲート電圧が0Vでオフとするハイパワー領域にも適用可能なノーマリーオフのGaNデバイスを提供してきた。

この構造にすると、温度が上昇してもスイッチングの際の動的オン抵抗の上昇を抑えることができ、電源効率の向上を図ることができるというメリットも得られるという。

  • EモードとDモード(カスコード構造)の比較

    EモードとDモード(カスコード構造)の比較 (提供:ルネサス、以下すべてのスライド同様)

プロセスシュリンクでダイサイズの縮小とデバイスコスト低減を実現

今回、同社が提供を開始した第4世代プラスプロセスは、従来の第4世代プロセスに対し、ソース-ドレイン間の距離をシュリンクさせることで、ダイサイズを第4世代比14%低減したほか、オン抵抗も同35mΩから30mΩへと低減を図ることで、性能や使い勝手の向上と低価格化を図ったものとなる。具体的には、オン抵抗と出力容量の積に基づく性能指数(FOM)を同20%低減させることに成功したとする(Ron×Qgでは50%以上の改善、Ron×Qossでは20%以上の改善としている。Ronはオン抵抗、Qgはゲートを充電するために必要な電荷、Qossは出力電荷量)。

  • 第4世代プラスプロセスの概要

    第4世代プラスプロセスの概要

  • 第4世代プロセスと第4世代プラスプロセスの比較

    第4世代プロセスと第4世代プラスプロセスの比較

パッケージとしては1kW~10kW、さらには並列化による高出力なアプリケーションに適したTOLT/TOLL/TO-247の3種類を提供済み。4ピンTO-247となるTO247-4Lについては現在、開発中とのことである。型番はTOLTが「TP65H030G4PRS」、TO-247が「TP65H030G4PWS」、TOLLが「TP65H030G4PQS」となっており、いずれも高い放熱性を有しており、基板レイアウトの柔軟性を高めることができるとしている。同社では、表面実装パッケージのTOLT(上面放熱パッケージ)およびTOLL(裏面放熱パッケージ)は、大電流が必要なシステムにおいて並列化を容易にすることが可能とするほか、TO-247は高出力なアプリケーションに最適だと説明している。

AIデータセンターの電力増加問題の解決へ

主なターゲットとしては、AIデータセンターを中心に、無停電電源装置やソーラーインバータ、バッテリ蓄電コンピュータ、eモビリティの充電のほか、将来的には車載用OBCやDC/DCなどまで含めた3kW程度までをカバーする必要があるアプリケーションを挙げており、中でもAIデータセンターの48V化ニーズへの高まりは、ハイパワーに対応可能な自社のGaNパワーデバイスにとって追い風になるとの見方を示し、650V耐圧という特性を武器に注力していくとする。

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  • 激増するAIデータセンターの省電力化ならびに電力効率向上に向けて高電圧化や直流電源化といった取り組みが進められつつあり、そこにハイパワー対応のGaNに対するニーズの高まりがあるという

ちなみに同社のGaNデバイスは基本となるGaN FETの設計を自社で行っているほか、キープロセスであるSi基板上のGaN層形成も日本の会津若松工場(旧富士通セミコンダクター会津若松工場、現在はAFSW。もともと富士通もGaN HEMTの研究を行っており、そうした関係もあり、パートナーシップを締結し、会津若松の工場にて量産化が進められてきた)ならびに旧Transphorm本社所在地の米ゴレタ(Goleta)、台湾で対応していることに加え、製造もAFSWの6インチラインを活用している。加えて、2025年4月には2027年をめどとしたGaN-on-Siを活用した8インチウェハでの量産に向けて米Polar Semiconductorへの製造委託契約を締結しており、さらなる製造拡大を目指している。

  • GaNデバイスサプライチェーン

    ルネサス(旧Transphorm)のGaNデバイスサプライチェーン

なお、同社では今後、すでに実績を有しているSuperGaN技術と自社のドライバやコントローラを組み合わせた包括的な電源ソリューションを提供していく予定としており、すでに今回の3製品向けとして4.2kWトーテムポールPFC GaN評価ボード「RTDTTP4200W066A-KIT」の提供を開始したとするほか、今後は第6世代(8インチ対応プロセス)の開発を加速させて、ハイパワー領域における優位性をさらに高めていきたいとしている。

参考文献

The Fundamental Advantages of Normally-Off D-Mode GaN (ルネサス)