東北大学は3月31日、これまで未開発だった生体内の化学物質の変化と局所的な温度変化を同時に計測する技術について、「熱延伸技術」を用いることで、酸性・アルカリ性の度合いを表すpH(水溶液中の水素イオン濃度指標)と温度の同時計測が可能な「超微細ファイバーデバイス」の開発に成功したと発表した。

  • 熱延伸技術による超微細ファイバーデバイスの実現

    熱延伸技術による超微細ファイバーデバイスの実現(出所:東北大プレスリリースPDF)

同成果は、東北大 学際化学フロンティア研究所の郭媛元准教授、東北大 工学部の久保稀央学部生、東北大 理学部の阿部茉友子学部生(学際科学フロンティア研究所 ジュニアリサーチャー兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学測定科学を扱う学術誌「ACS Measurement Science Au」に掲載された。

生物の体内では、細胞間の情報伝達の多くに化学シグナル伝達が用いられており、それによって生理機能の調節、恒常性の維持、環境変化への適応などが実現されている。特に神経系においては、神経終末から放出される神経伝達物質がシナプス後細胞の受容体に結合することで情報が伝達され、感覚、運動、認知、感情などの多様な機能が制御されている。また、ホルモンによる内分泌シグナルや、細胞内外のpH・イオン濃度・代謝物の変化も細胞応答を調節する化学的シグナルとして機能しており、脳を含む多くの組織でそのバランスが重要視されている。

それに加えて温度もまた、生理学的プロセスにおいて不可欠な要素だ。上述した生理機能の調節などにおいても、化学シグナル伝達同様に重要な役割を果たしており、脳内においては、わずかな温度変化が生体の認知機能や感情、行動にも影響を与えることも知られている。

しかし、従来のシリコン加工技術やデジタル印刷技術などを用いたデバイスでは、特に脳内での化学シグナル伝達物質や温度の計測は技術的に困難だった。そこで研究チームは今回、水溶液中の水素イオン濃度指標であり、化学シグナル伝達の一端を示すpHと、局所温度を同時計測できるデバイスの開発に挑戦したという。

今回開発を目指したデバイスは、生体内への埋め込みや長時間の使用を想定する上で、複数の動態計測を行える機能を有しながら、微細かつ柔軟であることが求められる。そこで今回の研究では、ポリマー製のプリフォーム(原型)を維持したままミクロスケールの繊維を作製できる熱延伸技術に着目。その繊維内には、銅とコンスタンタン(銅とニッケルの合金)の2本の金属を使用したゼーベック効果に基づく「熱電対技術」と、炭素複合材料による電気化学センシング技術が組み込まれた。その結果、柔軟性を持ちながら直径が約200μmという微細な温度・化学センシング機能を有するファイバー型デバイスの開発に成功したとする。

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