
日本は2017年1月に誕生したトランプ1.0の任期期間中に景気後退に陥った。このときの景気の山は18年10月、谷は20年5月である。
景気後退は複合的な要因が重なった。大胆な金融緩和を第1の柱に据えたアベノミクスのもと、日本の景気拡大は12年から71カ月続いていたが、トランプ政権が誕生して、貿易戦争が意識され始めると、生産活動が鈍っていく。その後、天候不順(西日本豪雨)や消費税引き上げ(19年10月)などが重なり、最後はコロナで止めを刺されることになった。
今から思い起こせば、トランプ政権の誕生で不透明感が高まり、世界の設備投資が鈍って日本でも生産や輸出が振るわなくなったと整理できる。
足元で進むトランプ2.0は、どうなりそうか。大きな読み筋としては、米国経済や株式市場を壊してまで、トランプが関税政策をつき進めるとは思っていない。
日本は米国と日米貿易協定を結んでいるため、関税率は他国比で著しく低い。ただ、関税率が高い農業分野、非関税障壁の批判がある自動車、為替は、ディールの対象となり得る。
日本としては、自動車に関税が発動されると影響が甚大であるため、絶対回避で動くと読む。交渉では、そのバーターとして直接投資を増やすことや、エネルギーの購入を増やすといったことにコミットする話が出てくると考えている。
今回はトランプ1.0のときと違って、大規模な減税策はまだ先にしか実現しない。その一方で、中間選挙戦は来年11月にスタートする。来年春までには他国から譲歩を引き出し、ディールをまとめ、それをもって高関税の一部を下げていかないと、経済も株価も維持できない。
トランプは、関税をいつ・どこに・どれだけかけるかを意図的に曖昧にすることで、交渉力を高めている。しかし、この戦略は、他国や企業にとって、不確実性を極度に高めるものにほかならない。
米スタンフォード大学の教授らにより開発された世界の経済政策不確実性指数をみると、昨年11月の米大統領選挙以降の上昇率は100%超に達し、過去比較でも最高水準にある。
こうなるとトランプ1.0と同じく企業活動は止まる。企業は今ある案件を先送りし、設備投資の勢いは鈍る。正に前回と同じことが起きようとしている。
日本の輸出は世界経済の変動に対して敏感なため、先行き不透明となれば、当然この先の生産も下向きのバイアスがかかりやすい。これまで生産の牽引役となってきた電子部品・デバイスが調整局面入りする中、輸出の低迷が続き、下向きの動きが懸念される。
まずは、これから本格化する日米交渉が重要だが、国内でもできるだけショックを作らない方が良いと感じる。日銀の利上げ前倒し観測などもあるが、慎重にも慎重な政策変更が必要な局面になってきた。