豊橋技術科学大学(豊橋技科大)と東北大学の両者は2月12日、生体組織深部において高精度に神経活動を制御し、多点で神経活動を同時記録できる、マイクロLEDと神経電極を一体化したハイブリッドプローブを開発したことを共同で発表した。

  • マイクロLEDと神経電極を統合したハイブリッドプローブの概要

    特定部位への光刺激と多点での神経活動記録を同時に行えるマイクロLEDと神経電極を統合したハイブリッドプローブの概要(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、豊橋技科大 電気・電子情報工学系の関口寛人准教授、豊橋技科大大学院 電気・電子情報工学専攻の篠原豪太大学院生、東北大大学院 薬学研究科の佐々木拓哉教授、同・鹿山将特任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本応用物理学会が刊行する応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。

光遺伝学的手法とは、遺伝子導入によって特定の波長の光を当てると活性が変化する光感受性タンパク質の発現を利用することで、狙った神経細胞の活動を光で制御する手法のことだ。同手法により、生体の外部から光のみを当てることで神経細胞の活動を制御できるようになったことから、現在では神経科学研究における強力なツールとして注目されている。

しかし、従来主流とされていた光ファイバを用いた手法では、単一の神経集団の制御に限られ、複数の領域を同時に精密に操作することが困難だった。また、光刺激のみでは神経ネットワークの情報処理や伝播の複雑なメカニズムを完全には解明できないため、誘発された神経活動を高解像度で計測する技術が求められていた。

そこで近年注目されているのが、マイクロLEDを活用した多点光刺激デバイスだ。同デバイスは複数の神経細胞群を個別に制御することを可能としていることから、神経ネットワークの動態理解が飛躍的に進むとして期待されている。ただし、光刺激のみでは神経ネットワークの情報処理や伝播メカニズムを完全には解明できないため、光刺激と神経活動記録を統合した技術が求められていた。そこで研究チームは今回、生体深部において光刺激と神経活動記録を同時に行えるマイクロLEDと神経電極をハイブリッド統合した新しい針状デバイスの開発を目指したという。

マイクロLEDプローブは特定部位への光照射を可能にし、神経電極プローブは神経活動の電気信号を計測する。今回これらのプローブは独立に製造され、各プローブの位置を精密に調整した上で、金マイクロバンプを介して高精度に接合する技術が新たに開発された。金マイクロバンプの高度制御技術により、LEDと電極間のギャップが10μm単位で調整され、高い空間分解能が達成されている。接合されたプローブの角度差は0.02°以下であり、優れた平行性によってマウス脳深部へのスムーズな刺入が実現された。さらに、6つのマイクロLEDと6つの神経電極を搭載したハイブリッドプローブがマウスの脳に挿入され、特定部位への光照射とその周辺の神経活動の誘発・記録に成功したとする。

  • 開発されたマイクロLED/神経電極ハイブリッドプローブの画像

    開発されたマイクロLED/神経電極ハイブリッドプローブの画像(出所:共同プレスリリースPDF)

  • LED光照射によるマウス脳の神経活動誘発の記録

    特定部位へのLED光照射によるマウス脳の神経活動誘発の記録(出所:共同プレスリリースPDF)

今回開発されたハイブリッドプローブは、従来の光遺伝学的手法が抱える空間的制約を克服し、高精度な神経活動の制御と計測を実現する。それにより、神経ネットワークのダイナミクスを理解するための強力なツールとなるだけでなく、神経疾患の治療法開発における新たな可能性を提供するとした。今後は、さらに高度な多点刺激と記録の機能を統合し、神経科学研究および医療分野での実用化を目指していくことが期待されるとしている。