Intelが4月末、米国にて開催した「Intel Foundry Direct Connect」では、先端プロセスや先端パッケージング技術が話題の中心となったが、同社は成熟プロセスについてもファウンドリビジネスの幅を広げることを目的に提供することを計画している。
Intelはなぜ12nmプロセスをファウンドリで提供するのか?
同イベント翌日となる4月30日、Intel本社にてアナリストやメディア向けに同社と台UMCが進める12nm FinFETプロセスの共同開発の進捗や背景、今後の計画などの説明が行われた。
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Intel-UMC 12nm FinFETプロセスの共同開発・製造に関する説明会のタイトル。Intel側からは、Intel Foundry Servicesのワールドワイドビジネス開発担当 副社長のウオルター・ウン氏、UMC側からは、UMC・USA社長のT.J.Lin氏が登壇した (出所:Intel米国本社にて著者撮影)
Intel Foundry Servicesのワールドワイドビジネス開発担当 副社長を務めるウオルター・ウン氏(前職は、UMC北米セールス担当副社長)は、成熟プロセスである12nmプロセスプラットフォームをUMCと共同で開発している意義について 「最先端のスマートフォン(スマホ)では、アプリケーションプロセッサやモデムは3nmや4nmという先端プロセスで製造されているが、その周辺部分、例えばRFやアナログ回路などは55~130nm程度の成熟プロセスが多数用いられている」とし、最新モデルのスマホであっても、成熟プロセスの半導体が必須であると指摘。併せて、スマホのみならず、PCやさまざまな電気製品でも同様のことがいえることも指摘する。
こうしたさまざまな電気製品を作り上げるには、中核のSoCのみならず、周辺のチップも製造する必要があり、そのためには成熟プロセスでの半導体製造が重要となる。UMCは、TSMCのような先端プロセスを提供しない代わりに、そうした成熟プロセスでの事業拡大を目指してきた。コロナ禍において生じた半導体不足も、成熟プロセスの製品が不足していたことが指摘されている。
そうした中、12nm FinFETは、HPC、民生・産業・医療、モバイル/RF、自動車、宇宙・防衛などの幅広い応用が期待され、そうした意味では今後の重要なプロセスと言える。
米国顧客に技術を提供したいUMC、米国での製造を推進したいIntel
UMC米国法人のT.J.Lim社長は「成熟プロセスは現在、20~28nmあたりが業界の主流になっているが、今後は12nmに移行すると考えている。2028年に向けて200億ドル以上の潜在市場があり、特にロジックや無線といった需要が高まってる」と述べている。
ここで重要なのは地政学的な動きである。1Xnmクラスの半導体製造地(前工程)は、台湾44%、韓国12%、中国10%、日本1%とアジア地域だけで67%を占め、残りが米国29%、欧州その他4%となっている。こうした偏りを米国政府は国家安全保障の観点から、米国に半導体メーカーを誘致して、半導体製造の拠点を米国内に増やすことを目指してきた。
一方、UMCの工場の立地は、台湾のほか、中国、シンガポール、そして日本(元三重富士通セミコンダクター、現在はUMCが買収)とアジア圏にある。Lin氏は「アジアに製造拠点が集中しすぎている。地政学上、それを変えていく必要があるという点で、Intelとのパートナーシップは重要な意味を持つ」と米国での取り組みの意義を説明する。
また、IntelとUMCが組むことのメリットについて、「顧客にとっては、高性能の12nm製品を米国内の工場で委託製造できる。UMCにとっては、我々の先端技術を米国の顧客に直接提供できる。そしてIntel Foundryにとっては、アリゾナの既存ラインを有効活用できる上、これまでIntelがあまり手掛けてこなかったような成熟プロセスを顧客に提供するためのノウハウを得られることだ」と、顧客、UMC、Intelそれぞれにメリットがあることを強調した。
本格量産の提供は2027年1月開始を計画
さらに、現況と今後の計画について「2024年年1月に今回の提携の発表をして以降、両社のエンジニアが一緒になってIntelアリゾナ工場で製造ラインの立ち上げを行っている。PDK(Process Design Kit)バージョン0.5を今年10月には、採用を決めている特定顧客に公開し、その後、バージョン1.0を2026年4月に広く配布する予定である。そして2027年1月にはアリゾナ工場にて量産を開始する見込みである」と説明する。
Intelアリゾナ工場で提供される12nmプロセスは、UMCが台湾で提供する12nmプロセスが移設されるが、これを両社は「コピースマート」と呼んでいる。工場間のプロセス共有は通常、「コピーイグザクトリ」と呼ばれる工場のレイアウトや装置ごとコピーする手法が多いが、UMCとIntelでは工場や製造ラインのレイアウトが異なるため、そのままコピーイグザクトリというわけにはいかず、調整が必要なため、コピースマートという名称になったとする。
IntelはMediaTekから16nmプロセスでの製造も受託
なお、IntelはこのUMCの提携とは別に台MediaTekから「Intel 16(16nm FinFET)」を採用したロジックデバイスの製造を受託したことを明らかにしている。
Intelによれば、Intel 16はMediaTekの安価な成熟プロセスが欲しいという「顧客の声」を取り上げて製造が決定されたとのことで、顧客第一主義がいわばIntel Foundryの新たな社是になったことにより、顧客の要望に極力応える姿勢の表れだという。
Intelのアイルランド工場は、同社にとって最初にEUVリソグラフィを採用したIntel 4とIntel 3の量産工場だが、MediaTek向けIntel 16採用チップも、この既存製造ラインで製造が行われる予定だと。