グーグルは3月25日、オンラインでGoogle for Education 校務 DX ゼロトラスト環境導入支援に関する説明会を開催した。また、説明会では奈良市における事例が紹介された。

学習面のみならず、校務も含めた教育DXを進める必要性

冒頭、グーグル Google for Education 営業統括本部 本部長の杉浦剛氏は昨年4月に発表したGIGAスクール構想第2期向けのパッケージについて説明した。

  • グーグル Google for Education 営業統括本部 本部長の杉浦剛氏

    グーグル Google for Education 営業統括本部 本部長の杉浦剛氏

同社では「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を提供。第2期では、Google Workspace for Education環境をベースに、新たに専用モバイルデバイス管理(MDM)ライセンス「Google GIGA License」と、スムーズな導入や活用支援のための「Google for Education GIGA サポートパック」の3本柱としている。

今回、同社ではゼロトラスト導入を後押しするものとしてゼロトラストの導入を支援する施策を発表した。

杉浦氏は「学習面のみならず、校務も含めた教育DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める必要がある。校務DXを進めるにあたり、セキュリティ面の強化は欠かせない要素になり、ゼロトラストを組み込むことにした」と述べた。

  • 校務DXを加速するためゼロトラストによるDXを追加した

    校務DXを加速するためゼロトラストによるDXを追加した

これまで、同社は教育DXの推進に向けて「学びのDX」「校務のDX」「セキュリティのDX」の3つを掲げていたが、ここに「ゼロトラストによるDX」を加える形になった。ゼロトラストによるDXは、OSやネットワーク環境などに依存しないWebセキュリティの強化とアクセス/データ保護を実現するというものだ。

同氏は「第2期において、教員は始動用のPCとして児童・生徒と同じ端末を使いたいということでChromebookの導入を進めている自治体が多い。しかし、そのような自治体以外は他OSを使いながら教員は校務と指導用の2台持ち、ないしは1台で他OSを利用している場合もある。そのような環境下においても授業と校務ともに高いセキュリティを担保できる環境が求められている」と話す。

「ゼロトラストによるDX」を促進するための施策

そのため同社では今回、教員がChromebookの場合はGoogle GIGA Licenseを提供し、他OSではGoogle Workspace for Educationの上位プラン「Google Workspace for Education Plus」に加え、Google Cloudの「Chrome Enterprise Premium」を融合することでマルチOS環境でも一貫したゼロトラストポリシーを適用し、セキュアなアクセス/データ保護を実現するという。

杉浦氏は「最大の強みは端末(エッジ)からクラウドサービスまで、すべてエンドツーエンドで提供していること。ゼロトラストについても、エンドポイントとしてのChromebookからGoogle Cloud、セキュリティまで一貫してゼロトラストに必要なソリューションを提供する。これにより、ゼロトラストを実現できる」と強調した。

  • 端末からクラウドまでエンドツーエンドでソリューションを提供できる点がGoogleの強みだという

    端末からクラウドまでエンドツーエンドでソリューションを提供できる点がGoogleの強みだという

こうした状況を踏まえ、同社は自治体に対してゼロトラストモデルの導入を促進するため、期間限定で以下の4つの特別オファリングを用意した。

1. 先行応募した30自治体(教育委員会)に事前アセスメントおよび移行ロードマップ策定支援の無償提供

2. ゼロトラスト関連製品の特別オファリング提供

3. Chromebookとゼロトラスト検証用トライアルライセンス貸出

4. ゼロトラスト関連のセキュリティ研修の実施

事前アセスメント、移行ロードマップ策定支援については、同社が導入まで伴走支援することに加え、認定のDXパートナーも協力して連携を図る。なお、認定パートナーに関しては事業者登録の申し込みをスタートしている。

  • 4つの特別オファリング

    4つの特別オファリング

同氏は「ゼロトラスト環境の構築を進めれば、ペーパーレスのほか、汎用ツールを校務で利用することでデータの一元化やIDの統合など、学習データと校務データを安全に連携することが可能だ。これにより、教員は児童・生徒の学習状況や出欠情報の相関分析など、きめ細やかな学習指導できるほか、教育委員会ではこうしたデータを分析して幅広い範囲でデータを有効活用することで効果的な教育政策を打ち出すことができる。また、災害時でも場所を選ばない働き方や業務を継続できる」との見解を示す。

Google for Educationを導入した奈良市の成果

続いて、奈良市教育委員会事務局 教育DX推進課 教育ICT推進 係長の米田力氏が教員の働き方改革をテーマに、同市における事例について解説した。

奈良市は人口35万人を抱え、学校数/児童・生徒数は小学校が42校/1万5021人、中学校が22校/6975人、高等学校が1校/915人の計65校/2万3000人が在籍している。

  • 奈良市教育委員会事務局 教育DX推進課 教育ICT推進 係長の米田力氏

    奈良市教育委員会事務局 教育DX推進課 教育ICT推進 係長の米田力氏

米田氏よると、学校では職員朝礼やコピー機を利用する時間、プリントの配布・回収時間、回収物を数えて転機する時間、欠席電話を受ける時間、職員室から教室に伝言する時間などがあり、同氏では削減を進めているという。

