韓国のソウル中央地裁が2月19日、Samsung ElectronicsのDRAM製造技術を中国のDRAMメーカーCXMTに漏洩した産業技術保護法違反などの容疑でSamsungの元部長に対して懲役7年と罰金2億ウォン(約2100万円)の判決を下したほか、協力会社の社員に懲役2年6か月を宣告したと韓国メディアが報じている。
このSamsung元部長は、韓国政府が国家核心技術に指定したSamsungの18nm DRAMプロセスの情報を流出させ、CXMTのDRAM開発に転用させた疑いでソウル中央地検が身柄を拘束、起訴していた人物。捜査の結果、同氏は2016年のCXMT創業に際してSamsungからCXMTに転職、Samsung独自のALD技術など多数の重要技術を流出させたほか、その対価として数百億ウォン相当の金品を受けたとする。また、2022年には中国資本の投資を受けて中国で半導体製造装置メーカーを設立、Samsungやその協力会社の技術者を多数雇用し、各社の技術を持ち出すよう指示していたという。
ソウル地裁裁判長は、判決文にて「韓国の産業競争力に大きな悪影響を与える重大犯罪である」と述べる一方、競合企業による18nm DRAMの開発などが直接、被告らの犯罪によるものかどうかは明確でないとの理由で、求刑よりも軽い量刑(検察側の求刑はそれぞれ懲役20年と10年)となったとする。ただし、それでも韓国の技術流失事件としては過去最高の量刑となっている。
韓国の最高裁判所量刑委員会は2024年3月、国家核心技術の国外に流出させた犯罪の量刑基準を最大懲役18年に増すなど厳罰化しているが、韓国の技術流出が続いており、例えばSamsung関連では、協力会社の製造装置メーカー経由での技術流出が生じている。
日本でも起きている技術漏洩
日本でも「産業技術総合研究所(産総研)」の研究データ漏洩事件で、不正競争防止法違反(営業秘密開示)に問われた中国籍の元主任研究員に対する判決が2月25日、東京地裁で行われ、懲役2年6か月、執行猶予4年、罰金200万円(求刑懲役2年6か月、罰金200万円)が言い渡された。
被告は産総研の主任研究員だった2018年4月、営業秘密にあたるフッ素化合物の合成技術に関する研究データを妻が代表を務める中国企業にメールで送信したとして起訴された。被告は、産総研に勤務しながら多数の中国企業と関わっていたが、産総研はその実態を掴めていなかったという。
東京地裁の裁判長は「被告は妻が代表者の地位にある中国企業での実用化を目指しており、犯行は計画的かつ、巧妙で悪質である」と断じ、「高度な技能や知見を持つ海外人材の活用が重要視される中、活動の規律のあり方にも深刻な懸念が生じかねない」として事件の社会的影響の大きさも指摘している。
この問題でややこしいのは中国では、2017年に国家情報法が施行され、その第7条に「いかなる(中国の)組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助および協力を行う個人および組織を保護する」と記載されていることである。この法律は、日本ではあまり知られておらず、大学、研究所、企業での中国籍研究員や社員に対する情報管理の甘さが指摘されている。
なお、現在の日本の法律上では、営業秘密の持ち出し行為などは「不正競争防止法」の対象で、個人であれば10年以下の拘禁刑もしくは2000万円以下の罰金、法人であれば5億円以下の罰金が科せられる。