産業技術総合研究所(産総研)は3月24日、大電流動作が可能なダイヤモンド半導体(MOSFET)デバイスを開発し、アンペア級の高速スイッチング動作の実証に成功したことを発表した。
同成果は、産総研 先進パワーエレクトロニクス研究センター 新機能デバイスチームの梅沢仁 上級主任研究員、牧野俊晴 研究チーム長、竹内大輔 副研究センター長、本田技術研究所((Honda)らで構成される研究チームによるもの。詳細の一部は3月10日付で「Applied Physics Express (APEX)」にオンライン掲載されたほか、4月に米国シアトルで開催される「2025 MRS Spring Meeting & Exhibit」で発表される予定だという。
SiやSiC、GaNなどのパワー半導体材料の多くが、負電荷の電子が動くn型伝導を基本としており、正電荷の正孔が動くp型伝導性が低いという課題があった。ダイヤモンド半導体は、p型伝導が得意で、5.5eVという大きなバンドギャップや物質中最大級の熱伝導率、高い絶縁破壊電界を持つなど、究極のパワー半導体とも呼ばれる次世代半導体の一種に位置づけられている。
しかし、半導体として活用しようと思う場合、結晶作製や加工が難しく、まだ小口径のウェハでの研究開発に留まっているほか、ダイヤモンド半導体を実用化させるためには、アンペア級の大電流を扱いながら、高速スイッチングを実現できるデバイスを開発することが求められていた。
産総研では、ダイヤモンド半導体の実用化に向けて長年取り組んできた経緯があり、今回の研究では、大電流化のために従来よりも大型な基板上への試作プロセスと並列化技術の開発を行ったという。具体的には、ハーフインチサイズの単結晶ダイヤモンド基板上に、水素終端(H-terminated)による二次元正孔キャリアガスを用いたp型パワーMOSFETを多数作製し、並列動作可能な配線作製プロセスを確立してアンペア級の動作が得られるダイヤモンドMOSFETチップを開発したとする。
ゲート幅(WG)1020μmの単一素子の特性からは明瞭な飽和特性が得られたとするほか、同一基板上に作製した素子の性能が高い歩留まりで作製されていることも確認したとする。
また、314個の単一素子のソース、ゲート、ドレイン電極をそれぞれ並列接続し、総ゲート幅を約32cmにまで並列接続した素子の駆動電流は2.5Aであり、この素子にダブルパルス法によるスイッチング速度の評価を行ったところ、立下り時間が19ns、立上り時間が32nsであることが確認されたとする。
なお、研究チームによると、並列接続したダイヤモンドパワースイッチングデバイスがアンペア級の高速スイッチング動作できることが確認されたことは、今回の研究が初めてであり、今後の次世代パワー半導体の回路設計に新たな自由度を与え、社会実装に向けた開発の加速につながる技術的道筋を与えることになるとしている。今後は、耐電圧の改善、素子単体の高電流密度化などを行い、より大電力を扱える素子の研究と実用化開発を進め、モビリティの多様性やカーボンニュートラル社会の実現、社会全体でのエネルギー総量の低減や高効率化への貢献に向けて研究開発を行っていく予定としている。