米国のトランプ大統領が世界経済に大きな波紋を投じている。2025年1月20日に第2期政権を発足させて以降、トランプ氏は保護主義的な通商政策を加速させ、半導体産業への圧力も強めている。

その矛先は、台湾の半導体ファウンドリ大手であるTSMC(台湾積体電路製造)にも向けられており、米国内での工場建設を求める発言が注目を集めている。4月8日、トランプ氏は政治関連イベントで、「TSMCが米国内に工場を建設しなければ、最大100%の税金を課す」と明言したとロイター通信などが報じた。この発言は、半導体供給網の米国依存を強めようとするトランプ政権の姿勢を象徴している。

TSMCへの圧力と米国の投資要求

トランプ氏の主張の背景には、米国の経済安全保障と産業競争力の強化がある。TSMCは世界最大の半導体ファウンドリであり、スマートフォン(スマホ)から自動車、軍事機器に至るまであらゆる分野で利用される半導体の製造を担っている。しかし、その生産拠点の大部分は台湾に集中しており、地政学的なリスクが指摘されてきた。特に、中国が台湾への軍事的圧力を強める中にあって、米国は半導体供給網の脆弱性を解消し、自国での生産能力を増強したい考えだ。

トランプ氏は、TSMCがすでに米国に投資を進めている点にも触れつつ、さらなるコミットメントを求めている。実際、TSMCは2025年3月初旬、トランプ氏との共同声明で米国に1000億ドル(約15兆円)規模の投資を行うと発表した。これは、アリゾナ州での工場建設を含む大規模な計画だ。しかし、トランプ氏は前バイデン政権が同工場向けに助成金を支出したことを批判し、「米国での投資と生産拡大が不十分だ」との立場を崩していない。今回の「100%課税」発言は、TSMCに対する圧力を一段と強めるための牽制と見られる。

台湾を巡る複雑な状況

トランプ政権の通商政策は、半導体関税だけでなく、相互関税の強化という形で日本や台湾を含む諸外国にも影響を及ぼしている。

例えば、台湾に対しては32%の相互関税が課されており、これは日本に対する関税率を上回る水準だ。これにより、台湾企業は米国市場へのアクセスにおいて不利な状況に置かれている。しかし、台湾が置かれている地政学的環境を考慮すると、事態はさらに複雑だ。

台湾は、中国による軍事的脅威に直面している。近年、中国は台湾周辺での軍事演習を頻繁に行い、武力による統一の可能性を示唆している。こうした中、米国は台湾にとって最大の安全保障のパートナーであり続けているが、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策は、台湾への関与を経済的な観点でしか見ていないように映る。半導体産業への高関税や工場建設の強要は、台湾にとって経済的な負担となり得る一方で、米国からの軍事的支援が後退するのではないかとの懸念も広がっている。

台湾の選択とTSMCの対米投資

このような状況下で、台湾が米国に対して報復関税を課す可能性は極めて低い。台湾にとって米国は、経済的にも安全保障的にも欠かせない存在だ。仮に報復関税を課せば、米台関係が悪化し、中国に対する抑止力が弱まる恐れがある。そのため、台湾政府やTSMCは、トランプ氏の要求に応じざるを得ない立場にあると言える。

実際、TSMCは米国への投資を加速させている。アリゾナ州の第1工場は2024年第4四半期に稼働を開始したほか、第2工場ならびに第3工場の建設も進んでおり、1000億ドルの追加投資により、前工程工場に加え、後工程工場や研究開発施設の建設も計画されたが、トランプ氏の発言を受けてさらなる投資拡大が予想される。米国での生産拠点強化は、台湾本島でのリスク分散にもつながるため、TSMCにとっても一定のメリットがある。しかし、巨額の投資に伴うコスト増や、米国の厳しい規制への対応は、同社にとって新たな課題となるだろう。

日本を含む国際社会にどう影響を及ぼすのか?

トランプ氏の半導体関税強化は、台湾やTSMCに留まらず、日本を含む国際社会にも影響を及ぼしている。

日本企業も半導体製造装置や材料の供給でTSMCと深く結びついており、米国の政策がサプライチェーン全体に波及する可能性がある。また、日本に対する相互関税も発表され、自動車や電子機器などの輸出産業が打撃を受ける懸念が浮上している。各国が自国優先の政策を進める中、グローバルな協力体制が揺らぐリスクも高まっている。

台湾半導体産業を取り巻く経済と地政学が交わる複雑な事情

トランプ政権の通商政策は、短期的には米国経済の強化を狙ったものだが、長期的には国際的な緊張を高める恐れがある。特に、台湾を巡る米中の対立が深まる中、半導体産業がその焦点となる可能性は高い。TSMCが米国への投資を拡大する一方で、台湾自身の経済的・安全保障的安定が損なわれれば、アジア太平洋地域全体のバランスが崩れる危険もある。

結論として、トランプ大統領の半導体関税強化とTSMCへの圧力は、経済と地政学が交錯する複雑な問題だ。台湾は報復を避け、対米投資を進める道を選ぶ可能性が高いが、その影響は日本を含む国際社会に広く及ぶだろう。トランプ氏の保護主義がどこまでエスカレートするのか、今後の動向に注目が集まる。