TSMCの魏哲家(C.C. Wei)董事長(日本の会長に相当)は3月6日、台湾政府の頼清徳 総統とのTSMCの米国への1000億ドル規模の追加投資に関する会談の後、総統府で共同記者会見を開催。米国での追加投資について、あくまでも米国の顧客の需要に応えるためであり、それでも生産能力は足りず、今後、台湾域内に2025年中に生産ラインを11棟設置する予定であり、米国への投資拡大は台湾での増産のための投資に影響しないと語ったと多くの台湾メディアが一斉に報じた。また、TSMCは世界中の需要に対応するため、今後数年以内に台湾にさらに生産ラインを10本追加する必要があるとも語ったという。
TSMCは先だって、米国に前工程工場だけではなく、先進後工程工場(2棟)のほか、研究開発センターまでも設置すると発表したため、台湾の業界関係者からは、TSMCは活動拠点を米国に移してしまうのではないかと心配する向きがあったが、魏氏は会見でそうした懸念の払しょくを狙ったようだ。また、米トランプ政権が米国内の半導体に対する補助金政策を撤廃しようとする動きについて、同社が対米投資を行うのは顧客の需要が原動力であり、求めているのは公平な競争であり、補助金ではないと断言した。
魏氏は、TSMCの工場建設はすべて顧客のニーズに基づいて決定しており、これまで一度もその方針を変えたことはないと強調。対米投資も顧客の需要に応えるためであり、すでにアリゾナ新工場も需要が生産能力を超える状態で、今後の生産ラインも予約済みと需要が極めて旺盛であると述べたという。
台湾や日本の投資への影響はなし
また、対米投資拡大に伴う、台湾や日本への投資抑制懸念については「影響はない」と明言。台湾の生産ラインも不足しており、投資を削減する考えがないことを改めて強調。米国での研究開発センター建設により技術流出を懸念する向きもあるが、同氏は1000人規模のセンターで、主に米国の生産ラインの最適化の検討や顧客との協業を担当するもので、1.6nm以降の先端プロセス開発は今後も台湾・新竹科学園区のグローバル研究開発センター(1万人規模)で行うとした。
さらに、TSMCの米国への追加投資がトランプ政権からの圧力によるものではないかとの見方について頼総統が、台湾政府は米国からの圧力を受けていないと述べたほか、魏氏とは今回の会談を含め、密接に連絡を取り合っており、TSMCの米国投資計画についても十分に把握していると語り、TSMCが台湾政府との事前協議をせずに、トランプ大統領の要求を受けたとする一部の見方をTSMCとともに否定した。
頼総統は、TSMCのグローバル展開は、TSMCの競争力を向上するだけでなく、サプライチェーンの海外進出の機会にもなっており、台湾経済に貢献しているとし、台湾政府は必ず、TSMCの用地取得、電力、水道、労働力などリソース確保に協力すると説明した。
TSMC前会長のMark Liu氏がMicronの取締役に就任
TSMCのこうした動きと並行して3月5日、Micron TechnologyはTSMCの前董事長(会長)であったMark Liu(劉徳音)氏を、同社の取締役に任命することを発表した。
同社の発表によると、現在、劉氏はマルチ戦略投資ファンドであるJ&M Copper Beech Venturesの創設者兼会長を務めている。この任命に先立ち、Intelはパット・ゲルシンガー氏の引退後、劉氏にCEO就任を打診していたとの噂がシリコンバレーでささやかれていた。