米国のエクサスケールスパコン「El Capitan」が連覇

世界のスーパーコンピュータ(スパコン)に関するランキングの2025年6月版(第65回)「TOP500」が6月10日、独ハンブルグにて開催中のHPCに関する国際会議「ISC High Performance 2025(ISC 2025)」に併せる形で発表された。

それによるとトップとなったのは前回同様、米LLNL(ローレンス・リバモア国立研究所)に設置された「El Capitan(エル・キャピタン)」で2連覇となった。El Capitanは、AMDの第4世代EPYC(24コア、1.8GHz動作)を1103万9616コアとAIアクセラレータ「Instinct MI300A」(インターコネクトはSlingshot-11を採用)を採用したエクサスケールスパコンで、LINPACK性能は1742.00PFlops(1.742ExaFlops)と前回から変更はない。

  • El Capitan

    LLNLのEl Capitan (出所:Top500 Webサイト)

2位も前回同様、米ORNL(米オークリッジ国立研究所)に設置されたエクサスパコン「Frontier」で、LINPACK性能は1353PFlops(1.353ExaFlops)と、こちらも前回から変更はないほか、3位も米アルゴンヌ国立研究所に設置されたエクサスパコン「Aurora」で、LINPACK性能は1.012ExaFlopsと前回から変更はない。

トップ10唯一の新顔となった4位の「JUPITER Booster」

3位までは前回から変動がなかったが、4位に新顔としてEuroHPC/Forschungszentrum Jülich(FZJ、ユーリッヒ研究センター)の「JUPITER Booster」がランクインを果たした。JUPITER Boosterは、NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip(72コア、3GHz動作)を採用したスパコンで、480万1344コアでLINAPACK性能は0.793ExaFlops(793.40PFlops、ピーク演算性能は930PFlops)としている。

JUPITER Boosterが4位に入ったことで、前回4位であったマイクロソフトのAzureスパコン「Eagle」が5位に後退。LINPACK性能は0.561ExaFlops(561.20PFlops)でこちらも変更はない。

6位はエネルギー供給会社である伊Eniが導入した最適化されたAMD第3世代EPYC(64コア、2GHz動作)とInstinct MI250Xを搭載したHPE Cray EX4000システムベースのスパコン「HPC6」で、LINPACK性能は477.90PFlops。7位は、前回6位であった理化学研究所(理研)のスパコン「富岳」でLINPACK性能は442.01PFlopsと変更はないが、富岳は「Graph500」で11期連続の第1位を獲得している。

8位は前回7位のスイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)に設置されているNVIDIA GH200を搭載したAIスパコン「Alps」。LINPACK性能は434.90PFlopsでやはり変更はなかった、9位は前回8位の欧州連合(EU)のスパコン共同事業体(EuroHPC Joint Undertaking)のうちの1つで、フィンランドの教育文化省が運営する非営利の国有企業CSC - IT Center for Scienceによる「LUMI」。LINPACK性能は379.70PFlopsで、こちらも変更はない。そして10位は前回9位で、LUMIと同じEuroHPCの1つである、イタリアのボローニャに設置されているCINECAデータセンターの「Leonardo」で、LINPACK性能は前回同様の241.20PFlopsとなっており、前回10位であったEl Capitanと同じLLNLのスパコン「Tuolumne」は12位まで後退している。

  • 2025年6月版(第65回)TOP500の上位10システムの概要

    2025年6月版(第65回)TOP500の上位10システムの概要 (出所:TOP500 Webサイト)

トップ500の中に日本勢は40システムがランクイン

この結果、上位10システムのうち4システム(El Capitan、Frontier、HPC6、LUMI)がAMDのプロセッサ、3システム(Aurora、Eagle、Leonardo)がIntel、残りの3システムがArmベース(JUPITER Booster、富岳、Alps)となった。また、インターコネクト別でみると、HPEのSlingshot系が7システム(El Capitan、Frontier、Aurora、HPC6、Alps、LUMI、JUPITER Booster)、2システムがInfiniband(Eagle、Leonardo)となっている(富岳は独自のTofuを採用)。

Top500システムを国・地域別でみると、米国のシステムが173台とトップを維持する一方、中国が新規登録を行っていないため前回の63から46台に減少。ドイツが前回の41台から43台に伸ばしているほか、日本も前回の34台から40台へと伸ばした。地域別でみると、北米が187でトップ、欧州が163、アジアが135となっている。

トップ100以内に日本勢は12システムがランクイン

なお、富岳以外の日本の主なスパコンシステムとして100以内にランクインしているのは以下の通り。前回の富岳併せて11システムから1システム増の12システムがランクインしている。新たにランクインしたのは、2024年10月31日付で運用を終了した産業技術総合研究所(産総研)の「ABCI 2.0」の後継機で2025年1月より運用が開始された「ABCI 3.0」が15位、同じく2025年より産総研が運用を開始した日本での量子コンピューティングのイニシアティブの推進を目的としたスパコン「ABCI-Q」が27位へと入っている。また、企業としての動きも出てきており、ベトナムFPTの日本法人FPTジャパンが運営するFPT AI Factoryのスパコンが36位に新たにランクインしたほか、49位にさくらインターネットと、そのグループ会社であるプラナスソリューションズのスパコン「SAKURAONE」が新たにランクインしている。

代わりに前回のランクから消えたのは、前回37位であったGMO GPU Cloudのスパコンシステム(38.06PFlops)と、同96位であった気象庁の「線状降水帯予測スーパーコンピュータ」(13.37PFlops)および同97位だった気象庁の「線状降水帯予測スーパーコンピュータ」(13.37PFlops) これら気象庁のスパコンは主系と副系の2系統で構成。それぞれの順位は1系あたりのLINPACK性能)の3システムとなっており、このうち気象庁のスパコンは115位と116位に後退、GMOのスパコンについては今回、登録を行わなかったものとみられる(仮に登録していた場合、性能に変化がないとすると47位相当の性能ということとなる)。

  • 15位(新登録):産総研の「ABCI 3.0」(145.10PFlops)
  • 22位(前回16位):ソフトバンクの「CHIE-3」(91.94PFlops)
  • 24位(前回17位):ソフトバンクの「CHIE-2」(89.78PFlos、前回の83.14PFlopsから向上)
  • 27位(新登録):産総研の「ABCI-Q」(74.58PFlops)
  • 36位(新登録):FPTのスパコン(49.85PFlops)
  • 37位(前回28位):筑波大学計算科学研究センターと東京大学情報基盤センターの共同運営による最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)の「Miyabi-G」(46.80PFlops)
  • 46位(前回36位):東京科学大学(旧 東京工業大学)の「TSUBAME4.0」(39.62PFlops)
  • 49位(新登録):さくらインターネット/プラナスソリューションズの「SAKURAONE」(33.95PFlops)
  • 73位(同58位):東京大学情報基盤センターの「計算・データ・学習」融合スパコン「Wisteria/BDEC-01」のシミュレーションノード群(Odyssey)(22.12PFlops)
  • 93位(同76位):東北大学の大規模計算科学計算システムスーパーコンピュータ「AOBA」のサブシステム「AOBA-S」(17.22PFlops)
  • 96位(同80位):宇宙航空研究開発機構(JAXA)のスーパーコンピュータシステム(JSS3)のHPCシステム「TOKI-SORA」(16.59PFlops)