同市の教員は、1人1台Chromebookを利用しており、児童・生徒と同じChrome OSを利用することで場所を問わず、すべての業務で活用している。米田氏は「Google Workspaceの標準ツールを利用しながら、例えば職員会議を共同編集で行い、職員会議の案件に直接スマートチップでリンクを埋め込み、会議で意見が出た際にすぐに共同編集し、終了後には資料の修正が完了している状況」と説く。

  • 職員会議における資料作成のイメージ

    職員会議における資料作成のイメージ

また、ポータルサイトはGoogleサイトで各校の事情に合わせて情報窓口を一元化したものを作成して業務改善に取り組んでいることに加え、Google Chatで欠席者の連絡やデータのリンクを張り付けてクラウドで共有するなど、情報の共有・整理に一役買っている。

このような取り組みを進めたことで、奈良市では着実に成果を積み上げている。まず、勤務時間外在校時間が月45時間以上の教員が2021年度は32.4%だったが、2023年度は27.5%に減少し、2024年度は前年度より減少する見込みとなっている。

  • 勤務時間外在校時間が月45時間以上の教員は減少傾向にある

    勤務時間外在校時間が月45時間以上の教員は減少傾向にある

さらに、職員朝礼は年間16時間~32時間、朝の欠席電話などの対応が同66時間40分だったが、いずれもゼロに削減されているほか、コピー機の使用やプリントの配布・回収時間なども併せて削減している。

米田氏は「年間100時間以上の業務内容を見直し、児童・生徒と向かう時間が創出できている。業務そのものがなくなったわけでなく、業務のやり方を変えたことで時間を生み出している」と成果を口にする。

  • 年間100時間以上の業務内容を見直した

    年間100時間以上の業務内容を見直した

そのほか、保護者連絡の受付や配布資料、アンケートなどを100%電子化するなど保護者とのやり取りを電子化したことで、すべての学校が働き方改革を実感しているという。さらに、教職員間のやり取りもすべての学校でクラウドを活用していることから、96%の学校が働き方改革を実感しているとのことだ。

ゼロトラストアーキテクチャを採用した「奈良市モデル」

一方、教育委員会の役割として米田氏は「教員が安全に使えるクラウド環境を準備することが必須であり、これは文部科学省が定義する『次世代の校務DX環境』だと考えている」という。文科省では2021年3月に「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」において、ネットワーク分離を必要としない認証によるアクセス制御を前提とした構成を推奨している。

  • 文科省が推奨する「次世代の校務DX」

    文科省が推奨する「次世代の校務DX」

奈良市では、文科省が提示する構成にもとづいてアクセス制御モデルをGoogle Cloudの環境を基盤に構築。次世代の校務DX環境における運用から2年が経過し、同氏は「文科省では強固なアクセス制御と表現しているが、そこから一段階踏み込み、ゼロトラストアーキテクチャを採用している」と説明した。

こうした取り組みを同市では「奈良市モデル」と提唱している。これは(1)すべてをクラウドに上げて世界標準のセキュリティでデータを守る、(2)ネットワーク統合に加え、授業で使うツールと校務で使うツールの統合、(3)シンプルな構成でコストとセキュリティのバランス最適化の3つをポイントとしている。

  • ゼロトラストアーキテクチャを採用した「奈良市モデル」の構成

    ゼロトラストアーキテクチャを採用した「奈良市モデル」の構成

すでに、ゼロトラスト実施自治体のうち、奈良県十津川村や同川上村、群馬県吉岡町、福島県(県立高)、宮崎市、山梨県甲府市、埼玉県久喜市の7自治体は奈良市モデルをベースに構築。

Googleのゼロトラストアーキテクチャの考え方について、米田氏は「データをクラウドに閉じ込めて権限と認証でアクセスできる人を制限し、エンドポイントにデータを持ち出さない制御が可能。クラウド上のファイルを権限を持つ人たちが閲覧するため、コミュニケーションとコラボレーションが一体的に生まれやすい」と、そのメリットを説く。

奈良市モデルは、セキュリティや権限の管理はアカウント管理だけで認証、ツールをGoogle IDで統一し、教員用端末にChromebookを採用したことでクラウドを前提とした設計によりセキュリティソフトウェアを削減するとともに、端末の管理設定はGoogle管理コンソールから一括管理している。

  • 奈良市モデルのゼロトラストアーキテクチャのポイント

    奈良市モデルのゼロトラストアーキテクチャのポイント

米田氏は「目指すべきは、あくまでも児童・生徒たちとの学びの充実。そのためには、教員がクラウドを活用して日常的な業務を遂行し、サービスを習熟する必要がある。これらを実現するために、ゼロトラストアーキテクチャを採用したネットワーク統合を進めた」と話す。

また、同氏は「教員の端末をChromebookにしたことで、授業と校務の相乗効果を目指している。授業で利用したクラウドツールの経験が校務で活かされ、校務で利用したクラウドツールの経験が授業に活かす相乗効果を狙い、すべての環境をGoogleに統一してゼロトラストアーキテクチャを構築した」と力を込める。

  • 授業と校務の相乗効果を目指しているという

    授業と校務の相乗効果を目指しているという

そして、最後に米田氏は「これら2つは円環のため、どちらか一方ではなく、教員の方たちが安心して使えるセキュリティを担保したクラウド環境を構築しており、業務を通じてクラウドを理解して、授業に活かすにはどうすればいいのか?という学びのDXにつなげていくために奈良市では取り組みを進めている」と述べていた。