TSMCが、米国のファブレス大手であるNVIDIA、AMD、Broadcomに対し、Intelの半導体工場を運営する合弁会社に共同出資する案を持ちかけているとReutersが複数の関係者の話として報じている

トランプ政権からのIntelの経営再建支援要請を受ける形で初期段階の交渉が行われている模様である。

TSMCに支援要請も買収は認めず

トランプ政権は、TSMCがIntelを全部あるいは一部(Intel Foundryのみ)買収することは認めないが、経営再建のための出資として、Intelが製造部門を切り離して合弁会社とした場合、TSMCの持ち株を50%以下、米国資本が50%以上とする形であれば歓迎する模様で、これは日本製鉄によるUS Steelの買収計画同様の構図と言える。

情報筋によると、TSMCは合弁事業への潜在的な投資企業がIntelの先端製造分野の顧客でもあることを望んでいるとのことで、すでにNVIDIAとBroadcomが個別にIntelと共同で「Intel18A」プロセスを使ったテストを行っていると一部のメディアが報じているほか、AMDも同様に評価を行っているとも言われている。

このほか、複数の米国ファブレスがIntelの設計部門の買収などに関心を示しているとする報道がなされているが、Intelは半導体の企画・設計部門をファウンドリ部門と分離して売却する協議を拒否している模様だという。

難しいかじ取りが迫られるTSMCとIntelの交渉

台湾の代表的経済メディアである工商時報は、台湾の法律専門家の意見として、今回のTSMCとIntelの協力計画は、複雑な関係性となり、当事者間の利益相反や調整の難しさから実行上の課題増加により、実行が困難との見方を伝えている。

交渉が困難な理由としては、TSMCとIntel Foundryが競合であり、Intelの製造能力の向上を支援することでTSMCの優位性が弱まるほか、Intelが手掛ける米国防総省関連の情報がTSMCに漏れる可能性があることが挙げられている。また、Intelが製造能力の向上に伴い自社のGPUやCPUの製造を増やせば、顧客であるNVIDIAやAMDの市場シェアを脅かす可能性がでてくるほか、NVIDIAやAMDが生産割当を増やすことを要求しても、Intel側がそれを拒否する可能性も否めないという。

さらに、NVIDIA、AMD、Intelの関係性から、協力後の技術共有などの交渉が難しいほか、NVIDIAやAMDの設計情報にIntelがアクセスする可能性が懸念されるとしている。このほか、Intelが合弁事業の主導権をTSMCが握ることを嫌がっているとする話も出ている。

技術面から見ても、TSMCとIntelともにEUV露光装置を活用しているが、露光の最適化調整方法や装置のアーキテクチャや種類、マスク設計手法、プロセスそのものの違いなどから、TSMCのエンジニアであっても短期的にIntelの生産ラインを最適化することは難しいと工商時報は伝えているほか、製造プロセスの材料やサプライチェーンにも互換性がなく、直接的な技術移転は極めて困難との見方も出ている。

なお、工商時報はM&Aの専門家の見立てとして、多社間交渉は資本配分、株式構造、経営権、技術共有のバランスを取る必要があり、非常に複雑であると考えられ、QualcommのIntel買収交渉撤退は、そうした難しさを示唆するものだとしている。その他の企業も利害の相違により撤退した場合、交渉は不発に終わる可能性があるとしている。