2025年4月、中国の有人宇宙開発はふたつの大きな節目を迎えた。同月24日には、3人の宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船「神舟二十号」が、中国宇宙ステーション(CSS)に向けて打ち上げられ、新たなミッションがスタート。同月30日にはそれと入れ替わるように、約半年間の宇宙滞在を終えた「神舟十九号」の宇宙飛行士が地球に帰還し、中国の有人宇宙計画の安定性と技術力を世界に示した。
神舟二十号の打ち上げ
神舟二十号は、日本時間4月24日18時17分(北京時間17時17分)、中国北西部の酒泉衛星発射センターから、「長征二号F」ロケットによって打ち上げられた。中国有人宇宙プロジェクト弁公室(CMSA)によると、宇宙船は予定していた軌道に投入され、打ち上げは成功したとしている。
神舟二十号は、打ち上げから約6時間半後の25日1時49分、CSSのコア・モジュール「天和」に正常にドッキングした。
神舟二十号には、陳冬氏、陳中瑞氏、王傑氏の3人の宇宙飛行士(タイコノーツ)が搭乗している。陳冬氏は過去にも、神舟十一号と十四号で宇宙飛行の経験を持ち、今回はミッション全体を統括する司令官を務める。陳中瑞氏と王氏は今回が初めての宇宙飛行となる。
神舟二十号のミッションは、CSSでの約6カ月の滞在を通じて、科学実験や技術試験、宇宙ステーションの管理を進めることにある。とくに、魚を使った骨量減少や心血管系への影響の研究や、プラナリアの再生を通じたヒト細胞の老化の克服やアンチエイジングなどの研究が注目されている。また、船外活動(EVA)による機器の設置やメンテナンスが予定されているほか、学生向けの宇宙からの授業など、科学教育活動も実施される。
神舟十九号の帰還
一方これまでCSSには、神舟十九号のクルーである蔡旭哲氏、宋令東氏、王浩沢氏が滞在しており、神舟二十号のドッキング後5日間にわたり、6人での共同作業を行った。4月27日にはミッションの引き継ぎセレモニーも行われた。
そして、蔡氏らは4月30日6時ちょうど、神舟十九号に乗ってCSSから離脱し、13時08分に内モンゴル自治区の東風着陸場に帰還した。3人全員が良好な状態だという。
神舟十九号は、2024年10月30日に打ち上げられ、183日間にわたって宇宙に滞在した。
ミッション中、クルーは微小重力環境の人体への影響の研究をはじめ、細胞培養や植物成長実験、材料科学、流体力学に関する研究を実施した。また、宇宙での食料自給や、衛星コンステレーションによる通信網の試験運用などの研究や実証も行った。さらに、船外活動を通じて、宇宙ステーションの外部機器の点検やアップグレードも実施した。
CSSはさらに発展、月面基地の構想も
神舟十九号の成果と神舟二十号の新たなミッションの始まりは、中国の有人宇宙計画の着実な進展を象徴している。
CSSは、2022年の完成以降、科学実験や技術実証のプラットフォームとして機能し、国際的な注目を集めている。今後も、宇宙望遠鏡モジュール「巡天」の追加や新たな実験用モジュールの導入が計画されており、機能や能力のさらなる向上が見込まれている。
これに対し、米国を中心とする国際宇宙ステーション(ISS)は、依然として宇宙実験、技術実証の場として重要な役割を果たしているが、課題も浮上している。ISSは現時点で、2030年の運用終了が予定されているが、現在トランプ政権は予算削減の一環として、今後の運用規模の縮小、さらには退役の前倒しなどを検討している。
また、NASAは並行して、ISSの後継として民間企業による商用宇宙ステーションの開発を支援しているが、資金や技術面での不確実性を抱えている。
中国のCSSは、こうした状況の中で独自の強みを拡大している。CSSはすでにパキスタン、タイ、南アフリカなど複数の国と共同実験を実施し、国際協力を通じた影響力の強化を図っている。ISSの運用が縮小し、2030年に退役すれば、CSSは世界の研究機関、研究者にとって魅力的な代替場所になるかもしれない。
さらに、中国はCSSの運用に留まらず、月面探査や月面基地の建設という野心的な目標に向けても加速している。2030年までに有人月探査を実現することを目指すとともに、ロシアやその他のパートナー国と共同で「国際月科学研究ステーション」(ILRS)の建設・運用も計画し、新しい超大型ロケット「長征九号」の開発も進めている。ILRSは、月面での資源利用やエネルギー供給を視野に入れた研究基地として構想されており、2035年以降の本格運用を目指している。
一方、米国は、国際共同での月探査計画「アルテミス」を進め、2026年以降の有人月着陸を目指しているが、宇宙船やロケットの開発遅延、予算超過が続いており、計画のさらなる後退が懸念されている。さらに、トランプ政権は、その先に計画されている月周回ステーション「ゲートウェイ」や月面基地の開発についても、規模の縮小や中止を提案している。
また、月面着陸や、その先の有人火星探査に向けて、イーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXは巨大ロケット「スターシップ」の開発を進めているが、まだ実用化の目処は立っていない。
場合によっては、中国の宇宙飛行士が、アルテミス計画より早く月に降り立ち、その後も月面での主導権を握る可能性にある。
CSSの発展とILRSの構想は、中国やそのパートナーの野心と影響力の広がりを占う指標となる。一方、ISSとアルテミス計画の行方は、国際協力のあり方や形を問う試金石となりそうだ。
参考文献